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いざこざを終えて

なんか移動ばかり…。

「一体何をしているのですか!」


 魔法で双角馬(バイコーン)を拘束した女性は、野次馬を退けつつ俺達にそう問うてきた。

 よく見ると後ろにテスがいるので、どうやらテスが呼んできてくれたのが彼女らしい。


「何をするのだ! 僕の魔じゅ「貴方は黙りなさい!」だ、黙りなさいだと!?」


 口を開きかけた貴族の青年は、女性の一喝に驚愕した様子で目を見開いた。

 これまで言われたこと無かったのだろうか。


「君、怪我はない? 大丈夫?」


「へ? あ、ええ大丈夫です」


 俺の両肩を掴みながらそう言い、俺の体を隅々まで確認する女性。

 くすぐったい。


「服に穴が…傷はできてない?」

「はい、(さいわ)い肌までは届かなかったみたいです」


 よく見ると、双角馬(バイコーン)の突進を受け止めた際に角が引っ掛かって破けてしまったのだろう穴が腹近くに二箇所空いていた。

 まぁ似たような傷は普段からできてるので、後で修繕しておくとしよう。


「大丈夫そうね、良かった…」


 ふぅ、と安堵の溜息を溢した女性。


「誰か、何が起こったのか説明をしてくださるかしら?」


 視線をファルから周囲の野次馬へと移した女性は、その瞳を鋭いものへと変えてそう言った。

 ガヤガヤと集まっていた見物人達は一瞬で静まり、数名の生徒が話しだした。


 恐ろしく統率が取れてるな…前世の委員長的な立場だったりするのか?




