その後冒険者ギルドにて
投稿遅れてすみません。
夏場はリアルが忙しくて……。
暫くはこのペースでの投稿になると思います。申し訳ございません。
「よく立ったり歩いたりできるわね。大怪我よ? それ」
「ちょっとヘマしちゃってね」
「……何をどうヘマしたら背中が抉れるのよ。あと少し傷が深かったら致命傷になってたわよ」
ハンナさんが俺の包帯を替えながら呆れた様子でそう伝える。
確かに、今日の朝までは絶対にうつ伏せから動けなかった。ルシアが【痛覚鈍化】を入手してくれたからこそ今はまともに動けるのだ。
「本当に、無事でいてくれてよかったわ」
ハンナさんって心配性だよな。俺の左腕が無くなった時の姿を見たら発狂しそうだ。
さぁて、と呟いた直後、先程までの心配そうな態度が一変、「怒らないから正直に答えてね」と言わんばかりの雰囲気で尋ねてきた。
「どうしてこんな状態になったか、説明してくれるわよね?」
……「ね?」の部分に有無を言わさぬ迫力を感じる。
「ぅえ、えっと……はい」
振り向くと、とても爽やかな笑顔をしていたハンナさんがそこにいた……が、目が全然笑ってない。
ゴゴゴ……と謎の圧を感じ始めたので、渋々説明をした。
とはいえ、流石に「七星龍と戦った」とか言ったら問題になりかねないので、その辺りの内容は少し変更させてもらった。
「竜族に挑んだって、ファル君……無茶にも程があるわよ」
「うん、実際死にかけたしね」
謎の声さんがいなかったら絶対死んでた。感謝してもしきれないね。
『……――、――――――』
「それで何とか逃げたんだけど、その時に背中をさ」
正直、あの時何をされたのかはよく覚えてない――ルシアは噛まれたと言っていたが――。本当にギリギリで生還できた感じだし、もう二度と戦うのはゴメンだ。
「死なない程度にとは言ったけど、死ぬ寸前まで頑張るのは駄目よ」
はい終わった、と言って背中をポンと叩くハンナさん。……痛い。
「ところでファル」
「どうしたの?」
ベッドの隣で座っていたカトラさんが突然話し掛けてきた。
ハンナさんから絶対安静を言い渡されてベッドから降りれない状態なので、カトラさんが見舞いに来てくれたのだ。
「あのスライムはどうしたんだい? 随分とお前に懐いてたあれ」
あっと……完全に忘れてた。シャロンに殆ど無理矢理連れ戻された形だったし、戻ったら戻ったで気を失うしで記憶から消しとんでたよ。大丈夫かな?
『問題ありません。あの時、魔族が粘性魔物も一緒に転移させておりました。到着地点はおそらく遺跡でしょう』
間髪入れずにルシアが答える。
やっぱり高スペックだよなルシアって。俺が持ち主とか割に合わない気がしてくるよ。
「シャロン……あの魔族が俺と一緒に転移させたみたい」
「そう、なら大丈夫かな」
「なんかあったの?」
カトラさんの安心した様な表情を見てつい聞いてしまった。
だって、ライムに攻撃されてたカトラさんがライムの安否を聞いて安心するって、不自然じゃん?
