オーガ再来
投稿遅れてしまい、申し訳ございません。
「……いた、あそこだ」
レフィスを連れて移動を開始した俺は、ベクトリール方面へ続く大きく穿たれた通路を辿るように転移を繰り返し、現在進行形で岩山を破壊しつつ進んでいるベヒモスを発見した。
その姿は、簡単に表すとすると『要塞』、そして『山』である。
岩山をまるごとくりぬき、彫刻されたかのような甲殻は、その隙間から時折見える鉱石の反射光によって、まるで前世の近代的な建物を彷彿とさせる雰囲気を醸し出している。
そして目を見張るのはそのサイズ。
一つの丘並に巨大だったあのライム(本来の姿)すら小さく感じる程の圧倒的サイズに、俺は前世のアニメやゲームを思い浮かべた。
「デカイな……」
『リヴァ姉さんに比べたら小さい方だよぉ』
うん? リヴァ……なんだって?
聞き慣れない単語に、そう聞き返してしまった俺。
『淵海龍 リヴァイアサン。身内よ』
後で詳しく聞いたところだと、水属性を司る七星龍の一柱でベヒモス、オロチの姉にあたる龍なのだとか。
「ベヒモス様……」
っと、そんなに余裕は無いんだったな。
思い詰めたような表情でベヒモスを見つめるレフィスの呟きにハッと我に返った俺は、ベヒモスに追い付くべく再び転移するためにレフィスの手を握った。
最初に言っておくが、複数人で転移するために行った事であって、彼女に対してそういう気というものは決して存在しない。
「よし、じゃあ早速第二ラウン『お待ち下さい』……?」
『御主人様、現在の我々の戦力では、進行を一時的に食い止める事しかできません』
さてやるか、と体に電気を走らせて【電光石火】の発動の準備をしていた俺に、そんな事を言ってきたルシア。
まぁ確かに、サイズや力はさることながら、回復したとはいえ魔力量も遥かに劣っているのだ。
(でも、時間稼ぎだけでもやらなきゃ、あの速度じゃすぐにベクトリールに到達しちゃうぞ)
巨体故に動きはかなり鈍重だが、巨体だからこそ歩幅が広く、少なくとも電車以上にスピードが出ている。
このままでは半刻足らずでベクトリールに到達してしまうだろう。
(どうするの?)
『助っ人を呼ぶ他無いと思うわよ』
助っ人って言ったって……そんな都合良く来る訳じゃ無いっしょ。
それに、生物を簡単に押し潰せるような重力を何とかできるような存在なんて、ごく少人数しか知らないぞ。
『もう少し待ってれば向こうから来るんじゃないかしら』
(向こうから? ……あっ)
ディメアのその言葉で、俺はようやくディメアの言っている『助っ人』が誰なのかを理解した。
どんな時だろうと強大な魔力を感知したらどこからともなく飛んでくる彼女なら、まぁ確かに希望は見えてくるだろう。
そう、シャロンである。
『でもぉ姉さん、あの子が協力してくれる保証は望み薄なんじゃないのぉ?』
『そうなのですか?』
『実はねぇ、前々からあの子には兄さんの魔力が少しだけど感じ取れてたんだぁ』
オロチ曰く、シャロンの発していた魔力の一部にベヒモスの発する魔力を感知できるらしい。
ちなみに魔力というものは、その人物だけが持つ特有の波長(?)に似たものが指紋と同じように無数に存在するらしく、その者と全く同じ波長の魔力を発するという人物は存在しないのだとか。
『ほんの少しこびりついてただけだからぁ、時々会ったりしてたんじゃないのかなぁ? ってねぇ』
『多分知り合いよ。本人から前に確認取っているし』
え、それって協力してくれる可能性低いんじゃないの?
確認を取った場所というのは、きっとシャロンがディメアに会いに俺の中に入った時だろう。
果たして「君の知り合いの神龍を殺したいから、協力してくれない?」と言って承知してくれるものだろうか?
