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崩落

投稿遅れてしまい、申し訳ございません。

『えっ……え? 何が起こったんだ?』


  俺達に直撃する寸前に消え去った岩石を見てプチ混乱状態に陥っている俺は、取り敢えず事の原因であるオロチに説明を求めた。


(ボクの力を使っただけだよぉ)


  オロチ自身の力? 闇属性の技能(スキル)かなんかで岩なんて消せるのか?


  闇属性とは本来、呪いとして相手に付与したり闇に溶け込んだりといった特性に、良くも悪くもそれのみに特化した属性であり、物理的に作用するような事は殆ど無いのだそう(オロチ談)。


「ふっふっふぅ……ボクの【蝕呪】、しっかりと効いてるみたいだねぇ」


  蝕呪……それであの岩を消したという事なのだろうか。


『私の【時戻】と同じように、神技能(ゴッドスキル)で発動可能になる技能(スキル)ね』


  ディメアの話によると、たった今オロチが発動させた【蝕呪】という技能(スキル)は【闇呪龍の誓い(ヤマタノオロチ)】を所持している人物……つまりオロチのみが使用可能の技能(スキル)なのだとか。


  そして気になる性能だが……この技能(スキル)、自身の魔力が浸透した土地、対象、空間を自身の思うがままに操る事ができるとかいうとてつもなくチートな能力であった。



  あの時の岩石は消えたんじゃなくて消してたんだな……。


『いつの間に……。我輩との戦闘中、()の位置にお前は来なかった筈だ』


  魔力だって殆ど放出していなかった筈、と喋るベヒモスに、俺も同感の意を示した。


  オロチ人形として魔力を放出していた時ですら、今ベヒモスが岩石を召還した場所までは届いていなかった。

  それに、万が一魔力がそこまで届いていたとしても、それが地面にまで浸透するのにはかなり時間が掛かる筈なのだ。


  魔法の防御に土属性を使用するように、無機物というのは魔力や魔酸素を透過させにくい性質をもっているのだ。

  それをこの戦闘数分の内に完了させるというのは、(いささ)か無理があるというものではないのだろうか?


『液体ってさぁ、魔力とも良く混じるし地面にも浸透するんだよねぇ』


『液体……あっ』


  そういう事か!


  オロチの言葉を聞いて技能(スキル)のタネを理解した俺。


  先程からオロチは敢えて攻撃を生身で防御し、傷を負っていたのだが、その際に流れた血を周囲に撒いていたのだ。

  血液は液体、自身の魔力を濃縮させた血液は地面を濡らすと同時に内部まで浸透し、内側から魔力を侵食させていたのだ。


  外部から侵食するより内部からの方が遥かに効率的だ。オロチはそこを突いたのだろう。


「兄さんが地の利で勝っていたとしてもぉ、支配下に置きさえすればぁこっちのものなんだよねぇ」


『……不覚』


  ベヒモスの悔しそうな声が響く。

  相手に出し抜かれた事が不快だったのだろう。


「さぁて兄さんどぅするぅ? このまま復活されるとボクの縄張りまで被害が出て迷惑なんだけどぉ、もっかい封印される気はなぁい?」


  形成逆転という形で勝利を確信したオロチが、ベヒモスにそんな提案をした。

  あくまで自身の大陸の事が最優先みたいだが、それでも協力してくれるのは助かる。


(どっちかというと兄さんが気に入らないだけだしぃ、ただの口実だから気にしないで良いよぉ)


  ……それを言わなければなぁ。




『封印……か』


「ほぉっておいても絶対何かやらかすでしょお?」


  意味ありげに呟くベヒモスにそう言ったオロチ。

  凄いよな、邪魔だから大人しくしてろ(イコール)殺害で、頭冷やして反省してろ=封印だもん。神龍の常識は俺には理解できないよ。


『我輩はまだ、敗北したとは言っていない』


『……うん?』


  わりと危機的状況に陥っているだろうベヒモスが発していた悔しげな雰囲気を一変、「第二ラウンドだ」と言わんばかりの口調でそう言い出した。

  本体はオロチの【蝕呪】範囲内の地中におり、魔力の供給はおろか攻撃すら封じられているのだ。


  この状況を打開してしまうような手段なんて……。



『あるにはあるわよ』


『えっ……』


『でも平気よ。それにはかなり魔力が必要だから、魔力を補充する手段が無いあれには何も出来ないわ』


  話によると、ベヒモスがこの状況を打開するには自身の封印を完全に解く事が必要なのだとか。

  確かにベヒモスの肉体まで復活してしまったら、こんな地下数百メートルにいる俺達はこの大陸ごと海の底に沈んでしまうだろう。


『心配しなくて大丈夫よ。ここまできたら逆転なんて有り得ないし』


『あっ、それフラグ……』


  キョトンとした表情でこちらを見てくるディメアにそう突っ込んだ。



  ……「やったか?」と「余裕っしょ」は言っちゃいけないんだよ。






『此の女の魂を贄とすれば、我輩に残っている力でも復活の儀には事足りる』


「『……あ』」


  あ、じゃないよ!


  レフィスの存在を完全に忘れていたらしい(俺もだが)二名の呆けた声にそんな突っ込みを押さえきれなかった俺。

  そういえば、さっきまで【土砦龍の祝福】とかで魔力を相当量溜めていたからな、魂を生け贄として復活の儀式をされたら……。


『ルシア! なんとかならない!?』


『無理よ。あれとの距離が遠すぎる。……復活は避けられないわね』


『そんな……』


  フラグとか言った俺もあれだけどさ、大陸沈むのは……何とかならないのか?


