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二週間後の……

御主人様(マスター)、十分程後に予定時間となりますので……』


「了解、じゃあ行くか」


「んっ」


  大陸が一つ沈みかけたあの事件からちょうど二週間。




  ……本当に色々あった。




  まず何から話そうか……。


  あの事件の後、震源地に最も近く建物の倒壊でかなりの被害を被ったベクトリールは、昼間で人々の建物の出入りが活発だった事が幸いしたのか、奇跡的に死者は出なかった。

  また、ディメアが技能(スキル)で地脈の活動を抑え、ベヒモス復活の際の大陸自体のダメージを少なくしてくれたお陰で、ベクトリール周辺の山々が噴火を起こしたりする心配はないらしい。



  ちなみにそのベヒモスだが、『今度復活した時の為の保険』『あの馬鹿への仕置き』という理由から、大陸への影響を鑑みて休火山の地下へと改めて封印された。

  ディメア曰く『私が故意に解かない限り千年ちょっとはあの馬鹿も出られない筈よ』との事なので、以降に第二、第三のレフィスが現れたとしても問題はないだろう。

 


  っと、レフィスと言えばこっちも色々あった。

  様々な犠牲を支払いベヒモスを復活させたレフィスだが……。







我が主(マスター)、召し物の準備が整いました」


  ……現在は俺のスカウトした御側付き(メイド)としてアシュトルスにいる。


  いや……ね。俺もしたくてレフィスにそんな事をさせた訳でも、逆にレフィスが自ら進んでメイドを申し出た訳でも無いんだよ。


  あの事件がひとまず収束した後、ベヒモスの復活とベクトリールの裏切りから拘束されたトイドルが処罰(死刑)を受けたのだが、その時にレフィスも処罰の対象に入るかどうか、というのがベクトリールで議論されたのだ。

  メテラードを危機に陥れかけたレフィスの行いは間違いなく処罰ものなのだが、『天使は神に使える存在』という宗教観を持つベクトリールの要人達(マグナさんも含む)の介入によって、国に属さないレフィスを(さば)くか否かを議論する所にまで発展したのだ。


  そしてこの件に深く関わっていたという理由で俺も参加したのだが、その時の会議は「ベヒモスの復活を間近で見ており、レフィスについてこの中で最も知っている存在」として、数日ほど俺の所でレフィスを(何故か)預かる流れとなったのだが……、その数日後にマグナさんの提案で、俺の所で正式に預かるという事が決まってしまったのだ。


  なんでも、「ベクトリールには天使に干渉したくない者が多いのだ。私含めてな」らしく、なんの因縁があるのか知らないが、とにかく天使とは関わりたくはないらしい。


  ……という訳で、レフィスの件は俺の預りとなり、現在に至るのである。




  一つ言っておくが、決してそれが嫌だったとか、そういう事ではない。

  ファンタジー丸出しの翼が生えてるし、美じ……実力も知識も備わっている彼女は、俺としては大歓迎ではある。


  しかし、仮にも彼女は大陸を危機に陥れ、贄として多くの人々を殺めた全科を持っている。

  ベヒモスに裏切られたレフィスには確かに同情したが、無罪で終わらせるというのも、贄となった人々の身内が報われないだろう。


「……ねぇ」


「なんでございますでしょうか我が主(マスター)


