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馬車に揺られて

  ガラガラ…。




「…暑い」


「そうか?」


  直射日光が荷馬車の幌を突き抜け俺達を差す昼下がり。

  俺達が同乗している、ネインネール行きの行商隊を襲おうとした魔物を相手にした直後だからか、テスがそう呟いた。


「暑いなら熱の篭らない外に出たら良いのに」


「だってそうしたら歩かなきゃじゃんよ」


  面倒臭がりだなぁ…。

  お前あれだろ、一回休憩入るともう何もやる気起きなくなるタイプだろ。


  馬車の後ろ側を開いて涼みを得ようとしているテスを見てそう思いつつ、そんなに暑いものなのかと室内の気温をルシアに問いた俺。


(どれくらいなの?)


『およそ31度です』


  あ、わりと高いんだな。

  アイジス大陸は比較的南よりで、前世でいうところの地中海域に面しているらしく、アシュトルスのある大陸より平均的に暑いのだそう。


『しかし原因はそれだけではないようです』


(うん?)


  やっぱ運動直後で熱でも籠ってるのかな? と思い【神察眼】を使った俺は、熱源探知で馬車内の暑さを調べてみた。

  この【神察眼】、熱とか紫外線とか、見たいものを念じるとそれだけがハッキリと見えるようになったりと結構便利だったりする。ちなみに今の俺の視界はサーモグラフィのようになっている。


「どれどれ…ってレフィス体温たっか」


  体の殆どが水分なのでひんやりとしているライム、運動直後とはいえ多少体温が高いだけに留まっているテスと順番に見ていた俺は、レフィスの体温の高さについ声を出してしまった。

  なんというか、一人だけ夏場に布団を被っているみたいに熱いのだ。


(そうか、羽か)


  俺はレフィスを見て、そう納得した。

  レフィスは天魔族という天使と悪魔のハイブリッドのような種族なのだが、目印となるその翼は片方が蝙蝠(コウモリ)のような骨と翼膜で構成された黒い翼、もう片方は白く大きい羽で構成された、俺達が良く知る鳥の翼となっているのだが、レフィスは普段、この翼を隠すようにメイド服の上にローブを羽織っており、ふわふわな翼を持つレフィスはそれだけで熱が籠ってしまうらしい。


  ちなみに触り心地は最高である。


「レフィス、暑くないの? それ」


「酷暑は馴れております故」


  酷暑…ベヒモスのいた山か、まぁ確かに滅茶苦茶暑かったっぽいしな。

  …と、言っている側からタラリとレフィスの頬に汗がつたった。

  やっぱ暑いんじゃん。


「俺達しか居ないし、ローブくらいは脱いじゃえば?」


「しかし」


  どうもレフィス、翼を人に見せたくは無いらしく、俺の前以外では(かたく)なに翼を出そうとはしないのだ。

  きっと過去に何かあったのだろう。


  天魔族って、なんか厨二っぽくて俺は好きだけどな。



  ちなみに、最初は俺の角のように『変化』で翼を隠そうという話もあったのだが、レフィスはこの技能(スキル)が不得意らしく、未だ習得には至っていない。


「ならせめて魔法でも使って涼みなよ。熱中症になられたら困るし」


「申し訳ございません」


  ふーむ……別に魔法の使用は許可制じゃないし、怒ってる訳でも無いんだけどな。

  どうもレフィスは主従を意識し過ぎてる節があるんだよなぁ。


  自身の発した風属性魔法に当たって心なしか涼しそうにしているレフィスを見つつ、どうしたものかと考える俺であった。







「ところで、ネインネールって主にどんなものを取引してるんです?」


 あれからニ時間弱程経ち、流石に馬車に揺られるだけなのにも退屈を感じていた俺は、乗せてもらっている馬車の持ち主である商人さんの隣で色々と話していた。

 最初は迷惑かな? とも思ったが、どうやら商人さんも暇だったらしく話し相手になってくれた。


魔法薬(ポーション)や魔法書、他には香草なんかがネインネールでは有名ですな」


「魔法?」


「学問の国と呼ばれておりますからな、魔法の研究が盛んなのです」


 そういえば学問が盛んって誰かが前に言ってたな。


「私らは専ら、本に使う紙や(きん)、希少な薬草なんかと取引してるんです」


「互いにかなり高価な取引をなさってるんですね」


 この世界では純紙はかなり貴重な品なのだが、それを使った本というだけで相当高額なのに、それが魔法書ときたら…一冊あれば下手な小屋くらいなら建ってしまうのではないだろうか?

