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圧倒的戦闘

「お父様……ッッ!?」


  ルーガが突入の為破壊した扉を覗いたヘンリーは、その先に広がっていた光景を、痛め付けられた兄と父の姿を視界に収めてしまった。

  年齢的にも身分的にも多量の血を見たことの無かった彼にはかなりのショックだろう。


「……王子、お許しを」


「っ! 放して下さいじいや!」


  少し遅れてヘンリーの見た景色を目にした彼は、隣で呆然としているヘンリーを抱き上げ、その場から走り出した。

  王子を危険から守る為、しいては親族のあの姿をこれ以上見せないための行動である。


「放して! 僕も女王さまと一緒にお父様達の仇を取るんだ!」


「相手は『幻霞闇影』を倒す力を持っております。王子の御力(おちから)ではあの者に敵う筈が御座いません」


  彼は倒れていた人物の中に、王とごく一部の人間にしか知られていない四人を発見しており、一瞬で現在のトイドルの力を見計ったのだ。

  ただでさえ歳相応に力の無い子供、ベクトリールでも屈指の実力者を戦闘不能にするだけの力を持つ人物を、王子に近付ける訳にはいかないだろう。


「ルーガ女王は言っておられました。『きっと助け出してみせます』と」


「っ……」


  暴れるヘンリーの動きが止まった。


「女王様を信じましょう」


「……僕に、僕にも力があれば……!」


  ヘンリーの呟きを、使用人は無言で聞いていた。


  力無い者は強者に守られるのが運命、この場において弱者であるヘンリーは、自身が守られるだけの存在である事の非力さを嘆いているのだ。

  そしてそれを十二分に理解している使用人は否定も肯定もせず、ヘンリーの悔しげな呟きをただ受け止めていた。


「もう……守られるだけは嫌です……」




  ヘンリーの呟きが、驚くほど無音の城内に響いた。











「ほぉ! 今の攻撃を避けますか!」


「それは私の台詞っ……です!」


「はっはっは! その程度の攻撃、私には掠りもしませぬぞ!」


  トイドルの魔法による岩石射出を剣で誘導するように受け流し、反撃に転じるルーガだが、彼の発する特殊な磁界によって剣を逸らされて互いに有効打を与えられない状況が続く。


(重力操作が厄介ですね……)


  放つ魔法が強力な事以外は彼が戦闘に関して素人であるのは、数手のやり取りの中で彼女は確認済みであるが、どんなに力や速度を乗せても磁力によって金属製の剣は空を切ってしまうので、

  ベヒモスの加護によりとてつもない力を得たトイドルには、今のルーガの攻撃は殆ど無効化されてしまうようだ。


「しかし驚きましたな。一介の王族がこれ程までの力を持っているとは……神龍の御加護を受けていなければ死んでますぞ」


「……女王になる以前は色々とありましたので」


「ふむ、大変興味の惹かれる話ですが、聞くのは()して終わらせてしまいますかな」


  そう言ってトイドルは水晶を持ち上げ、下へと落とすような仕草を取った。


「っ……! マズイ……!」


  そしてマグナが痛みにこらえつつそう声を絞り出すや否や……。




「……わっ!? 体が重くっ」


  ズンッ! という音が聞こえそうな程の、突如襲ってきた重圧によってルーガが片膝を着いた。

  地下での戦いでファルを苦しませた超重力である。


如何(いかが)ですかなルーガ殿! 私が神龍から賜った力の本髄は!」


  ルーガの様子から確かな手応えを感じたのだろう。トイドルは満面の笑みを浮かべつつそう叫んだ。


「現在、貴女様には体重の十倍もの重力が掛かっております故、まともに立ち上がる事はすら困難でしょう! 私の奥の手、こんな早くに使わせるとは、流石は女王陛下ですな!」


  勝ち誇ったような笑みでそう言いつつ水晶を掲げ、赤子の拳程度の小さな岩を無数に生成したトイドル。

  一つ一つの岩は直撃しても打撲で済むサイズだが、これが数十個、魔法による加速が加わった場合は話が別だ。

  いくらルーガと言えど骨折は免れないだろう……。


「では、私もすべき案件が残ってます故、この辺でお開きと致しましょう」


  そう言い終えた直後、岩の集まりがルーガを襲った。

  マグナ達の様に足を潰すつもりなのだろう。






「勝手に終わりにされてしまっては……」


  岩がルーガに届くまで、時間にして二秒弱。

  しかし、その中でもルーガは表情を変えずにトイドルを見据えている。

  寧ろ戦闘を楽しんでいるかのな雰囲気を発しているのは、久しい強者と出会ったからだろうか。




「……困りますねっ!」


「なっ……」


  通常の十倍近くもの重力が働いている空間で、数百キログラムにまで増えているだろう自身の体重をものともしない、とでも言いたいのか、トイドルへと肉薄するように跳躍したルーガは迫る岩の集合の下をくぐり抜けた。


