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天才少女の鬱憤

「それでは…試験開始!」


 学園長がそう合図した直後、特大サイズの炎球が守護人形(ゴーレム)の全身を包んだ。

 全ての守護人形(ゴーレム)に対して放たれたそれは、凄まじい熱風と煙を撒き散らし、会場の半分を火の海へと変えた。


 一瞬の出来事に、会場が静寂に包まれる。


「す、凄い…」


 どこからか聞こえる生徒の感嘆の声。


「…ふん」


 魔法を放った張本人である少女は面白くなさそうな表情を浮かべつつ、ゆるりと学園長を睨みつける。


「…ふむ」


 周囲のざわめきに反して冷静さをそのまま維持し、静かに見守る学園長。

 それを見て眉間に皺が寄りそうになるのをグッとこらえた少女は、バッと腕を横に薙ぐ。

 すると、壁のようにそびえていた炎の柱が勢いを弱め始めた。


 石と植物で構成された守護人形(ゴーレム)、高温で炙れば石は硝子(ガラス)質に変化して脆くなるし、植物は水分が沸騰して死滅する。

 これだけ炙れば十分、と魔法を解除した少女だったが…。



「む、無傷!?」


表面こそ焦げているが、予想していた程の手傷は負っていない守護人形(ゴーレム)郡がそこには立っていた。


 二つの意味で驚きの声を上げている生徒達(エキストラ)を傍目に、少女は憎々しげな表情をより一層深めた。





 少女__ネロはこの国へと足を踏み入れてからというもの、驚きと悔しさを滲ませ続けていた。

 故郷の国では魔法の技術や才能においては誰にも劣ることはないと自負していた彼女は、学園で今以上の魔法を学び、この国においても名を轟かせられると確信していたのである。

 しかし、この国を訪れた少女が見せつけられたのは、自身の理解が及ばない程の高い壁であった。


(あの魔法を耐えたの…? わざわざ抗魔対策で炙ったのに…材質の偽装? いえ、あれは…)


 考察する少女を他所に、守護人形(ゴーレム)群はブシューッと全身から蒸気を拭き上げ、ゆっくりと歩みを始めた。


(…分かったわ)


 魔法を耐えた絡繰(からくり)を理解した少女は、口元に薄っすらと笑みを浮かべ、ゆっくりと自身に歩み寄る守護人形(ゴーレム)を見据える。


(学園長、貴方の玩具がどこまで耐えられるか、試させてもらうわ)


 先程より強力な一撃を加えんべく魔法の詠唱を開始した少女。








 ---そこへ、信じられない跳躍力を以て肉薄してきた守護人形(ゴーレム)が大剣を振り下ろす。

 詠唱始めという、魔術使いには致命的な隙を狙われた少女は回避を選択する隙もなく……。







「ぐっ…なんつー馬鹿力…」


振り下ろされた剣は、咄嗟に飛び込んだファルによって寸での所で防がれた。


「っ!?」



 あ、危ねぇー…。


 一瞬でも遅れていたら死んでいただろう少女を一瞬見やりつつ、ぐぐぐっと無理矢理大剣を押し込もうとする守護人形(ゴーレム)に対して目一杯踏ん張った。


(重っ!? 剣なのに押しつぶしに来てるのかよ…!?)


 振り下ろしの際の一撃は『重力操作』で軽減できたが、力での押し潰しはどうにもならない。

 …試験用とは言っていたものの、実際には殺意しか感じられない。



『あの…御主人様(マスター)


(うん?)


