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転移罠

  いつもより早い時間に起床した俺。あの後ルシアが開発した『麻痺周波』によって眠りに就いたのだが、明日が楽しみ、というのは変わらずだったので、日が昇り始めた頃(4時位)に起きたのだ。

  しかし、早く起きすぎたが為にやることが無い。


「……ルシアでも振ってるかな」


  という訳で外に出て適当に(ルシア)を振る事にした。

  ルシアと模擬戦闘とかでも良いんだが、端から見ると一人で何やってんだという話で……悲しくなってくるので、あまり人目に付く所ではやりたくないのだ。


御主人様(マスター)、今の横薙ぎの時、踏み込む足の位置を拳二つ分短くしますと力の入り方が違うと思いますよ』


(ん、了解)


  俺の(分体)振りを見たルシアが、体の動きにある癖や問題点を指摘する。

  こういう面だと優秀なんだけど、ちょっと変な所があるからなぁ……。




  ルシアが風属性魔法で巻き上げた木葉を剣の腹で叩き落とす……そんな事を繰り返していたら、いつの間にか一時間が経過していた。

  ハンナさんを起こしたり朝食を作ったりするにはまだ時間が余っていたが、たまには何もしないでボーッとする時間があっても良いだろう。


『風属性魔法で霧状にした水で体表を覆うと体温の冷きゃ「ちょっと前にそれやって全身水浸しになったろ、却下」……むぅ』





  椅子に腰掛けて口笛を吹きながら、布でルシアを拭いている。……別に『吹く』と『拭く』を掛けた訳ではない。


「……おはよう、今日も早いわね」


  ハンナさんが起きてきた。彼女は朝だけは低血圧気味らしく、普段から起きたばかりだと若干フラフラした足取りで歩いている。

  それでも毎日同じ時間に起きるのは流石と言えよう。


「今から作るから、取り敢えず身なりを整えて椅子に座ってて」


「……そうさせてもらうわ」


  フラ~、と重い足取りで部屋に戻ったハンナさん。あと数分もすればいつもと同じ状態まで回復するので、俺も自分の仕事(朝食作り)を始めても問題ないだろう。






  朝食を終え、冒険者ギルドの受付酒場に向かった俺とハンナさん。それぞれ別の入り口から入っていくが、俺は今日から冒険者なので、例外がない限り職員口から入る事ができないのだ。


「お、来たか」


「二人共、今日は凄い早いんだね」


  扉を開けると、普段絶対にこの時間帯は居ないだろうカトラさんが、ザキさんと二人で駄弁っていた。


「今日からなんだろ? どうせ初めてだろうし、アタシが直接冒険者としてのイロハを教えてやろうかなってね」


「え、良いの?」


  分からない事が多いし、俺的には願ったりかなったりなんだけど、


「ここ最近、アタシ的にやり甲斐のある依頼がなくてねぇ。適当にその辺にいる魔物やら魔獣やらを狩って素材を売ったりしてたけど、正直暇だったんだよ。と、言うわけでお前さんの依頼に同行するよ」