  つい今まで勝利を確信していたトイドルも、これには驚きを隠せない様子である。


「馬鹿な、この空間で自由に動けるというのか!?」


「やっぱりですね」


  ルーガのカウンターの一閃を防いだトイドルの様子から、そして幾多の戦闘経験からくる勘から、ルーガはトイドルの先の『奥の手』という単語が事実である事、これ以上の重力を発生させる事が不可能な事を察した。


「な、何故あの重力下でまともに動けるのですか……十倍ですぞ!?」


たったの(・・・・)十倍ですか?」


「た……たった!?」


  あんぐりと口を開け、陸に上がった魚のように口を開閉させているトイドルの目の前で、ルーガは「よいしょっと」と立ち上がり、身軽そうに数度ジャンプをした。


それくらい(・・・・・)の重さ、力でなんとでもなりますよ?」


  オーガという世界最強の生物に拾われ、その人物と同じ空間で十数年を過ごしてきた彼女もまた、最強クラスの身体能力を誇っている。

  そんなルーガからしたら、たかが(・・・)数百キロは筋力でごり押せる程度の重さでしかないのだ。


「さっきは突然きたので驚いてしまいましたが、もう慣れました」


「慣れっ……!?」


「次は、こっちの番ですよ!」


  形勢逆転、この単語を明確に表すような状況となった事により、ルーガが狩る側、トイドルが狩られる側へと立場が逆転した。


「し、しかし! まだこの重力の結界を攻略はしていない筈! まだ私は負けておりませぬぞ!」


「それも……」


「ぬぁっ!? 何が」


  まだ敗北した訳ではない、勝機はある。そう自身に言い聞かせるように洩らした言葉は、半分合っていて、そして間違っていると言えるだろう。

  確かにまだルーガに敗北してはいない。しかし、戦闘経験の差からトイドルがルーガに勝利する事は確実に不可能なのだ。




  大小様々な岩を乱雑に生成しだしたトイドルに対して、ルーガは『見る』能力を奪う【真の暗闇(ブラックアウト)】を発動させた。


「み、見えん……何をした!」



  魔法や技能(スキル)の性能というのは、素質や魔力量だけではなく精神面でも大きく左右される。

  光すら通さない漆黒の視界に、トイドルは混乱し、一瞬だけだが重力の全てを解除させてしまった。





  すぐさま全身に重力の結界を展開したトイドルだったが、ルーガにとっては、その一瞬にできた隙で十分事足りる。


「遅いですよ」


「なっ……背後……!」


  【影潜瞬移】でトイドルの背後に回ったルーガが、トイドルの肩、膝裏を切り裂き、首筋に剣を当てて【真の暗闇(ブラックアウト)】を解除させた。


「ぅあっ……っが!?」


「無力化完了ですね」


  ルーガはトイドルに当てている剣を放し、鞘に収めて立ち上がった。


  手足の自由を奪われ、一瞬でも死の恐怖を味わったトイドルには、暫くは力を行使することは不可能だと判断しての行動なのだろう。




「マグナ殿、アスオフ王。御無事ですか?」


「……る、ルーガ殿。貴女は一体……」


  【多次元収納】から包帯を取り出して応急処置を施すルーガを見て、畏怖からくるものなのか、若干震えた声でそう聞いたアスオフ。


「女王になる以前、様々な修羅場を通ってきただけですよ」


「……まさか無傷で倒してのけるとは」


  アシュトルスの力はファルだけが持つものでは無かったのだな……と呆れと諦めが混じった声音で呟いたマグナ。


「恐らく、騒音に気付いた兵士が来ると思いますので、怪我の手当てはそちらでお願いします」


「……えぇ。か、感謝します」


「では」


  足の応急処置を終えたルーガは立ち上がり、そう言って踵を返した。


「どっ、何処へ?」


「アシュトルスの方の対処をしに行って参ります」


  それだけ言い残して【影潜瞬移】でこの場から去ったルーガを見届けた二名は、ルーガの言っていた通りこの部屋へ向かってくる複数の足跡を聞き取り、何とも言えない状況に顔を見合わせていた。


「父上」


「……言うな。分かっている」







「またアシュトルスに借りが出来てしまったな」


  ファルが崩落に巻き込まれてから三十分後の事である。

次回からファルの視点に戻ります。

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