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ルーガ、突入

「……ん? ええっ!?」


  ルーガに担ぎ上げられ、反射的に閉じていた目を開けたらそこは城の中だった……。今のヘンリーの発した驚きの声は、簡単にいうならそういう内容が含まれていた。


「じょ……女王さま。今のは……何でしょうか?」


「私の技能(スキル)です。ちょっと時間が無いので使わせてもらいました」


  ルーガが使用したのは【影潜瞬移】。

  影を経由して素早く移動する手段であるが、生まれて一度も国を出た事が無く、移動系の技能(スキル)は名前でしか知らないヘンリーには、それこそ未知の体験であったものだろう。


「っ!! 王子!」


  ほぼ不法侵入という形で入城したルーガは、自身の突然の出現に驚きつつも、その背後で目を輝かせていたヘンリーを発見するや否や名前を叫びつつ近付いてきた初老の男性と目が合った。

  彼はベクトリールの使用人でヘンリーのから「じいや」と呼ばれていた人物である。


「あっ、じい「どこで何をなさっていたのですかっ!」……うっ」


  自身が見知った人物を発見し笑顔になったヘンリーは一転、獲物となった小動物のようにルーガの影に隠れた。

  やっぱり無断で抜け出したんだな、と同情しつつも現在の切羽詰まった状況を思い出して二名の間に入った。


「全く……王子がお見えにならなかった事と先程の揺れのせいでどれだけ城内が騒然となった事か……」


「お取り込み中申し訳ないのですが……」


「ああっ、大変申し訳ございません……女王様の御前で失態をお見せしてしまいました……」


  行儀良くそう謝罪した使用人に、ルーガはメテラードで起こっている事態を簡潔に説明した。




「……ではこの揺れは、神龍が復活した事によって起こったもの……と、いうことで御座いましょうか?」


  大陸は現在も僅かだが揺れており、その言葉の信憑性は限りなく高いと判断した使用人は、ルーガが訪ねてきた理由と目的を察した。


「……話を通す時間は御座いませんね。ご案内致します」


「お手数をお掛けします」









「陛下、ルーガ女王が御来客で御座います」


  小さな揺れが続く中、無意識下で早足となっていた使用人とルーガは、マグナが緊急の会議を開いているという部屋の前に到着していた。

  ヘンリーもちゃっかり付いてきている。


「……? 陛下?」


  会議が立て込んでいるのだろうか? そんな疑問を抱きながらも何度かそう呼び掛ける使用人。

  しかし反応がない。


「申し訳ございません……只今会議の方が「いえ、違います」……はい?」


「……少し下がって下さい」


  反応がない、それ以前に話し合いをしている声、物音すら聞こえない事に対してある種の違和感を感じたルーガは、二人を下がらせて剣を抜いた。


「い、一体何をなさるおつもりで……」


「女王さま?」


「扉代は後程弁償します。はあっ!」





  ザンッ!!!


  突然の行動に戸惑いを隠せない二人を尻目に、ルーガは双剣を抜き、扉に向かって振り放った。。

  肉眼では捉えきれないスピードで抜き放たれたそれは、金属であしらわれた装飾ごと切断し、斬撃の余波で周りの壁に傷を付けた。

  二メートル以上の巨漢すらくぐり抜けられそうな巨大な扉を壁ごと……である。


  剣筋があまりに速く鋭利だった為か、テーブルクロス引きで倒れる事の無かった食器のように、扉は原型を保ったままになっている。


「久々に振ると、やっぱり腕が鈍ってるのが分かりますね」


「……る、ルーガ女王?」


「格好いい……」


  無数の驚きから、返す言葉が見つからずに口をぱくぱくと開閉させている使用人と、扉を切り裂いたルーガを羨望の眼差しで見るヘンリー。


「使用人さん、この先にはマグナ王やこの国の要人が集まっている。そういう事で宜しいでしょうか?」


「え、ええ」


「この扉の先に敵がいます」


「!?」


  ルーガの口から語られたその一言で、使用人は開いた口が塞がらなくなった。



  敵? この状況で、あの警備の中を掻い潜って?