  あ、うん……暇潰しだったんだ。まぁ嬉しいけどさ。




「そこに貼ってある依頼の中から好きなのを選んで。書いてある星のマークが三つまでの依頼なら受けられるわよ」


  いつの間にか受付に立っていたハンナさんが指差した方向にある……看板――クエストボードというらしい――には、様々な依頼が貼ってあった。


「え~と……『ごぶりん』の討伐と『だんじょん』の探索が今の俺が受注できる依頼なのか」


  まだ字は覚えたてなので読むのに苦労するが、読めないよりかはマシだろう。


「……採集はカウントしないのね」


「当然! チマチマしたやつよりもぱっぱと終わるようなやつの方が良いに決まってる! だろ?」


  カトラさんが先に答えたが、ぶっちゃけ俺も同じ意見だ。

  そうじゃなくても二週間近く待ちわびた冒険者、最初くらいは採集抜きで依頼を受けても良いだろう。


「このダンジョンってやつは、文字通りの?」


「お前が思ってるのかどうかは知らんが、一応遺跡(ダンジョン)だ。既に踏破済みだから、どっちかというと初心者の腕試しに使われる事が多いな」


「じゃあこっちで……。あぅ、届かない……」


「……妙な所で可愛いねぇ」


  可愛い言うな。そして身長の問題はどうしようもないだろ、子供なんだし。

  と、心の中で文句を言うが、どう頑張っても紙に届かなかったので、苦笑顔のカトラさんに取ってもらった。

  うぅ……子供の体が恨めしい。


「はい、……遺跡(ダンジョン)の探索ですね。じゃあ冒険証(ライセンス)を貸してね」


  言われた通りに冒険証(ライセンス)を渡した。すると、装飾の施された台座に俺の冒険証(ライセンス)をかざした。

  すると台座がぱぁ……と淡い光を放った。


「これでファル君と同行者……ここでは先輩以外、同じ依頼は重複出来なくなったわ。と言っても、遺跡(ダンジョン)は冒険者なら誰でも入れるから、同じ依頼が受けられないってだけで遺跡ダンジョンに行く事はできるわ」


「へぇ……」


  やっぱり凄いな異世界。魔法で前世のハイテクを再現してらっしゃるよ。


「いくら初心者様の遺跡(ダンジョン)といっても、年に数人は亡くなってる位には危険だから、まぁ死なない程度に頑張りなさいね」


  ハンナさんから応援の言葉を貰い、カトラさんと共に出発した。







  正午の受付酒場


「……はぁ」


「どうした? 元気ないみたいじゃねぇか?」


  ファル君が開発した『バターパテラ』を摘まみながらエールを飲んでいる教官……昼時から飲んで大丈夫なのだろうか。


「いえ、ファル君はしっかりやってるかどうか、と」


「二週間ちょっとですっかり親子だな。最初なんて即答で『無理だと思います』とか言ってたのが、今じゃ『私は別に良いですよ』だもんよ」


「お、親子ではありませんよ。まぁ……可愛いですし欲しいなと思ったのは事実ですが……」


  教官のおちょくりに反応してしまった私……だって私、親子なんて柄じゃあ無いし……。


「心配する必要はねぇと思うぞ? あの依頼の遺跡(ダンジョン)って、この国のすぐ近くじゃねぇか。それにカトラの野郎が一緒にいるしな。あの小僧「ザキ! ちょっと、いや早く来てくれ! 大変だ!」カトラ!? お前、小僧はどうした!」


