冒険者に……
投稿遅れてすいません
久し振りにカトラ先輩がギルドに顔を見せたと思ったら子供を連れてきて、仕事熱心なザキ教官が仕事を後回しにしたりと、いつもとは違う1日だったが……、
「……どうして私の家に君がいるんだったっけな?」
「ええっと……俺に聞く?」
カトラ先輩が連れてきた子供は冒険者希望で、なんとザキ教官と戦って勝利を勝ち取り、そのままの勢いで冒険者になったという。
私はどうしてもこの子を疑惑の目で見てしまう。
正規の方法で冒険者という仕事を得るには、様々な試験が必要となる。
冒険者というのは十人十色、それぞれが目的も手段も違う。『冒険者』の名の通り森や山、魔酸素が豊富な土地へ赴いて魔物や魔獣を狩って得た素材を売って生計を立てる者もいれば、町の人々が出す依頼――大抵が素材の納品や人探し――を受けて行動する者……。魔法や研究等で新たな発見を求める者までいる。
しかし、そんな冒険者に絶対に必要なものがある。
知識だ。冒険に出る者は獲物を狩る為に使う道具を知る必要がある。町の依頼を受ける者は人と接する事の多いので、コミュニケーションや交渉の能力が必要になるし、研究に心血を注ぐ者だとしても、必要な物資、必要な人材、必要な……その他諸々。必ずとも何らかの知識が無ければ冒険者なんてやってはいられないのだ。
当然字の読み書きが出来なければ冒険者になんてなれない。
依頼を受けるに当たって字が読めなかったら?
危険な依頼だと知らずに受けて命を落とす事だってある。
私の知る限り字の読み書きができる子供なんて見た事が無い。まあ子供とふれあう事自体滅多に無いが……。
つまり何が言いたいのかというと、今私の家の中をキョロキョロと物珍しそうに眺めているこの可愛……不思議な子供は、冒険者になる為に必要な知識と字の読み書き、更には私ですら一撃を与えられた者を見た事が無いザキ教官に勝負で勝って冒険者になったというのだ。
信じられるだろうか? 普通ならまだ親離れなんて程遠い年齢なのに、である。
……と、話が脇道に逸れてしまいました。
話を戻そう。仕事の終わった私はいつも通り家に帰ったのだが、色々あってこの子供を暫く預かる事になったのだ。
これからその経緯を話そうと思う。
ザキ教官が子供を連れて訓練所に向かったのを見送って普段の仕事をこなしていると、
「なあハンナちゃんよ。あの鬼教官、何て言ったらあんな子供みたくはしゃぐんだ?」
「私はただベルクという人物に関係する人が来ていると言っただけですし……教官の昔の友人なのでは? それとちゃん付けはよして下さい」
私達のやり取りを見ていたベテラン層の冒険者の問いにそう答えながらあの子供の事を考えていた。
やはり冒険者になるって事は、ザキ教官にその主旨を話したということはその名の通りの冒険者を目指しているという事。そうなればザキ教官の試験をクリアしなければいけない……、
「あのぅ先輩? 前の方で人が詰まっていますが……」
「へ? ああごめんなさい。ちょっと考え事してたわ」
それから暫く
お昼時になり冒険者も多くなってギルドが忙しくなり始めた頃、カトラ先輩とザキ教官、それと少し服が焦げた子供が戻ってきた。
朝からギルドで駄弁っていた冒険者達は子供が戻ってきたのを確認した瞬間、興味津々といった様子で子供に話を聞いていた。
教官の試験はどうだったか、服の焦げはどうしたのか、等が殆どだった。
と、教官が一枚の紙を私に渡してきた。
「おうハンナ、ほれ」
「ザキ教官、やっと戻っ……この紙はなんですか?」
「? 見ての通りあの小僧の認定証だ「あの子、教官に勝ったんですか!?」うぐぉぁ耳がぁ!」
私の声に、耳を押さえて悶絶している教官を除いた全員が振り向いた。
物凄く恥ずかしい状況だったが、悶絶している教官の代わりにカトラ先輩から詳しく事情を聞いた。
「今耳を押さえて蹲ってる奴が言ってた通りだよ。アタシも驚いてるんだが、本当にこの子はザキを倒しちまってな」
珍しく苦笑いで答える先輩を見て、本当の事だと納得せざるを得なくなった。
つい本人にすら聞いてしまった程だ。
「ザキ……教官? の試験をクリアしたら――」
「それは本当か!?」
「教官の試験内容はなんだったんだ?」
「馬鹿、教官が戦闘以外で試験なんてやるわけ無いだろうが。……って事は小僧、お前教官を倒したのか!?」
「うぁ……え、え~と?」
男達に引っ張られ、あらゆる方向から言い寄られて困惑している子供。
……正直見ていて和むが、早くも復活した教官が他の冒険者を黙らせた後、子供を回収してギルドの待合室に入っていった。
それから更に数分後の事。
再び戻ってきた三人は私の所に来てこう言ったのだ。
「あー、ハンナ? できたらでいいんだけど、この子を暫く見てくれない?」
「……は? っと、間違えました……え?」
「……言い直す必要あったか?」
若干呆れた口調で私にそう突っ込んだカトラ先輩。
ってそうじゃなくて、私この子の面倒を見ろと? 子供とふれあった事なんて数える程も無い私に?