「ファルが転移罠で飛ばされた後、なにか手掛かりが無いか遺跡を探索してたんだけど、その時に色々分かった事があったんだよ」
少し間を置いてから、
「どうやらあのスライムは最下層の遺跡管理者だったみたいでねぇ」
そう答えたカトラさん。
「ダンジョンマスター?」
「一階層ごとにいる遺跡の一部みたいな存在で、遺跡か古代建造物かを分ける存在でもあるのさ」
「ライムが?」
「そのライムってのがスライムの事だったらそうだね。間違いない」
『恐らく事実です。あの粘性魔物からは高密度の魔力を確認しましたし、あそこまでの知能を通常の粘性魔物が持っているとは考え難いですので』
ルシアさん? そういうのはもっと早くに教えてほしいんだけど。
スラスラとルシアの口から(剣に口なんて存在しないが)出てくる言葉につい、突っ込みを入れてしまった。
『報告する程の事でも無いと判断しましたので』
ああ言えばこう言う……。
「遺跡管理者がいないと、そこに住み着いてる魔物が復活しなくなっちまうのさ。もちろん管理者本人も」
魔物や魔獣は遺跡という空間に限って、狩猟されても一日で蘇るらしいのだが、それのパワーバランスを担っているのが遺跡管理者なのだという。
まぁ言ってしまえば階層ごとにいるボスモンスターみたいなものらしい。
「アタシ達が遺跡を攻略したって言ったけど、実は最下層の遺跡管理者にはまだ会ってなくてねぇ。今までいないものだと思ってたから驚いたよ」
確かにライムはかなり賢かったけど、まさかそんな凄いやつだったとは……。
「でも、なんでそんなやつが一階層にいたの?」
「それがアタシにも分からなくてねぇ……。普通魔物ってのは自分の縄張りから動かないものなんだよ」
『あの粘性魔物は御主人様に懐いていた様ですし、御主人様の発する魔力に惹かれたのでしょう』
「ま、今まで見付からなかったのは色んな場所を往き来してたからみたいだし、あのスライムは遺跡外で死なない限り大丈夫だから良かったよ」
遺跡と遺跡管理者の関係というのはかなり重要で、トランプを使って作るタワーの様な存在なので、一体でも欠けると遺跡はただの古代建造物と化してしまうのだ。
「ライムって、凄い存在だったんだなぁ」
ぷにぷにの感触を思い出しながら、ライムの凄さを思い知った瞬間であった。
その夜
少なくとも数週間は動くな。とハンナさんに念を押されて、やむなくギルドの医務室で寝転がっている。
……暇だ。
「そういえばさ」
『どうしました御主人様?』
ふと、あることを思い出してルシアに話し掛ける。
「俺達で手に入れた転移用の魔力、どうする?」
あと一歩で死ぬとかいう場面で手に入れたが、シャロンの登場で使い道が無くなってしまった魔力についてだ。
ちなみに溜め込んだ魔力は使わずに保管してある。
『そうですね……もしもの時の保険としておくのが最適でしょう。また同じ事が起きないとは断言出来ませんし』
「まあそれが普通だわな「おい」ひゃっ!?」
ルシアの提案に頷いていると、突然隣から声を掛けられて飛び上がってしまった。
……結構恥ずかしい。
「あっと……驚かせちまったか?」
申し訳なさそうにしているのは、腹部と左目に傷を負っていて、包帯を巻いている中年の男性だった。
寝てるのは俺だけじゃないんだったな……完全に忘れてた。
「1人で誰かと話してるもんでな、ちょっと気になっちまった。お前さんあれだろ? 『子供冒険者』とかいう」
俺の事を、シャロンと同じように呼び名で知っているのだろう男性。
「うん、いつの間にそんな名前が広がったのかは知らないけど」
「お前さんとは初めて会ったが、この辺りじゃかなり有名だぞ? なんでもザキを倒したんだってな」
ベッドに腰を掛けて興味深めに俺を見る男性だが、左目を覆う包帯から血が滲み出ている……。
「もしかして、目を?」
「ん? いや、目はもとからだ」
頭を強く打っちまったみたいでな。と包帯を外して怪我の部分を見せてくれた……。見せなくていいのに。
血は、こめかみ近くの側頭部から出ていたもので、傷口がパックリと割れている……。
「目の方は昔ちょっとな」
「へぇ」
何故か名前は教えてくれなかった。
『【痛覚鈍化】は彼から入手しました。それと本名は(あ、それはいい)了解です』
名前を伏せているという事は、それなりの理由があるという事なのだろう。
「で、誰と話してたんだ?」
「……見えない誰か?」
剣と話してましたなんて絶対に言えないので速攻で考えた言い訳だったが、見えない誰かと話してたとかかなりヤベェ奴みたいになっちゃったな。
男性が、俺の返答に少し考え込んでいる……本当に信じているのだろうか?