『少々お待ち下さい……』


  ルシアが何かを探している。

  打開策では……無いようだが。


御主人様(マスター)、ライムを介して外部にこの自体の報告をお願いします。オロチ様はできるだけベヒモスから魔力の搾取をお願いします』


「おっけぇい」

『……ライム! 緊急事態だ!』


  ルシアが俺達にそう言い、【神察眼】を用いて周囲を確認した。


  オロチはベヒモスの元に肉薄し、レフィスから吸われていく魔力に割り込んで俺の【万物吸収】を発動、魔力の流れを僅かに防いだ。


『ベヒモスが復活する! ルーガでも誰でも良いから、とにかくこの事を外に知らせてほしい!』


『んっ。今揺れた。近くにおーじ様いるから知らせる』


  エグルフさんを護衛する形で避難したライムはそう答えて【主と従】の回線を切った。

  今はルーガ達のいる宿にいるらしく、何故ヘンリー王子がいるのか分からないが、こちらもそんな事を考えてられる程悠長にはできないのでこちらの行動を優先させた。


『……そこですね。ディメア様、今から提示します位置空間の時を『固定』させる事は可能でしょうか?』


『えぇと……できなくは無いわ。どうして?』


『この位置に強大なエネルギーが溜め込まれているのを確認しました。これの働きを抑制させれば、火山の噴火による大陸沈下は回避できる可能性がございます』


  ルシアの話だと、俺達の立っている場所より遥か真下に巨大なマグマ溜まりと、大陸全体に広がる地脈があるらしく、ベヒモスの復活の際にこの場所に大きな衝撃が及ぶと例の大陸間大噴火が起こるのだとか。

  なので、その場所の働きを一時的に停止させる事によりベヒモス復活の際の衝撃をズラして噴火を阻止させよう、という作戦らしい。


「……あ、兄さんの魔力放出が無くなったぁ。一旦元に戻るねぇ」


  オロチがそう言って【憑依操作】を解除した。

  フッと意識が手元に戻った感覚に、俺は肉体が戻った事を実感した。


「俺はどうすれば?」


『ディメア様の空間停止が完了次第転移で脱出しますので、御主人様(マスター)はその準備をお願いします』


「分かった」


  と、先程から感じていた地面の揺れが更に激化し、天井から岩が落ち始めた。

  ……ここが崩れるのも時間の問題だな。



  俺はふと、足元で眠るように動かないレフィスに視線が移った。

  ベヒモスに魔力を殆ど吸われ、(ほお)っておけばすぐにでも死んでしまうだろうその肉体。







  ……あぁチクショウ。


  命を狙い、俺を狩る為に敵対した人物、本来はここで『自業自得』の一言で切り捨てるものなのだが、どうしても放置しておく事ができなかった俺の一面がそれを否定する。


  俺は魔力が絶え、虫の息となりつつあるレフィスを抱き上げて魔力を少し与えた。



『うん? 良いのぉ?』


  それを唯一見ていたオロチ。


(……敵とはいえ、祝福を受けた相手に搾取されて死ぬような最期は見過ごせないや)


  魔力の残量的にも、レフィスを込みでも転移するには問題なさそうなのを確認した俺は、結界を張って降ってくる岩を防ぎつつディメアの準備完了を待った。








『……設定完了よ。やっちゃいなさい』


  調整を終えたディメアが、そう言って俺に技能(スキル)の発動を促した。


  技能(スキル)の使用権は、現在体を使用している俺にあるのだ。


「よし……。技能(スキル)の名前、何て言うの?」


『念じれば発動するわよ』


  成る程……よし。



  俺は転移をするときと同じような感覚で地下の空間を止めるイメージを練り、それを念じた。

  すると俺の魔力がゴッソリと無くなるのが実感できた。


  成功したのだろう。


「よし、じゃあ俺達も転移で……あれ?」


  この場所に用は無いと転移魔法を発動させた俺。

  しかし、どういう訳か普段は発動している筈の転移が発動しないのだ。


「ど、どういう事?」


『……転移魔法が阻害されております』


『……あの馬鹿龍の仕業ね』


『えぇ……っていう事はぁ少しマズイんじゃなぁいのぉ?』


  少しじゃないな。


  どうやら、俺達が脱出する事を見越した上で超重力に使用していた魔力を、魔法を阻害する力に使用していたらしい。


「ディメアの技能(スキル)は……」


『私の技能(スキル)は魔法より燃費が悪いわ。……魔法で何とかなるのを見越して使ったから、もう転移するだけの魔力なんて残ってないわ……』


  ……マジかよ。


  つまりは脱出不可能……。





「……こうなったら一か八か、やるしかないか」


  脱出ができないという事に、一瞬『死』という単語が浮かんだが、確率はかなり低いが生存できる可能性がある、とある方法に全てを賭ける事にした。



  と、地面の揺れがもはや、まともに立っていられない程に大きくなり、レフィスを抱えた俺は大きく体勢を崩した。


(間に合えよっ……!)












  そして遂に、衝撃に耐えられなくなった天井が落ち、俺達はそれに飲み込まれた。

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