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王牙の威厳

「……っと到着」


  ベクトリール城に設置された転移魔方陣の上に着地した俺達。

  やっぱりこの辺も揺れてるな。急がなきゃ。


「じゃあ、今からマグナさん……元国王に会ってくるから付いてきて」


「え……」


「あ、嫌だったり? それじゃあ「違う」っ?」


  『マグナ』の単語に反応し、何かを言いたげに口を開閉させていたレフィス。

  しかし、どうしたのかな? と首を傾げていた俺を見て、レフィスはやがて口を開いた。


「……レーゼンが、此処に来てる」


「トイドルが?」


  コクリと頷いたレフィス。


  そういえばソイツの存在を忘れてたな、とか思いつつ「それはマズイかも」と呟いた俺。


  ほんの少し前まで仲間、また同志だったレフィスの言葉であるから間違いはないだろう。

  国を裏切り、指名手配されている人物がわざわざベクトリール城に戻ってくるとか……絶対に何かあるだろう。


「ちょっと走るよ!」


  下手したら一刻を争いかねない状況に転じた事により、俺はレフィスを引っ張る形で城内を駆け出した。






「マグナさん! 無事で……あれ?」


  驚くほど人気(ひとけ)のない廊下を進み、記憶を頼りにマグナさんの部屋(王室)まで辿り着いた俺は、勢いよく扉を開いてそう叫んだ。


  ……が、その部屋には俺もよく知る使用人さんの姿ただ一つだけしか見当たらなく、肝心のマグナさんが不在だったのである。


「お待ちしておりました。ファル様」


  俺の姿を捉えた使用人さんは、俺の背後に立つ人物(レフィス)を見て一瞬顔を(しか)めたが、直後に表情を戻して恭しく礼をした。

  どうやら俺を待っていたみたいだが、どういう事だろうか? マグナさんはどうしたのだろうか?


「先程からの地震に関して、マグナ殿にお話があって参上したのですが……」


「神龍ベヒモスの件で御座いますね。ルーガ女王様から伺っております」


  ルーガ来てるのか。

  そういえば王子が近くにいるから伝えるとかライム言ってたし、使用人さんの落ち着き具合からして事は既に済んでいるのだろうか?


「つかぬことをお聞きしますが、マグナ殿はいらっしゃいますでしょうか?」


「申し訳ございません。先方(さきがた)ある者に襲撃され負傷しまして、現在は安全の為面会を()っています」


  どうやら、俺が来るよりも先にルーガが訪れており、ベヒモスに関する大まかな事を伝えた上でトイドルの襲撃を既に阻止しており、少し前にアシュトルスの方へ転移していってしまったのだとか。

  ちなみに使用人さんは面会謝絶中のマグナさんの命令で、俺が来た時に備えて王室で待機していたらしい。


  焦って損したとかは言わないが、まぁそういう事なら良かった。


「……分かりました。では『ベヒモスが地上に進出、民の避難急がれたし』とお伝えください」


「っ! ……承知致しました」


  一瞬驚いた表情――まぁ仕方無いだろう――になった使用人さんだが、すぐに表情を戻し、そう言って俺に対して一礼をした。

  この辺、場に対応するスピードとか凄いよな、使用人さんって。


「では、私は女王への報告の為、失礼させていただきます」


「ひとつ宜しいでしょうか?」


「? なんなりと」


  改まった口調で、使用人さんが何かを訪ねてきた。

  ……目線がレフィスの方へ向いているので、何が言いたいのかは大体分かるが。


「お隣にいらっしゃる女性は……」


  やっぱりレフィスに関してだった。


「ベヒモス封印を共に行うレフィスと言う者で、私の仲間です。……訳あって衣服は私のものを使ってますので、私含めてあれですが……」


  流石に実際の素性を明かす事はできないので、そう誤魔化す事にした。服は……まぁ、緊急事態なので見逃してもらいたい。

  背後でレフィスがピクリと反応したが、後で口裏合わせてもらわなきゃな。


「封印……可能なのですか?」


「可能です(……多分)」


『そこは自信もって言い切りなさいよ……』


  だって出任せで言っただけだし、実際にできるかとかまだ分からないもんよ。


『ボクと姉さんの力があれば封印(・・)は簡単だよぉ』


(……やっぱり殺すんだ)


『『当然』』


  そんな事して世界の方は大丈夫なのだろうか、とか思ってしまう俺。

  まぁその辺はディメア達も承知の筈だから何か手はあるんだろうが。


「……お気をつけて」


「ご心配恐れ入ります」


  俺はその言葉を最後にレフィスを連れて転移――。





  ドゴォォォン!!!


