生(性)転換
動けない俺、目の前からは猛スピードで突っ込んでくるトラック……。
「……トラック!?」
そこで俺の意識は覚醒した。
しかし起きたばかりで五感の感覚が鈍い。キーンと耳鳴りがする。
ってあれ? 俺って、死ななかったっけ?
「此処は……ふぇっ!?」
だんだんと視覚が回復した俺は、目の前に広がる光景に、情けない声を上げてしまった。
見渡す限りに生い茂る木々……俺は今、森のなかにいるみたいだ。
っていやいや、そうじゃなくて!
つい今さっき、俺はトラックに轢かれて死んだ筈だぞ!?
その時の事も鮮明に思い出せるし、夢にしては現実味がありすぎる。
「どうなってんだ一体……、え?」
気持ちの整理が出来ていない俺は、たった今自分で発した声に絶句した。
子供……の声?
俺自身が小学生……下手したらそれ以下の年齢の子供の声を発している、だと!?
慌てて立ち上がる、すると視界にすら違和感を感じた。普段よりも地面が近い……、背丈すら子供になっている。
どういう事だ!? そう叫びたい気持ちをグッと抑えて頭を抱えると、指先に何かが当たった。
嫌な予感がしたが、意を決して頭を触った。すると再び指先に何か硬い物体が当たるのが分かる。
指先に当たる物体を、指先で伝っていく。するとそれは、俺自身の頭から生えている事が分かった。
「うっ……」
驚きのあまり、ふらつく体を落ち着かせようと座り込む。
すると、追撃と言わんばかりに、尻の辺りから今まで経験したことのない感覚が……。
よ、よし落ち着こう……クール、そう冷静になるんだ……ふぅ。
落ち着いた俺は、一通り自分の体を調べた。
まず頭、とりあえずは何かが生えている、と言っておこう。
そして尻、腰と尻の中間あたりから長い何かが生えている。
トドメなのだろうか? 下の方に存在していた、長年付き添ってきた友、男の象徴が消えていた。
認めたくない、認めたくはない……が、事実なので受け入れなければならないのだろう。
俺は、角と尻尾が生えた女の子に転生してしまったみたいだ。
「……マジかよ」
……うん、あれこれ騒いでも、戻らないもんは仕方がないな。自分の体に馴れるのも兼ねて、そこら辺を散策しようかな。
「―――!? ―――――!」
「…あれ、何か聞こえた? ……気のせいか」
―――森の中を歩き回って一時間。3つ程収穫があった。
一つ目は、この土地が異世界だと確信したことだ。いや、角とか尻尾が生えた人がいる時点で、既に此処が地球ではないっていう事は分かってたんだけどさ、手のひらサイズの象とか、俺の身長を遥かに越えるタンポポを見て確信したよ。
二つ目は、この森に無数に存在する植物が万能だ、という事が分かった事だろう。
普通に食べれる木の実があるのはいざ知らず、剥いだ皮がナイフみたいに鋭い木とか、葉が布みたいな素材の巨大な花とか……。
どういう理屈かは知らないが、乳児期と幼児期を飛ばして、少女としてこの世界に転生した俺は、一糸纏わぬ姿で先程から歩いていたのだ。人がいないとはいえ、流石にそのままはまずかったから助かった。
今は加工する暇も無いので、そのまま身に纏っている。
そして最後の一つは――。
「遺跡……だな」
蔦が絡まり放題の、そこまで大きくはないが立派な遺跡を見つけたのだ。