  バンッ! と扉を勢いよく開けた先輩が、とても焦った様子で教官の腕を引く。


「そのファルについてだ! いいから来てくれ!」


「え、先輩! ファル君になにかあったんですか!?」


転移罠(ワープトラップ)だ! それも長距離無差別型の!」


  カトラさんの声を何処か遠くで聞きながら、私は遺跡(ダンジョン)に走っていた。







  ……どうしてこうなった。


  今現在俺は、竹林の中にいた。

  あれ? 俺ってカトラさんと遺跡(ダンジョン)の探索に来たんじゃなかったっけ? なんでこんなところにいるんだろうか……。




  ――少し前


「ここが遺跡(ダンジョン)……」


「結構広いだろ」


  巨大な石造りの建物を前にした俺の感想に笑って返すカトラさんは、少し誇らしそうにしている。


『……蟻の巣の様に地下に広がっていますね。五階層といった所でしょう』


  まだ入り口を見ただけなのに建物の広さが分かってしまうルシア……。


「実はな、この遺跡(ダンジョン)を最初に踏破したの、アタシ達のパーティーなんだよ」


  今から20年も前の話だけどな、と付け足したカトラさん。自分の年齢が確実に30代後半以降だって言ってるようなものなのだが、彼女にとっては些細な事なのだろう。




「おぉー、中もダンジョンって感じがする」


  遺跡(ダンジョン)なんだから当然なのだが、やはり異世界にいるんだな、と実感と共に興奮が沸いているのだ。




「お、早速か。スライムって見たことあるかい?」


  遠くに何かを見つけたらしいカトラさんが、スライムについて聞いてきた。

  スライムっていえばあれでしょ? クリクリ目玉のニッコリぷにゅぷにゅ……。




「……スライム?」


「スライム。その反応だと初めてみたいだね」


  俺達の目の前でぷにゅぷにゅしている物体は、自身のイメージとは随分とかけ離れたもので、目玉も口も無く、ゼラチン豊富なゼリーが意思を持って動いてるみたいだ。


  え……なにこれ可愛い。すげぇ触りたいんだけど。



「……あー、あんまり触らない方が良いぞ。そいつの体、強酸性だから」


  慌てて伸ばしかけた手を引っ込める。

  というか、目の前まで来てるっていうのにプルプルしてるだけで何もしてこない。


  ……と、スライムが突然俺の手に飛び付いてきた。

  強酸……というのをカトラさんから聞いたばかりだったので、思わず身構えたのだが……。



  ぷにゅん……。


「ファル! 大丈夫……っぽいな」


「え、これ凄い柔らかいんだけど……」


  ご自由にお使い下さいと言わんばかりに飛び付いてきたスライムは、触っても何とも無いし、むしろ癒される。


「あれ? おかしいな……体当たりで獲物を溶かす魔物の筈なんだけどねぇ……」


  溶かすって……全然俺平気だぜ? ルシアがなんかやったのかな?


『いえ、このスライムから敵意を感じなかったので』


「ねぇ、スライムって敵意の有無で体の性質が変わったりするの?」


「知らないよ。そもそも、スライムに意思があるのかすら分からないし、調べようが無い」


  カトラさんは魔物の生態には詳しくないらしく、首を傾げている。


「でも、俺は普通に触れてるし、このスライムも俺を攻撃してこない……(とはいえ【万物吸収】とか発動してないし)何なんだろう」


「う~ん、今度ハンナに調べてもらうか。けど、もしこれでスライムが体の特性を変化可能とかだったら、結構な発見だねぇ」


  入り口付近で話してるのもどうかと思ったので、取り敢えず遺跡(ダンジョン)の内部に足を運んだ。勿論スライムは抱き抱えている。

  ……前世でも昔からこうぷにゅぷにゅとかもふもふとした物が好きだったな。




「……所で、そのスライムはいつまで持ってるつもりだい? アタシが触ろうとすると体当たりかましてくるし、凄い気になるんだけど」


  先程からカトラさんもスライムを触ろうとしているのだが、どういうわけか俺の腕から抜け出してまでカトラさんに体当たりをしてくる。

  懐かれたのかな?


「まぁ別にそれは良いんだが、何でコイツ以外の魔物に遭遇しないんだろうねぇ」


  普段は遺跡(ダンジョン)に入った直後でも2、3匹は魔物が徘徊していて、全て討伐したとしても次の日には遺跡(ダンジョン)ごとリセットされるので、こんなに魔物が出現しないのは初めての事なんだとか。