「うわぉっ!?」


「い、一体」


  アシュトルスへ転移をしようとした矢先の事であった。

  地震とはまた違う、何かが物凄い勢いで壁に激突したかのような衝撃が城を揺らし、俺は情けない声と共に尻餅を着いてしまった。

  と、直後に俺と同じように体勢を崩してうつ伏せに倒れてきたレフィスに潰された。


  ……役得とか考えてる暇は無さそうだな。


「もう既にここまで……!?」


「いえ、だとしたらっ……少し早すぎます」


  多分だがオーガとベヒモスの戦闘の余波がここまで来てるんだろう。シャロンの話だとこの上なく無敵であるオーガならば、と思いそう推測している。


  ルーガへの報告は後になりそうだな。


「外の様子を確認してきます」


  それだけ言い残し、俺は次こそ転移を発動させた。








  所変わって、ベクトリール城外壁。


「……まさか横にも重力操作がきくなんてな」


  ベヒモスの攻撃によってベクトリールにまで吹っ飛ばされたオーガは、衝撃吸収の役割を全うし崩れ去った壁から飛び降り、地面に着地したと同時に【電光石火】を発動、ベヒモスのいる数キロ地点へと一瞬で辿り着いた。


  そして、ベヒモスの元へ僅か数秒で辿り着き、お返しとばかりに蹴りを放ったオーガ。


『っおっ!?』


  重力、サイズ、全てにおいて圧倒的なアドバンテージを持っている筈のベヒモスが、そんなオーガの蹴りによって大きく仰け反った。

  そして直後に、蹴りの際生じたエネルギーが周囲の岩山の表面を削り取った。


『ほう、我輩の力に屈しぬばかりか、あれほどの攻撃をやってのけるとは……』


「痛手が無いのはお互い様か」


  ベヒモスより少し距離をとった地点で、オーガがそう呟いた。


  しかし、実はこの呟き、先程の吹っ飛ばし合いによるものではない。

  このやり取りを行うより以前から、両者は力による牽制を行っていた。


  具体的には、ベヒモスは自身の発する重力を帯びた重力でオーガを周囲の岩山ごと潰しに掛かり、対するオーガは土属性に唯一有効である雷属性の(アーツ)、【七雷光『土雷』】を発してベヒモスの魔力を打ち消しつつ攻撃していたのだ。


  ファルがオロチ達の力を借りても勝てないような相手に対して余裕の表情、かつ互角に対峙しているオーガの実力は確かなものだろう。


『しかし、あの程度では我輩に傷を付けるなど不可能。先の、我が妹の力を借りていた人龍の子と同じくして葬ってくれよう』


「ほう、ファルが……」


  完全にファルを屠ったと勘違いしているベヒモスのその発言から、ファルが七星龍の力を借りる程にまで成長している事を知り、今にも押し潰さんと掛かってきている敵を前に一瞬だけ表情を和らげたオーガ。


『消えるがいい』


  そんなオーガの様子を知ってか知らずか、ベヒモスは勝利を確信したかのように、その巨体で以てオーガを押し潰した。







『……何?』


  しかし、何千トンとある自身の体重で圧死させた筈の生命は、未だ消えてはいなかった。


「勝手に……殺すな」


  グググ……、とベヒモスの体が持ち上がる。

  遠目から見ると殆ど動いたようには見えない程に巨大な龍が、である。


  その下には、衝撃と砂埃で汚れはしているが殆どダメージの見えないオーガが、文字通り山の如き巨体を持ち上げていたのだ。

  怪力というレベルの話ではない。


「ふんっ」


『ぬおっ!?』


  そしてそのまま真横にベヒモスを投げたオーガ。

  衝撃で周囲に強烈な揺れが発生し、地面が割れた。


「たかがのし掛かり程度で、俺を倒せるとは思わない事だ」


  通常であったら死んでも、もとい死なない方がおかしい状況をそう言い切ったオーガは、生物の域を越えた生物……そう表現しても差し支えは無いだろう。


  これこそオーガが『神殺し』『王牙(オウガ)』と呼ばれる所以なのである。


『ぐぅ……神を愚弄するか』


「愚弄? どっちがだ?」


  ズズン、と起き上がったベヒモスの怒気を孕んだ声を一笑に付したオーガ。


「神である事がどれ程尊大であるかなんて知らん」


『黙れ下等生物が!』


  ついに怒りを爆発させたベヒモスが吠える。

  しかしオーガは動じず、ピッとベヒモスに対して指を差した。


「その下等生物に遊ばれてるお前は何なんだ?」


  と、同時に空間が小さく歪み、子供の影が現れた。







「あまり俺達を甘く見ない事だ」

オマケ。




してうつ伏せに倒れてきたレフィスに潰された。



どこで? 何に? ご想像にお任せします。




【七雷光『土雷』】



七色七属性の雷を操る技能(スキル)【七雷光】の一つ。

『土雷』は地中でも雷が散る事が無い黄土色の雷が発生する。


この性質から『土属性に唯一対抗可能な雷属性』となっている。

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