 薬草なんかも、ものにもよるが恐らくは魔法の研究に使うものだろうが、それこそこ商人に頼む位には貴重品の筈だ。


「そこで冒険者の護衛が必要なのです。子供冒険者様が同乗してくださるから、今回の道中は安泰ですぞ」


「乗せてもらってる身ですし、これくらいはお安い御用ですよ。…まぁ今回は冒険者の活動じゃないんですが」


 流石に各地を回っている商人ともなるとある程度は隣の大陸の事なんかの情報もリサーチ済らしい。

 何だかんだで俺も有名になったな。


「もしもの時はそちらのスライムの実力を拝見させていただきますぞ」


「あはは…」


 言っていなかったが、今現在ライムは本来の姿(スライム形態)で俺の膝の上で大人しくしている。

 やはりというかライムは馬車の揺れには弱く、人間態よりこちらの姿の方が楽なのだそう。


 …船は全然平気なのにな。テスとは真逆だ。


 ちなみに商人さんにはライムは使い魔、という事にしている。

 まぁ、魔物を膝に乗せてる時点で説明もクソもないが。







「……うん? なんか飛んでる…」


「あれは翼馬(ペガサス)の調教ですな。ネインネールが近付いてる証拠ですぞ」


 その後も無言と会話を繰り返しつつ、なんの気なしに空を見上げた俺は、日が落ち始めた空を飛翔する鳥ではない何かを発見した。

 商人さん曰く、ネインネールでは翼馬(ペガサス)下級竜(ワイバーン)といった魔物を兵の乗り物として使役しているらしく、今はその訓練をしている最中なのだとか。


 本とかで存在は知ってけど、本当に飛んでるの初めて見た…。


『原理としましては風属性魔法で作り出した風の床を駆け、跳躍と同時に羽ばたき浮力を得ております。飛ぶ、というよりは駆ける、という方が表現的には正確です』


 さいですか。


「恐らくは我々行商隊(キャラバン)の監視も兼ねているのでしょうな」


「監視…ですか?」


「中には関所を通らず入国する輩もおりますからな」


 なるほど、密入国者を取り調べる為に俺達の規模とかを下調べしているという事か。いや、どちらかというとそういう輩に対して圧を与える抑止力としての側面の方が大きいか。

 何にせよ訓練も兼ねてとはいえ、監視に国の軍力使ってるという事はそれだけ国力に余裕があるという事なのだろう。


「この調子だと、明日の昼までには到着するでしょうな」


 となると今日は野営だな。

 確認を終えたのか帰っていく翼馬(ペガサス)兵達を眺めながら献立はどうしようかと考えるファルであった。







「…うーん、ちょっとコゲっぽいな」


 夜、道中で野営することとなり、焚き火を囲んで道すがらに襲撃してきた草潜蜥蜴(リーフリザード)という魔獣の肉を食べている俺達。

 肉はすぐに駄目になってしまうし、放置すると臭いにつられて他の魔獣をおびき寄せてしまうので、狩猟したあとの肉は焼却するか食うかしなければならないのだ。


「そういえばファル」 


「うん?」


「ネインネールってどんな所だと思う?」


 肉に香辛料をふりかけつつ、テスがそんな事を尋ねてきた。


「うーん…なんというか貴族が多そうな、真面目そうな国な気がするな。テスは?」


「俺は……ってなんだあれ」


 何やら言おうとしていたテスが俺の背後を見て何かを発見し、声を洩らした。

 うん? と振り返ると、俺の背後に停車している馬車の車輪に(フクロウ)が止まっており、驚いてビクッと肩が跳ねてしまった。


「ふ、フクロウ…? ビックリした…」


「その鳥、ふくろうって言うのか」


 俺の言葉から梟の名を知ったらしいテス。

 そういえば確かにアシュトルスやベクトリールじゃ梟は見なかったな。とか言ってる俺もリアルで梟を見るのは初めてだし。


 頭にぴょこぴょこと猫みたいな耳が立ってるということは、ミミズクとかいう種類かな?