「そんでもってこの得体の知れないスライムだろ? 全く……ここもどうしちゃったものか」


「俺はここに来たの初めてだし、そこまで凄い変化なのかは分からな『御主人様(マスター)、この道を52メートル進んだ先の壁に隠し通路です』」


  【神察眼】の熱源探知で隠し通路の存在を認めたルシアが、俺にそう報告する。

  さっきからルシアには、この遺跡(ダンジョン)(トラップ)を見つけてもらっているので、結構助かっている。


「こっちに隠し通路があるみたい」


「へぇ、この遺跡(ダンジョン)に隠し通路なんてあったんだ……というかどうやって隠し通路とか見付けたのさ?」


「えと……勘?」


  流石に「ルシアが見付けました」なんて言えないし、適当にはぐらかして事なきを得たのだが……物凄い疑惑の目で見られた。






「……本当にあったんだねぇ」


  ルシアが言っていた場所に到着した俺達。壁以外何も無かったのでルシアがなんかミスしたのか? なんて思っていると、カトラさんが装備している大剣で壁を切り裂いた。

  すると何という事だろうか、破壊された壁の奥に空洞が現れたのだ。

  ハンナさん曰く「隠し通路は普通壁で隠されてるものだからぶっ壊せば分かるが、見付けるのは本当に稀」らしい。

  成る程、だから壁を壊したのか。


「なんか、アンタと来た瞬間から驚きの連続なんだけど……」


「取り敢えず行こうよ」





  隠し通路の先は小さな小部屋になっていて、奥には明らかに罠っぽい宝箱があった。


「罠、だよね?」


「だな。ちょっと試してみるか」


  言うが早いか腰に差している短剣を引き抜いて宝箱に投げ付けた。


「ギャァァァ!」


  短剣が深々と突き刺さった瞬間、甲高い悲鳴と共に中から小人が這い出てきた。


『あれは小鬼族(ゴブリン)です。宝箱の中に潜んで、開けた冒険者を襲おうとしたのでしょう』


  思わずビクッと身構えてしまったが、這い出てきた小鬼族(ゴブリン)はそのまま地面に倒れて息絶えた。よく見ると胸にカトラさんが投げた短剣が突き刺さっている。


「なんだ、擬態箱(ミミック)だと思って警戒したアタシが馬鹿だった」


  そう言ったカトラさんは宝箱の所まで歩いていき、小鬼族(ゴブリン)の胸に刺さった短剣を引き抜いて腰に差した。


「ほら、アンタが開ければいい」


  これ以上罠が無い事を確認したカトラさんが、俺に宝箱を開ける様に促した。

  え? でも罠を解除(?)したのはカトラさんだし、と言おうとしたのだが、カトラさんの言葉に遮られた。


「この部屋を見付けたのはアンタの手柄だからね。アンタに開ける権利があるさ」


  ホレホレ、と急かすカトラさん。

  まぁ中身は俺も気になるし、と短剣が刺さった時に出来た傷のある宝箱をガチャッと開けた瞬間――。




御主人様(マスター)転移罠(ワープトラップ)です!』


「なっ……!?」


「えっ?」


  ルシアとカトラさんの驚いた様な叫びと、俺の間の抜けた声が響き渡り、宝箱を開けた俺はどこかに飛ばされた。



「ああ糞っ! 二重(トラップ)だったのか! しかもこれ……くっ!」


  すぐさま自分では対処不可能と判断したカトラは、ザキやハンナの待つギルドに走って戻った。






「さてどうしようか。ルシアはどうすればいいと思う?」


『先程我々を強制的に転移させた(トラップ)の解析を行っています。もう少々お待ち下さい』


  あの宝箱は開けた人物をランダムに転移(ワープ)させる罠だった、というのは分かったらしいが、作りが分からないらしい。

  とはいえ、確かに転移したのは驚いたが、考えてても仕方ないだろう。



  しかし、見渡す限りの竹竹竹……ちょっと(たけのこ)持ち帰ろうかな。

  筍を掘って【多次元収納】に収納する。ライム(たった今命名)はその辺をピョンピョンと跳ねている。

 



  ガサッ……


「ん?」


  掘っている途中、音のする方向を向くとそこには、白銀色の体毛に覆われたけ小さな狐が俺を見ていた。

オマケ



私は遺跡に走っていた。




「ファルちゃんが!? 私も行かなきゃ!」


「ま、待って下さい! ハンナ先輩だけでなくリーリャ先輩まで行っちゃったら、ギルドが機能しなくなります!」


「それでも行くの! は~な~し~て~!」


「ぐにに……だ~め~で~す~!」


受付の後輩の働きで、なんとかギルドは普段と同じ状態を保ったとさ。




クリクリ目玉のニッコリぷにゅぷにゅ……。


一回で良いから触りたいものです。

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