『この試験会場では、魔法によって彼女が死亡することは無いのでは?』


(…あ)


 たった数十秒前に言われていたことを既に忘れていた俺。


「…っ、ライム!」


 無意識の行動の言い訳が思い付かず、取り敢えず現在の物事に意識を戻した。


「ん!」


 四本ある中の槌を持った腕が俺に向かって振るわれ、咄嗟にライムを呼ぶ。

 俺の意図を察してか、ライムが即座に俺の懐に飛び込み、槌に体当たりをかました。

 槌の威力が体当たりの勢いに相殺されたのか、ライムは吹き飛ぶ事なくその場に留まる。


「なっ!?」


 少女の驚愕の顔を余所に、何事もなかったかのようにその場に立つライム。


「ライムありがとう、怪我は?」


「んっ、へーき」


「それは良かった。君は…大丈夫そうだね」


 唖然とした表情で俺達を見ている少女をちらりと見やり、問題ないことを確認した俺。


「魔法の詠唱は終わりそう?」


「あっ…えっ?」


「さっきより強力なのを頼むよ!」


 バッとルシアを振り守護人形(ゴーレム)の剣を払い除けた俺は、【束縛(バインド)】を発動させて守護人形(ゴーレム)を雁字搦めにした。

 たっぷりと魔力を込めたので、そう簡単には千切れない筈だ。


「ッ、退きなさい!」 


「よしっ」


 中断していた詠唱を完了させたらしい少女は、魔力を込めた右腕を守護人形(ゴーレム)に向けた。

 俺は射線から逃れるべく、ライムを抱きかかえて真横に飛び退いた。


 その直後、俺達のすぐ後ろをヒュンと何かが掠める。


 ガバっと起き上がり守護人形(ゴーレム)の方を見やると、鋭い螺旋状の氷が守護人形(ゴーレム)の胸部に突き刺さり、ガリガリと石の装甲を掘り進んでいた。


『螺旋状に変質させた氷に強烈な回転をかける事で貫通力を増加させたのでしょう』


 一メートルはあったであろう氷の槍は、守護人形(ゴーレム)に深々と突き刺さり、先端を僅かに覗かせるだけとなった。

 しかし守護人形(ゴーレム)はものともしていないのか、俺の【束縛(バインド)】を引きちぎらんと再びもがき出す。


 守護人形(ゴーレム)にはその肉体を構成するコアが存在し、それを破壊しなくては倒れないのだ。



「…やっぱり、(コア)は別の所に隠しているのね…なら!」


 しかしそのことは彼女も承知のようで、突き出していた右手を思い切り握った。



 すると、突き刺さっていた氷がギリギリと音を立てて絞られていき、バキインッと大きな音を立てて砕けた。

 同時に砕け散った氷が一瞬で液体となり、少女が手を開いた瞬間--、





ドカァン!!!



 守護人形(ゴーレム)が内側から弾け散った。

 石材や植物がパラパラと地面に落ちる最中、爆発から免れた守護人形(ゴーレム)の腕と下半身がゆっくりとその場で崩れ落ち、完全に沈黙した。


「…氷が爆発した」


『推測ですが、最初の氷属性魔法は御主人様(マスター)の世界にあるガソリンに近い物質で構成されており、重力操作で圧縮、圧力により液体化したガソリンが即座に爆縮したことにより発生した爆圧によって守護人形(ゴーレム)を内部から破壊したのだと思われます』


 …ようは外は硬いから内側から破壊してしまおうって事らしい。


 原理はあまりハッキリ分からなかったが、やっていることは様々な属性魔法を駆使したかなり高度な技術ということは理解できる。


「へぇ…凄いな」



「ライムちゃん! 怪我は?」


「ん、へーき」


 ワンテンポおいてテスが駆け寄ってくる。

 人ひとり簡単に潰せそうなハンマーの直撃受けたライムを心配するのはわかるが、仮にも従者が主人の心配を一切しないのはどうなのだろう…。


「よし、じゃあ俺達も守護人形(ゴーレム)倒さなきゃな」


 何がともあれ、という事でこの場を後にして自分達もやり合おうとルシアを肩に構えた。


『ネロさん、ファルさん、試験終了です。こちらの待機席へ来てください』


「…あれ?」


 しかし、そんなやる気の俺を余所に、いつの間にか合格してしまっていたらしく思わずずっこけてしまう。


「お、俺まだ守護人形(ゴーレム)倒してないですよ?」


『先程申しましたように、他の生徒と協力をして守護人形(ゴーレム)を破壊しても構いません。貴方はネロさんの守護人形(ゴーレム)破壊を補助しましたので、この試験は終了しました』


 …あー、なるほど。

 つまりはあの手助けを行った結果、あの守護人形(ゴーレム)破壊のアシスト扱いで俺達もカウントされた訳か。


『また話聞いてなかったのぉ?』


(今回は違うからな! まさかあの程度で破壊に貢献したとは思ってなかっただけ!)