「レフィスってさ、あの時自分はどうなるかとか予想してたの?」


  結局の所は処刑されずにアシュトルスに引き取られ、御側付きという形で今はいるが、ベクトリールの要人達の発言次第では間違いなく今、此処にはいなかった筈だ。

  国の中で生死を選ばれる立場だったレフィスは一体どのようにその時思っていたのだろうか。


「生きてはいけぬものと心得ておりました」


  即答か。


「許されざる行為であったのは事実。寧ろ今の境遇に戸惑っている程です」


「まぁ、神に仕えようとしてたのが今はメイドだしな「逆です」うん?」


「貴方様という神に仕える……罪人(つみびと)である私にそんな事が赦されるのでしょうか?」


  神……ああ、そういえばディメアがそんなこと言ってたんだっけ。

  確かにこの体は元は神龍だし、神に仕えるというレフィス自身の目的はは達成されてるな。


「許すとはちょっと違うと思うな」


「っ……?」


「そもそもの話、俺はレフィスの罪を許したんじゃないからね?」


  まぁそれは百も承知だろうけど、と付け加えた俺。


  俺自身、トイドルと殆ど同罪であるレフィスを許す程甘くはない。

  流れでレフィスを引き取る事になったのは確かだが、俺はこれを『保護』ではなくレフィス自身の『贖罪(しょくざい)』の場として捉えている。


「自分の罪の償いが『死ぬ事』だって考えるのは、それは一種の逃げだと思う」


  人を殺めた、それ自体は俺もやった事がある。罪悪感に苛まれたりもした。しかし、その罪の重さで死のうと思った事は一度たりともない。

  本当に罪を償いたいのなら、逃げるのではなくその罪と向き合わなければいけないのだ。


「レフィス、あんたには俺達と同じように罪を背負って生きてかなきゃいけない義務がある」


「義務……」


「これから俺達と生活して、それを通してどう罪を償っていくかを考えるんだ」


  ちなみに俺は毎日、必ず夜に黙祷(もくとう)を捧げている。

  それがどうしたという話だが……。


「……っと、なんか変な空気になっちゃったな。行こうか」


  そういえばそろそろ時間だったな、と目的を思い出した俺は、レフィスを振り返る事なく部屋を出た。









「あ、ファルちゃん。遅いですよー」


  (ほろ)をくぐり抜けた俺をいち早く発見したルーガが、そう言いつつ隣に俺が座れるだけのスペースを作ってくれた。


「ちょっと色々あってね」


  今、俺達はベクトリール城の城門の内側におり、巨大な馬車の中で待機している。

  先程も言ったが、ベヒモスの事件から二週間丁度である今日、ベクトリール内でその時の事件が完全に収束した事を祝う催しごとが開催される事になったらしく、俺は事件収束に深く関わった功労者として招待を受けたのだ。

  ちなみにルーガはスペシャルゲストという扱いなのだとか。


「この催しを機にアシュトルスと友好な関係を築いているとアピールするのも目的の一つなんでしょうね」


「それだけではないぞ」


「ふえっ? ……っと、コホン……マグナ殿」


  幌の入り口から聞こえた声にそちらを向いたルーガが、声の主がマグナさんであった事に驚いた様子で声を上ずらせた。

  直後に気を取り直すかのように咳払いをしておしとやかモードに移行したが、ちょっと手遅れだろう。


「それだけではない、と申されますと?」


(あ、誤魔化した)


「私がルーガ女王やファルに、純粋に感謝しているからだ」


  と、まさかの不意討ちを仕掛けてきたマグナさん。

  俺もルーガも、思わず少し固まってしまった。


「……何を驚いているんだ? 私やアスオフだけでなく、国までも救った相手に敬意を表するのは当然だろう?」


「私共はすべき事をやっただけですよ」


  ルーガの言う通り、あの件は俺達も深く関わりのある事だったし……というか、俺達が驚いたのはそれではないのだ。


「マグナ様、じきに門が開きますので馬車の方へ」


「うむ。ではな、邪魔をした」


  近衛兵らしき男性に呼ばれて馬車から退室したマグナさん。




「……まさか、それを言う為だけにこの馬車に来てくれたのかな?」


「やっぱり、ファルちゃんが驚いたのもそこですよね……」


  まだマグナさんとの付き合い自体は短い俺だが、彼は最初に本題を切り出す(たち)であるのは承知であったし、それはルーガも知っていた事だろう。

  つまり、マグナさんはわざわざ俺達に感謝の言葉を述べる為だけに、馬車まで来てくれた訳だ。


「女王様、我々も出ま……如何しましたか?」


「へっ? あ、いえ。少しぼーっとしてただけです」


「何か手伝うよ。ライアン」


  マグナさんの事で驚いていた俺達だったが、ライアンが入ってきてくれた事で空気を元に戻すことができた俺達。












「ふぅ、なんか疲れたな」


「アシュトルスよりも人の集まりが凄かったですねぇ」


  そう言いつつばふーん、とベッドに倒れ込んだルーガ。

  外の様子が確認できるような馬車に乗ってベクトリールを移動しつつ、時折手を振ったりする、というような事を主にやっていたのだが、某夢の王国のパレード以上の人の賑わいと、国の広さからなるルートの長さから、夜にはベクトリール城で開かれる宴に参加する予定が残っているというのに体力の大半を使ってしまった。


  ……前世は都会に住んでた人間がいうのもなんだけど、やっぱり人が多い場所って好きになれないな。


「ファル、っかレた?(翻訳:疲れた?)」


「精神的にね」


  ぶっちゃけ、ベヒモスとの戦い以上に疲れたと思う。


「まぁ、夜のパーティーまで時間は結構あるので……その間にファルちゃんとライムちゃんの服でも選んじゃいましょうか!」


「え、この服じゃないの?」


  たった今までの疲れた様子はなんだったのか、そんな事を言いながら元気そうに顔を上げたルーガ。

  パレードで着ていた正装をパーティーでも着ていくものだとばかり思っていた俺は、思わず聞き返してしまった。


  なんか、凄い嫌な予感もしてるし……。


「夜は貴族の人達ばかりですので、身なりもそれに合わせなきゃですよ」


「身なり……ねぇ」


「という訳で、最初はファルちゃんから始めましょうか!」


「えっ……っていうか待って、なんでそんなドレスとか持ってるの!?」


  何処からともなく(技能(スキル)であるのは分かっているが)様々なドレスを取り出したルーガ。


  予想はしてたけど、本当に着るの? 俺は絶対嫌だぞ!


「逃がしませんよ?」


  予め狙っていたかのごときスピードで俺の腕を掴んで離そうとしないルーガ。




  ……俺にとっての本当の地獄は、どうやらこれからのようだ。

オマケ




俺にとっての本当の地獄は、どうやらこれからのようだ。



「あ、ファルどの! こんな所にいましたか!」


「げっ……王子……」


「やはりこのような場ではちゃんと女の子らしい服装になるんですね」


「あはは……ほぼ無理矢理着せられたようなものですよ」


「とっても可愛いですよ!」


(帰りたい……)






次回から新章に入ります……が、その前に報告があります。

詳しくは活動報告の方をご覧下さい。

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