「……成程、魔獣がこの少年に体当たりをしてきて、少年がそれを受け止めて今に至る、という事なのね?」


「はい。馬車に乗っていたそちらの人物と魔法の掛かりがどうとか話をしていました」


 女子生徒らしき人物は、そう言いつつこめかみに青筋を浮かべている貴族の青年に視線を向けた。


「それで、貴方は?」


「……」


 女性に問われるも、先程とは打って変わってムッと口をつぐんでいる青年。


 …もしかして彼女に黙ってろとか言われたからムキになってるんだろうか…。

 子供かよ。


「……まぁ良いわ。事情はおおよそ理解したし、この魔獣はひとまず置いておきましょう。それで……」


 と、俺の方に振り返る女性。


「君は何者? 学園区に子供が来るには此処は遠すぎるし、この学園に来るには幼すぎるわ」


 まぁこの状況だったら聞かれるわな。


 ちなみに目的地であるセルリッヒ学園は、この学園区の中央に位置しているみたいで、中心に行くほど身なりや学生達の年齢層が高くなっているっぽいのだ。

 見た目十歳も行ってない旅装束の子供など、こんな場所だとかえって目立ってしまっているのである。


「私の名はファルと言います。今日は入学の手続きをしに来ました」


「入学…? 君が?」


 俺の言葉に訝しげに眉を(ひそ)める女性。

 周囲もどういうことかと声を潜めつつ話し始めた。


「私の国に紹介状が届きまして…あった、これです」


 【多次元収納】で内部を拡張したバッグの中から入学許可証の紙を取り出し、それを見せた。

 彼女はおもむろにそれを受け取ると、紙に書かれている内容を読んでいく。


「…ミスティカ·マリュー…印も学園長のものね」


 彼女の声に周りのざわめきが一回り大きくなった。


 ……うぅむ、段々小っ恥ずかしくなってきたぞ。


「…ふむ、まぁ偽装も無いみたいですし、良いでしょう。ひとまず案内します」


「えっと、この惨状はどうしましょう?」


 生徒の一人が、拘束されて尚逃れようと暴れている双角馬(バイコーン)に視線を送りながらそう聞く。

 どうやら思っていた以上に闘争心の高い個体であるらしく、ファルが受け止めて抑え込んでいた時から溢れる殺気は弱まる気配を見せない。


「これだけの騒ぎならば、じきに先生方もお見えになるでしょうし、魔獣はその時に対処してもらいます」


 あ、そこは他に任せるんだ。


「では皆さん、ご協力感謝します」


 ペコリ、と軽く一礼してから俺達を案内すべく歩き出す女性。




 と、




「ま、待て女! 僕もこの学園へ入学するのだ、案内してもらおう!」


「「……」」


 意地になって口を閉じていた青年が突然口を開き、そう叫びだした。

 呆れて思わずジト目になってしまったが、どうやら彼女も俺と同じ思いらしく、深く溜息を吐いてから「では付いてきてください」と振り返った。


「ふん、ではいくぞゴラム」


 と、青年は鼻息一つに馬車の中からゴラムなる人物を呼び出した。

 そして数秒ほど時を置いてから、随分と顔色を青くした大男がぬっと馬車から顔を出した。


「……よ、ようやく到着したんです…?」


「お前が馬車酔いで無様に倒れてる間にな。…少々厄介事が舞い込んだが」


「うっぷ…そちらは…?」


「厄介事だ」


 どうやら先程まで馬車酔いで動けないでいたらしいゴラムと呼ばれた男は、青い顔のまま顔をこちらに向けて弱々しい笑顔を向けた。


「みっともない姿で申し訳無い…私はゴラムという者で「挨拶はいいから早く行くぞ!」…もう少しだけ空気を吸わせてください……」


 見た目に似合わない丁寧な物腰に、若干拍子抜けしてしまった俺。

 もっとこう、寡黙な感じか逆に粗暴な感じだと思ってたから、より一層意外だったな。











「さっきはありがとうございました」


 改めて学園内へと案内され、簡素ながら丁寧な装飾の施された廊下を進んでいく俺達。

 子供と大男という凄まじいギャップの面々を引き連れているせいか、図らずともすれ違う生徒達の注目を引き付けてしまっている。


「礼には及びません。私もあの一瞬だけ気が動転してしまったので…驚かせてしまいましたね」


「いえ、正直助かりました。あのままどうしようか迷っていましたので」


 俺の言葉に「そうですか」とだけ言いカツカツと廊下を進んでいく彼女。名前はセレスと言うらしく、学園内でもかなり発言力のある立場なのだとか。


 ルーガの真名(まな)に似てるな。


「そういえば、私が動けなくなっていた間に何があったのでしょうか? 恥ずかしながらあまり状況を呑み込めてなかったのです」


 俺の隣を歩く大男、ゴラムは俺にそう聞くと「いやぁ面目ない」と頭を掻いた。

 幾分か顔色を取り戻した彼は、背筋を伸ばすと二メートルを軽く越える長身(ルシア目算)で、隣に立たれると脚しか見えないので軽く圧倒される。

 ザキさんよりもデカいぞ、これ。




「そんな事が…本当に申し訳ない……本来なら従者の私が動かなければならなかったものを」


「あはは…まぁ馬車酔いなら仕方がないでしょうしね」


「ふん」


 ちなみにそんな彼の主人である青年の名はアドラスと言い、伯爵家の長男なのだそう。

 普通に良いとこの坊っちゃんだったな。無礼講とかは特にしてないだろうし、まぁ問題ないだろう。




「…ここの見回り兵って全員動かないんだな」


 暫く俺とゴラムの会話が続く中、ふとテスが俺にそう耳打ちしてきた。


 言われてみれば確かに。


 どういうわけかこの学園の兵士は等間隔で一人ずつ立っており、まるで置物のように微動だにしないのだ。

 とはいえ置物の甲冑とは違い土台が無いし、そもそも俺達が前を通ろうとしたら一瞬だけ反応するので中には誰かいるはずなのだが…。


 ちなみにアシュトルスやベクトリールの兵士は基本的に一定のルートを二人組で巡回している。

 何かあったときには二人のほうが対処がしやすいのだ。


 しかしまぁ、思えば双角馬(バイコーン)を押さえてる間も、背後には見張りの兵士がいた筈だったのに動く気配すら見せなかったな。


「あれは自律型のゴーレムで、学園側に敵意のある人物に反応するものなんです」


「えっ、あ…」


 聞こえているとは思っていなかったのか、彼女の返答に若干しどろもどろになるテス。


 ゴーレムか、それならば納得だ。


 セレスさんの返答に、盲点というか謎掛けの答えが解った時のような感覚になった。


 過去に亜理子が似たような存在として創造していた守護人形(ゴーレム)だが、これは本来創造主の下した命令(プログラム)だけを忠実にこなすロボットのような存在で、創造主が逐一操作する必要がない反面、あまり複雑な命令はこなすことができないのだ。