 イジってくるオロチに内心でそう反論しつつも、消化不良気味の俺。

 周囲で観戦している生徒たちも多少なりともざわついている様子で、やはり納得しきれていないみたいだ。


「…まぁ、合格って言われちゃったなら仕方ないか」


何となく煮え切らない思いはありつつも、ルシアを納刀して学園長の示した待機席へと歩みを進めた。



「あの生徒、一切攻撃しなかったけど、合格なの?」

「学園長が今言ってたでしょ。あの魔法使ってた子を援護したから合格って」

「そういう計画だったんじゃない? 強い子に乗っかる作戦だったとか」

「でも、さっき学園長の守護人形(ゴーレム)の攻撃受け止めてなかった?」

「あの小さい子、ハンマー直撃してたけれど大丈夫かな…」


 俺達についての話し声が周囲から聞こえてくる。

 まぁ俺の方もこれで合格というのは少々不本意ではあるから、概ね納得ではあるのだが。



「…ねぇちょっと」


「うん?」


 背後から声を掛けられ、どうしたと振り返った俺。

 そこには、先程共闘した、ネロと呼ばれた少女が薄っすらと青筋を浮かべつつ、目線で俺の事を捉えていた。


 めっちゃ怒ってる。


「あ、いや…余計な手助けしちゃって申し訳ないです。俺の方もまさかあれで合格になるとは思ってなくて…」


 服装からして貴族のようなので、先のアドラスのように手助けが彼女のプライドを傷付けてしまったのではと思い、咄嗟に謝罪をした俺。



 すると少女はすぅーっと息を吸い、自身を落ち着かせるように目を閉じる。

 一拍置いて落ち着いたのか、改めてこちらに視線を戻した。


「…いえ、私も助けられた身だし、その事についてとやかく言うつもりはないわ」


 思っていたより冷静にそう返した少女。


「ごめんなさい、ちょっと感情が昂っていただけで、貴方に怒っているわけではないの」


 それより…と続けつつライムの方をちらりと見やる少女。


「あの子は大丈夫…? あの守護人形(ゴーレム)の一撃を直撃していたけれど…」


「ライムの事ですか? あ、当たる直前に重力魔法で衝撃を殺したんで怪我は無いです」


「ん、ライムへーき」


 その場でくるりと回って無事をアピールするライムを見て、ほぅ…と安堵の溜息を吐いた少女。


 勿論魔法で衝撃を軽減なんて嘘で、完全にライムがフィジカルで受けただけだが、それは言わぬが仏だろう。


「…そう、あの一瞬で重力魔法を……」


 どことなく複雑そうな表情の少女。

 嘘がバレてしまったのだろうか、と思ったがそういうことではない様で、再び目を閉じた後でキッと俺の姿を捉えた。


「あの子が大丈夫そうなのは確認できたわ。じゃあ次に…」




「さっきの束縛魔法は一体なに? あの守護人形(ゴーレム)を封じ込められるような強度があったようには見えなかったのだけれど」


 敵対心を滲ませた鋭い視線を向けてきた少女は、俺にそう問いかけた。

オマケ




 魔法を耐えた絡繰(ry


守護人形(ゴーレム)は内側から水蒸気を発することで空気の層を作り、炎から身を守りました。




完全にライムがフィジカルで受けただけだが(ry


「…ね、ねぇ。あの守護人形(ゴーレム)の持ってたハンマー、人の形に凹んでるんだけど…」

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