見ると、本人も「え?」みたいな表情をしていた。この子も聞いていなかったのだろう。
「無理だと思いま「頑張れ」……」
私の言葉を、有無を言わさず無かった事にする教官……。
「別に宿で寝る位の金ならあ「コイツ、ベルクの奴と別れて今は一人なんだよ」……」
子供の言葉を遮って教官が説明を始めた。
「俺かカトラが預かっても良いんだが……ちょっとな」
「いやだから「アタシ等がガキの面倒を見れると思うか?」……うぅ」
話を遮られて少し涙目になり始めた子供。可愛い……そうなのだが、この子が決めたり考えたりした事では無い事が判った。
「コイツの冒険証が出来上がるまでで良いからよ」
「所で、何で私が……って、そういう事ですね……分かりました。一、二週間といった所でしょう」
子供の面倒を見るなんて初めてですが、今後の練習も兼ねてやってみるとしましょう。
「おう、助かる」
「俺の意見……無視?」
そんな感じで私はこの子……ファル君を暫く家に置いておく事になったのだ。
「……どうして私の家に君がいるんだったっけな?」
「ええっと……俺に聞く?」
それは俺も聞きたい事なんだよ。くそぅ、なんでこうなったんだ?
俺がザキさんとの戦いで勝った後、あの男三人が「俺を弟子にしてくれ!」と言わんばかりの勢いで俺に迫ってきたり、知らない男達が「俺等のパーティーに入ってくれ!」やら「何を言う! この子供は我々の所に入団したいに決まっている」とか勝手な事を言っては口論になって、結構散々な目にあった。
「ほらお前ら! 見せ物じゃないんだ、さっさとどきな!」
……やっぱり冒険者目指すの早かったのかな、肉体年齢的に。
その後、ザキさんの仕事部屋(デスクワーク用の)に避難したのだが、その時になんか色々書類を書いてもらって、晴れて正式に冒険者となったのだ。
「よし、これでお前は冒険者になる……が、冒険者として仕事が出来るようになるにはもう少し、そうだな……二週間っつった所か」
「どうして?」
「依頼を受ける為には『冒険証』ってのが必要なんだが、それを作ってもらうためにこれを本部に提出しなきゃならねぇんだよ。んで、それに掛かる期間が二週間ちょいって事だ」
という事らしい。
本部という事は、この(異世界では)馬鹿みたいにデカイ建物ですら支部って事?
「んでもってこれは、ギルドの受付に渡さなきゃな。カトラ、最初に俺を呼んだあの小娘、名前なんだったっけ?」
「一応アンタの扱きを受けた一人なんだけどねぇ……。ハンナっていう名前だよ」
「ケッ、俺が此処で何人ヒヨッコ共を見てきたと思ってんだ。まあ今思い出したけどよ」
羊皮紙を手に「よし、じゃあ行くか」と言って部屋から出たザキさん。
さっきから立ちっぱなしなので、どこかで腰を落ち着けたいな、なんて思ったりしてるが、まずは俺の事を終わらせるのが先だろう。
迷路みたいな通路を抜けて俺が最初に来た場所(後で聞いたのだが受付酒場というらしい)に戻った。
いつの間にか人で溢れかえっており、ザワザワと賑やかになっていた。
給事の人とか大変だろうな。
「お、噂をすればさっきの坊主。教官の扱きはどうだったか?」
「服が焦げちまってるじゃねぇか。どうしたんだ?」
俺の姿を確認した途端、俺がザキさんに会った時に小声で話していた男達がやって来て、俺にそう聞いてきた。
ああそれは、と口を開いた瞬間、
「あの子、教官に勝ったんですか!?」
「うぐぉぁ耳がぁ!」
カトラさんが『ハンナ』と言っていた受付の女性が、突如大声でそう叫んだのだ。
耳元で聞いたのか、真下でザキさんが蹲っている。
「あ、う、えっと……本当ですか先輩?」
「今耳を押さえて蹲ってる奴が言ってた通りだよ。アタシも驚いてるんだが、本当にこの子はザキを倒しちまってな」
「本当なの?」
信じられない、といった表情で当の本人である俺にそう尋ねたハンナ。少し混乱してるみたいだ。
とはいえ、俺も同じ答えしか返せないので少し詳しく答えた。
「ザキ……教官? の試験をクリアしたら――」
……訂正、答えようとした。
腕を引っ張られたと思ったら男達の中心に立たされ、色々聞かれた上にもみくちゃにされた。
一度にたくさんの事を聞かれたので、ちょっと整理が出来ていない状態である。
『一纏めにして要約すると、「ザキ教官を倒して冒険者になったのは本当か?」です。先程と返答は同じで問題ないと思います』
ルシアが男達の話を簡単にしてくれたが、話題がほぼ同じなので……、なんて答えればいいのか。
軽くしどろもどろになる俺だったが、復活したザキさんに抱えられて脱出(?)をした。
「あー、耳が痛てぇ……」
「いいザマじゃないか」
五月蝿い空間では出来る事も出来ないとザキさんが、待合室まで俺を運んだ。
……途中米俵みたいに運搬されてた俺の事気持ちが分かるかな?