「脚に何か結ばれております」


 レフィスの言葉で梟の脚を確認すると、確かに紙の筒らしきものが紐で結ばれている。

 伝書梟というものだろうか?


「とわっ…!」


 脚に付いてるものを取ろうと手を伸ばした瞬間、梟が俺の腕にバサバサと飛び乗ってきた。

 そして器用に脚を動かして俺の掌に紙を落とした。


 って痛い痛い、鉤爪食い込んでる。


「ってて……手紙?」


 蝋で封をされた手紙を開き中を開いて見てみると、朱印が押されている紙が二枚と、恐らく俺宛なのだろう手紙が入っていた。

 先の二枚はどうやら入国手形と入学許可証らしく、もう一枚は『ミスティカ·マリュー』という人物--確か学園長だ--からの手紙だった。


「このタイミングでこの手形が届くって凄いな…どこで知ったんだし」


『推測ですが、数時間前の翼馬(ペガサス)に搭乗していた兵、彼等が御主人様(マスター)の存在を認識したものだと思われます』


 あの時に? でもあんな遠くから、顔も知らない俺の存在なんかどうやって知ったんだ?


『恐らく…アシュトルスに届いた招待状、あれに細工が施されていたのかもしれません』


 とのことだったので件の招待状を開いてよく調べてみると、魔力や術が使われた痕跡は見当たらなかったが、使われているインクにほんの少しだけ血が混ぜられていることが分かった。


『なぁるほどぉ、自分の血を目印にしてるんだねぇ』


 オロチが言うには、自身の血を対象に混ぜたりして利用する事でその物が偽物か本物かを見分ける(すべ)があるらしく、今回はそのごく少量混ぜられた血を識別して俺を発見したのだとか。

 ルシアが気付かないわけだ。


『魔法とかじゃないから下手な小細工は通用しないしぃ、ほんの一滴でも大丈夫だから今みたいにしっかり調べなきゃ判らないんだよねぇ』


 曰く『血は指紋より強く正確だから、魂を縛るのに便利』とのこと…。

 …よくわからないが、この辺りは呪いのプロフェッショナルと言っても過言ではないオロチの専門という事だろう。


「まぁそれは良いとして、こっちの手紙は…と」


 俺はもう片方の手紙に目を通すことにした。




『この度は我が校への入学を決心いただき誠にありがとうございます。

(中略)我が校は魔術だけでなく士官学校としても広く学びの場を設けており、才能や学びの適性からその者の最も適した教育学部へと割り振る形を取っております。

 つきましては本校で手続きを行う際、同時に魔技術の適性試験を受けていただきますので、心身共に万全な状態でお越し下さい』



 重要な部分だけを抜き出すとおよそこんな感じだ。

 まぁ要は「胃カメラ入れる前日は何も食べるな」的な感じで入学時に魔力やら技術やらを見るから変に消耗するなという事なのだろう。


 しかし事前にそんな事するのか。

 帽子被ってクラス分けしたりしないのかな。



「ファル肉、肉っ!」


「…え? あっこらっ」


 手紙を読みつつ考えていたファルの腕から、串に刺した肉を器用に引き抜いて奪い取った梟。

 その後もピンポイントでファルの肉だけが狙われ、軽い戦闘が勃発するのであった。

オマケ







草潜蜥蜴(リーフリザード)



特徴:風で(なび)く程薄く柔らかい鱗を持つ蜥蜴で、草むらに擬態して近付く草食動物を襲う。

擬態のレベルは高く、遠目から見ると全く見分けが付かないが、それが仇となり馬車や他の生き物に踏まれてパニックを起こす事が多々ある。






串に刺した肉を器用に引き抜いて(ry



フクロウに限らず、生き物に焼いた肉を与えるのはやめましょう。

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