『だから、これは半分は賭けになるわ』
賭け……協力してくれるか否か、という事か。
「……誰と話してるの?」
「ん、ちょっと知り合いとね……ってあれ? 俺、話してた?」
「【主と従】を持っていて長時間黙っていれば……察する」
そういうことね。
そういえば神具の本で俺やルシアについて調べてたし、その時に確認した俺の能力値から今の答えを導きだしたのだろう。
「もしかしたら知り合いが来るかもだけど、ベヒモス倒すの手伝ってくれるかな? っていうのを話してただけ」
「……君の知り合いはベヒモス……様と渡り合えるの?」
「魔力量だけいえば、アイツにも引けを取らないレベルで凄いと思うよ」
なんか攻撃魔法は使えないとか言ってたけどね。
『っ……強大な魔力を感知しました。こちらに転移してきます』
っと、噂をすればなんとやら。
ルシアがそう言うと同時に、俺達より少し前方の空間が収束しだした。
この魔力の収束は空間を目的地へと繋ぐ為に起こる現象で、この魔力の集まり具合で転移してきた人物の魔力の高さが簡単に伺い知れるのだ。
俺はまだ魔力の質で人物の特定はできないのだが、この状況での転移だったら間違いなくシャロンだろう。
『……いえ、これは魔族のものではありません』
「えっ?」
「……?」
思わず出してしまった声に反応してか、どうしたのだろうといった様子でこちらを見てきたレフィス。しかし直後に転移の魔力を感知したのかすぐさま振り返った。
シャロンではない別の誰か……初めて出会う人物だとしたら、味方であるという保証は無い。
『……この魔力』
そんなルシアの呟きの直後、小さく収束していた魔力と空間が広がり、周囲に雷を迸らせながら転移魔法の使用者が現れた。
「……へっ?」
「む」
白髪で碧眼の狼の獣人……見間違える筈がない。
「お、オーガ!?」
シャロン曰く『生物最強』、出会って数日の付き合いだったが今でもハッキリと覚えている。
しかし何故此処に?
「久し振りだな」
「え? あ、うん。久し振り」
プチ混乱中の俺は、オーガの台詞にオウム返しをした。
久々の再会を喜びたいが、それより先に驚きや疑問が頭に浮かんでくるので、未だに理解が追い付いていないのだ。
「どうして此処に?」
「あれの力を感じたからな」
そう言ってクイ、とベヒモスの方向にあごをやったオーガ。
なんでもベヒモスの復活による被害(主に地震なのだとか)は、他の大陸にまでも及んだらしく、ただ事ではないと判断して転移して今に至るらしい。
確かオーガはレイテクスという大陸に行くと言っていたが、大陸越しでも魔力が届いてしまったのだろうか?
「どんな状況かは大体分かった。勝手にやらせてもらうぞ」
「え、あちょっと!」
言うが早いか、【電光石火】を使ってベヒモスの元へさっさと行ってしまったオーガ。
って早い早い!
「取り敢えず俺達も『いえ、御主人様』」
オーガに続こう、と言おうとした俺の言葉をルシアが遮った。
『我々はひとまず、ベクトリールへ向かいましょう』
(ベクトリールに?)
『はい。ライムの視覚情報を確認しましたところ、我々の予想していた以上に民の混乱が大きいです。混乱の収束を促す為にも、まずは王への情報提供が最優先かと』
成る程、確かにオーガならベヒモスを何とかしてくれるかもしれないし、少なくとも時間を稼いでくれている間にマグナさんとかに詳しい状況説明ができるだろう。
「そうと決まれば、早速行くよ」
「行く……何処へ?」
「ベクトリールに」
えっ、とレフィスが反応するより早く、俺はベクトリール城の転移魔方陣を指定して転移を開始した。
「……半年足らずでよくあそこまで成長したな」
ファル達がベクトリールへ向けて転移していったのを遠ざかりつつある背後で感じ取り、オーガはポツリとそう溢した。
デイペッシュで別れた時はまだ人拐いの暴漢に怪我を負わされる程度の戦闘力だったのが、今では七星龍と渡り合おうとするまでに成長しているのだ。驚くのも無理は無いだろう。
しかし、オーガは驚きと同時に、その成長に対して嬉しさを感じていた。
子の成長を喜ぶ親のように。
「七星龍か……」
「軽く相手してやるか」
神龍に対して余裕の表情を見せているオーガは、そう言ってベヒモスに突撃した。