「見えない誰か……か。精霊の類いだな」
「精霊?」
「なんだ、知らないのか? ……ああ、生まれつきか。精霊ってのはな」
そう言って男性は精霊について説明を始めた。
「一言で言うと『属性が意思を持った存在』だな」
この世界にある七つの属性は、七匹の龍とそれに属す精霊という存在によって均衡を保たれている……という。
この精霊というのは今の説明の通り七匹の龍――七星龍の事だろう――の眷属として七属性を管理している、それぞれの属性から生まれた妖精の類いらしい。
……途中から分からなくなったが、つまりはビンに入れて持ち歩けるアレっていう事でいいのだろう。
「精霊は属性そのものって言われてて、殆どの生物には見えないと言われてる」
「(……程よく勘違いしてくれてるけど、それでいいか)じゃあ俺が話してたのはその精霊ってやつなんだな」
本人も納得してくれているし、変に話を曲げるよりかはこのまま勘違いしてくれた方がこっちにも都合がいいだろう。と思い適当に話を合わせた。
その後も俺の背中の怪我はどうしたのか、何故冒険者になろうと思ったのか等、他愛のない質問をされてそれを答える……という事を繰り返していた。
まぁ別に答えて困る事でも無かったし、丁度いい暇潰しにもなったから良いか。
「その歳で色々やってきたんだな」
「その結果今に至る訳だけど……」
どうやら背中の怪我は俺が思ってるより深いらしい。話の成り行きで男性に傷口を見せ返したら、とても気の毒そうな顔をされた。
そして、ふとこんな提案をされる。
「いっそのこと王国で働くってのはどうだ? ザキに勝ったって事は相当に腕が立つんだろうし、その怪我じゃ今後冒険者としてやっていくのも辛くなると思うからな」
勧誘かな? っていう事はこの人、王国に仕えてるのか。
でも待てよ……。ザキさんは今の王国を嫌ってたし、冒険者ギルドとの仲はかなり悪いって聞いたけど、そうだとしたら何でこの人はこの場所で寝ているのだろうか?
『推測ですが、御主人様の存在を聞き付けてギルドに潜入したのでしょう。【痛覚鈍化】を所持していた事から、自ら怪我を負うことで『冒険者として』今この場所にいるのでは?』
うわぁ……仮にそうだとしたら、体張ってるとかいうレベルじゃないんだけど。
確信を得る為に、こんな質問をしてみる事にした。
「王国に勧誘って事は、そっちで働いてる人?」
「やっぱこう言うとバレちまうか」
……ルシアの予想は的中したみたいだ。
「なんでこんな所に?」
「……詳しい事は言えねぇが、お前さんの存在にお偉いさんが興味津々でな」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う男性。彼自身も好きでやってる訳では無いのだろう。
「悪いけど俺は冒険者を辞めるつもりも、王国で働くつもりも無いよ」
というか冒険者始めてまだ数日なのに、もう辞めるとか絶対嫌だから。
「だよな」
苦笑混じりで男性がそう呟いた。
俺の答えは予想済みだったのだろう。しかし、俺の答えを聞いた男性が安心したような表情だったので、逆に心配になってしまった。
「そこは残念そうにする所じゃないの?」
「いや、寧ろ安心した。お偉いさんの勧誘を否定してくれてな」
ん? なんかこの人が言ってる事に違和感を感じるぞ。
この人のいう『お偉いさん』というのは十中八九国王の事だろう。そんな人物の命令を果たせませんでした、で困るのはこの人なのではないか?
「じゃ、俺は寝る」
「え、ちょっ」
「今回はいい情報も手に入ったしな。感謝する」
それだけ言って鼾をかき始めた男性。翌日起きると男性は居なくなっていて、……椅子にシャロンが座って寝ていた。
オマケ
ビンに入れて持ち歩けるアレ
作者はしょっちゅう死ぬので沢山持ち歩きます。