『そうだねぇ、おおまかに命令は『異変が生じた時に(あるじ)へ知らせる』と『許可が降りた時の対象の抹殺』、あと『対象の攻撃から生徒を護れ』かなぁ』


 使い手は結構手練なんだねぇ、と付け加えたオロチ。

 オロチが他人を褒めるの珍しいな。


『そりゃあそうだよぉ。命令自体がわりと複雑だし、多分この学園にある傀儡人形(ゴーレム)は全部同じ使い手だもん』


 えっ…それは凄いな…。

 今通った廊下だけでも二十体くらいはいたであろう守護人形(ゴーレム)を全部一人で動かしてるって、魔力消費量えげつないだろ…。


 どうやらこの学園は、俺の想像していた以上に凄い場所であるということを改めて思い知った。


「まもなく学園長室です」


 と、そんな考えを巡らせていたら目的地が目前みたいだ。








「最初にお伝えしますが、学園長は多忙な方です。くれぐれも失礼の無いように」


 (うるし)塗りが施されたような見事な装飾が施された扉に手を掛け、俺達を振り返りそう言ったセレスさん。

 いや、この場合はアドラスに対しての言葉だろう。


「学園長、入学希望者をお連れしました」


『どうぞ』


 扉の奥からではなく、扉に施された装飾の顔からそんな声が聞こえてついビクッとなってしまった。


『装飾の眼球にあたる部分から魔族(シャロン)の使用していた録映玉に似た魔導具(マジックアイテム)を確認、同じく口部分から拡声魔法を検知しました』


「……へぇ」


 部屋を挟んだだけなのに随分と手の込んだ……と付け加えて心の中で呟きかけた俺は、ゆっくりと開け放たれた扉の先を目にして、先の呟きを撤回した。



 室内だというのにその先に広がっていたのは、部屋ではなく『森』と表現しても違和感のない空間であった。


 転移魔法かなにかで扉の先を別の空間と繋げているのだろうか?

 これならインターホンのような扉の絡繰(からくり)にも納得である。


「こちらです」






「本当に森のようですね」


 中は思いのほか広く、ゴラムがそう呟いた。


「実際には建物の中です。まぁ学園内ではないという意味でしたら正しいですが」


 曰く、此処は学園長の研究室でもあるらしく、床をよく見ると確かに石造りであり、石柱に蔦が絡まってさも森のように見えているだけのようだ。

 ルシアが言うにはかなり上層部に転移してきたらしい。


「待ってました」


 目に入った石柱を九つほど数えた位のタイミングで、少し奥から女性の声が聞こえてきた。

 今度は扉から聞こえたような音声ではない、確実な肉声である。




「セレスさん、ここまでの案内ご苦労様です」


 透き通るような声で彼女をそう労った女性は、シャロンが普段抱えているような大きさの本に筆を走らせていた。


「学園長」


「失礼、研究資料が丁度()いところでしたので」


 サラサラと書き進めていた筆の手を止め、視線を机からこちらへと向けた女性。


 若木の様な胡桃色と、太陽に透かした木の葉の如き美しい緑色の混ざった髪が神秘を感じさせる。


「ようこそ我が学園へ、私は学園長のミスティカ·マリュー」


 彼女はそう名乗り、座るように促すと御茶を淹れ始めた。

オマケ




ルーガの真名(まな)に似てるな。


ほぼ死に設定ですが彼女の本名はセリス·アシュトルスです。

名前が似てるだけで彼女との関連性はないです。




扉に施された装飾の顔から(ry


「ノックもしないのかい」とか言って勝手に開くあの扉を想像していただければ。

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