「しっかし冒険者になるのが子供だと、どうしてこうも無駄に時間が掛かるのかねぇ。やっぱ珍しいから?」
「俺に勝ったからじゃねぇか?」
コキコキと肩を回しながらカトラさんが呟いた言葉に、今も尚耳をいじっていたザキさんが答えた。
「そこまで凄い事だったりするの?」
少し疑問に思った俺がそう聞くと、二人はえ? みたいな顔をした直後、盛大に笑いだした。
「ぶははは! ベルクの野郎が目を付ける訳だ!」
盛大に笑いだしたザキさん。どうして笑っているのかイマイチ理解出来ないので、
「でもだって、俺と戦った時本気じゃ無かったでしょ? だから……」
「お前は本当に大物だな! コイツはな、手加減はしても絶対に勝ちにいく奴なんだよ。しかもコイツは冒険者を引退する前は『殴滅』って呼ばれるほど近接戦闘に長けてるんだよ。そんな奴に勝ちを奪うってのは凄い事なんだぞ?」
「勝ち方に不満があるのかも知れないが、勝ちは勝ちだ。素直に喜んどけ」
そう言ってザキさんが俺の頭をワシャワシャと撫でた。なんというか……痛い。
「ちょっと時間を潰してからもう一回酒場に戻るぞ」
「っていう事で戻ってきたけど、他に何かあるの?」
「おう、ちょっとお前の住む場所をな」
「成る程、住む場所を……え?」
「ほら、お前ちょっと前までベルクの野郎んとこで世話になってたんだろ? だがアイツはもうこの国にはいない。お前は何処で寝るつもりだったんだ?」
「いや、宿ならお金があるか「お、よし小僧行くぞ」いや、だから」
向かった先はギルドの受付口。カトラさんがハンナと話をしている。
……内容は言わずもがな俺の寝る場所に関してだった。
「別に宿で寝る位の金ならあ「コイツ、ベルクの奴と別れて今は一人なんだよ」……」
俺とハンナの言葉をことごとくスルーするカトラ。
「俺かカトラが預かっても良いんだが……ちょっとな」
「いやだから「アタシ等がガキの面倒を見れると思うか?」……うぅ」
……最早、無理矢理にでも俺の寝る場所を作ってる気がする。
俺が喋ってる事を聞こうともしないし、ちょっと泣きそう……。
「コイツの冒険証が出来上がるまでで良いからよ」
「所で、何で私が……って、そういう事ですね……分かりました。一、二週間といった所でしょう」
「おう、助かる」
本人を無視してどんどん話が進んでいく……。
「俺の意見……無視?」
そんな感じで、俺はハンナの家にお世話になることになったのだ。
「えっと……宜しくお願いします……?」
「ええ。といってもやることはしっかりやってもらうし、此処でのルールは守ってもらうわよ」
ハンナ……さんの住む家は、少し広めのアパートみたいな部屋だった。
「今日はもう遅いし、明日から色々……ギルドの関係も含めて手伝ってもらうわね」
そう言って早々に毛皮のシーツを被ったハンナさん。
俺も空いている所で寝ようとしたが、ハンナさんに引きずり込まれてそのまま抱き枕の状態になった。
……俺は抱き枕に転生したんだったっけ?
『―――……』
かなり久し振りな気がする謎の声を聞きながら、夢の中に落ちていく俺だった。