  使用人の胸中は、恐らくこうなっていることだろう。


「敵の数は分かりませんが、少なくとも陛下は存命です」


「お父様……?」


「きっと助け出してみせます。なので安心して下さい」


  不安そうな表情のヘンリーにそう告げたルーガは一度剣を鞘に収め、勢いに身を任せるまま扉に体当たりをした。

  先の斬撃で支えが無くなり脆くなった扉は、ルーガの小柄な体格の体当たりで容易に崩れ、突破を許した。




「むっ……?」


  扉を抜けた先、使用人の話では会議室となっているその部屋は、椅子や机といった物が存在せず、およそ会議室とは呼べない質素な空間となっていた。


  そしてその部屋の最奥、足を潰されたのか血が滲み、壁にもたれるように座っているマグナとアスオフ、血みどろで倒れているベクトリールの要人達……。










「これはこれはルーガ女王陛下。面と向かって挨拶できるとは、光栄の限りですな」


「貴方かレーゼンですか」


  そして、それらの惨状を作り出した張本人だろう。トイドル=レーゼンその人が立っていた。

  ファルやマグナの口から語られた特徴、そしてこの状況と貴族の身なりから、彼がベクトリールを裏切った元大臣であることを察するのは容易な事だろう。


「ぐっ……女王殿……」


  痛みからか呻きつつ、そう口にしてルーガに助けを求めるように手を伸ばしたアスオフだったが、その腕は突如、重力が加わったかのように下へと落ちた。


今日(こんにち)は神の御霊が降臨なさる聖なる日。雑音はお控え下さいアスオフ陛下」


  その場から一歩も動かずにアスオフを黙らせたトイドルは、改めてルーガの方を向き直り笑顔を作った。

  勝利を確信した、歪んだ笑顔だ。


「この場に女王陛下が現れるという事はつまり、この大陸で今起こっている事を知っていての行動で御座いますな?」


「ええ。ベヒモスが復活した……という事でしょう?」


「素晴らしい! 流石はアシュトルスの女王だ!」


  そう言って高々と笑いだしたトイドル。


「何が目的ですか?」


  トイドルにそう問いつつ、倒れている人々を確認したルーガ。

  目的を問うたのはあくまでも方便。実のところは生存者を確認するための時間稼ぎである。


「よくぞ聞いて下さった! 我々神龍を崇める者達の目的、それは……」

(一応全員生きてはいます……が、危険ですね)


  嬉々とした表情で語り始めたトイドルを無視する形で耳を澄ませたルーガは、そこにいる人数分の呼吸を聞き取り、無事を確認した。


  しかし、無事というのはあくまでも死者がいないというだけ。

  貴族ではない、動きやすさに重点をおいた服装の男女数名は恐らく暗部。トイドルに戦いを挑んで重症を負ってしまったようだ。


「……神龍の力を手にした我々は神の御力によってこの大陸を一度浄め、新たな生を得ようとしているのです!」


  トイドルが、大仰な態度でそう言い切った。


  ……現在の話をルーガは全く聞いていなかったが、つまり「ベヒモスの力で一度この大陸を沈め、新たな大陸を生物と共に創造する」という事を彼は言っていた。

  かなり要約したが、そういう事なのである。


「そこで! ルーガ女王陛下。聡明博識な貴女様に一つ御提案がございます」


(つつし)んでお断りさせていただきます」


  聡明博識と言われ少し複雑な心境のルーガはトイドルの提案を、内容を聞かずに拒否した。

  何を言うか大体察しがついたからだろう。


「我々の役目は民を守る事、滅ぼそうと考えている方々とは相容れかねます」


「ふむ、それは残念だ」


  ルーガの返答を聞いた直後、トイドルは言葉ほど残念そうな素振りを見せず、魔力を放出した。



「神の御加護に入ればこれだけの力が、それに見合うだけの名声が得られるというものを」


「名声に興味は御座いませんし……力は既に持ってますので」


  お互いこれ以上の対話は無駄だと判断したのだろう。ルーガは剣を、トイドルは灰色の水晶を取り出し、互いに牽制した。


「御安心を、殺しはしませぬ。ただ、そこの元国王共々大陸が沈むのを最期まで見届けていただきますぞ」


「貴様……!」


  マグナが怒りの形相でトイドルを睨む。

  しかしトイドルは何処吹く風といった様子で動けぬマグナを見下ろしている。


「元陛下、貴方様に恨みは無い。寧ろ恩すら感じているのだ。しかし私には目指す世界がある、求める夢がある!」


  そう叫びながら腕を振り上げ、仰々しく振る舞ったトイドル。

  その姿はさながら、悪魔を崇拝する邪教徒のようである。


「なので元陛下、貴方にはこの大陸最後の国王として見届け人となっていただく」


「見届け人は必要ありません」


「む?」


  ルーガの一言に対し不思議そうな表情でもって反応を返したトイドル。


「この大陸は沈ませませんよ」


「ははっ、何を言うかと思ったら……女王陛下も御冗談がお好きですな」


「冗談に聞こえますか?」


「なるのですよ、冗談に。そもそも神龍が復活した時点で事態は手遅れ、今からどう足掻こうとこの大陸は沈む運命なのですぞ」


「証明してあげましょうか?」


  身を屈め、身体をバネのように縮めたルーガ。


「ほう、面白い」


  ベヒモスの加護により数十倍に膨れ上がった自身の魔力を水晶に込め始めたトイドル。










  次の瞬間、両者の溜め込んだ力が爆発するように解放され、激突した。

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