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エグルフの罠(?)

投稿遅れてしまい申し訳ございません。

本当に申し訳ございません……。

「今日はエグルフさんの所に行こうと思う」


  あの事件の翌日、俺は食卓の場で本日の予定を報告した。


「どうしたんですか突然?」


  パンにかじりつきながらルーガがそう聞いてきた。


  ……昨日あんな事があったのに随分と呑気だな。とか突っ込みたい気持ちは全員あると思うが、どうやらあの呪いは本人の記憶が無くなるという反動があったらしく、朝起きたら「あれ? どうして私はファルちゃんのベッドに?」といった様な様子だったのだ。

  ……まぁ変に覚えていて今後が気まずかったりするよりかはマシだろう。


「朝早くにこれが転移されてきてさ」


  俺は前回と同じ方法で部屋に転移された羊皮紙をルーガに見せた。


「えーと……『渡したい物がある』ですか。何ですかね? 渡したい物って」


「俺も分からないんだよね」


  エグルフさんの言葉は大半、主語の主語しかないので言いたいことの意図が分からないのだ。


  ……いやまぁこの文章から何かを渡したいっていうのは分かるけども。


「ところでテスちゃんは?」


「熱っぽいとかで寝てる。顔も赤かったしな」


「……あぁうん、そういう事ね」


  多分それは風邪引いてるとか、そういう事ではないと思うぞ、グレイ。

  昨日、不幸にもあの事件を見てしまった時のテスを思い出してため息を溢した俺。

  あの後なんとかして誤解を解こうと思って部屋まで行ったのだが、ドアを固く閉ざしたまま出てこようとしなかったので未だ誤解が解けていないのである。


  多分そういう事なのだろう。


「大丈夫でしょうか……すぐに治れば良いですけど」


「原因はルーガなんだよなぁ……」


「ふぇ? 何か言いました?」


「なんでもない」


  頭上にハテナマークを浮かべているルーガ。


「まぁどちらにせよ、今日はエグルフさんの工房に行ってくるからね。ルーガ達はどうする?」


「私はマグナ王と面談がありますので」


「グレイは?」


「俺はテスの様子を看てる」


  目玉焼きの黄身をフォークでつついていたグレイが、即答でそう答えた。

  ちなみに目玉焼きは半熟にしてある。


「分かった。それじゃあライム、少ししたら出発するぞ」


「んっ」


  一足先に食事(飲水)を終え、本を読んで勉強中だったライムがそう反応して立ち上がった。

  最近はテスの相手をしてもらってばかりであったライムだが、たまには息抜きも必要だろう。















「……という訳で来たは良いけど、何を渡そうとしてるんだ? エグルフさんは」


  エグルフさんの工房に到着した俺とライムは、前とはかなり様変わりした通路、という光景に先に進ませる筈の足の速度を遅らせていた。

  様変わりの度合いとすると……。壁や地面に無数の大きな亀裂が走っており、その切断面から侵食していくように紫水色の結晶が生えている。


  ……一体何をどうすればこんな事になるんだろうか。


「んー……わナ?」


「いや、エグルフさんに限ってそんな事はないでしょ」


  そもそもエグルフさんが俺達を罠に嵌めるメリットが存在しない。

  多分『渡したいもの』というやつが関係しているのだろう。


「それに、これが罠だったら俺達もう嵌まってる筈だしっ――」





  そう言った俺の右腕を、不規則に変化しながら飛ぶ謎の刃物状の『何か』が掠めた。


「……へっ?」


「わナっタ(翻訳=罠あった)」


  音速のレベルで俺の肌を切り裂いた『何か』は、そのまま背後の壁にぶつかり、「ギャリィィィン!」というおよそレンガを切り裂いたようには思えない音をたてて壁の一部を切断した。

  そしてその斬痕から漏れ出るように結晶が生成され、先に見た壁と同じ状態となった。


「……なんだったんだ?」


『気圧の急激な増減により鎌鼬が発生したものと思われます。着弾地点の結晶化は……情報不足です』


  俺の傷を見たルシアが、飛んできた『何か』の正体をそう推測した。


御主人様(マスター)は【万物吸収】を発動させておりますので、結晶化の心配はございません。それとご覧下さい』


  ルシアに促されるまま周囲を見渡すと、エグルフさんの工房がある方向から先程の鎌鼬が不規則に飛んでいくのが確認できた。

  ……発生源がエグルフさんの工房だというのは間違いないようだ。


『我々に向かって飛んできた斬新は恐らく偶然です。どうやら翁殿が渡すと言っていた『何か』が発する余波……なのだと思われます』


  余波だけでこんな凶器が発生するとか……本当に何を渡そうとしてるんだ!?


「……どちらにせよ、今はエグルフさんの工房まで突撃しなきゃいけないみたいだな」


  幸いにも何かに当たった瞬間に消滅するらしいので周囲の被害はあまり大きくは無いが、それでも危険なのは代わりない。

  原因究明と共に問題を解決してしまおう。


  ……と、


「ファル、うデ!」

『いつの間に……』


  二名の反応に不思議に思った俺は、僅かに痛みの走る右腕を再確認した。




「っとおぉ!?」


  なんと先程の攻撃で切り裂かれていた傷口から、紫水色の結晶が溢れだしてきたのだ。

  痛みは無く腕も問題なく動くが、意識して【万物吸収】を使用しても結晶に変化は見られない。


『成る程、直接結晶化させるのではなくて、変質可能な鉱物を空間を空けて生成しているのね』


(それってどういう……)


『貴方の【万物吸収】は直接触れたものしか吸収ができない。なら肌に触れずに結晶化させれば良い。【鎧纏】っていう技能(スキル)と【体晶化】の応用よ』


  ディメアが言うにはこの【鎧纏】という技能(スキル)は、対象の身に鉱物を生成して時間制限のある鎧を作り出すものらしい。

  そしてあの鎌鼬、あれは【鎧纏】で生成した鉱物を【体晶化】してしまう力を持っているのだとか。


  鎧は通気性とか動きやすさとか、そういう意味でも空間は必要らしいので、俺の腕に直接触れない形で結晶が生成されたらしい。


「って事は、別に直撃しても簡単な鎧が作られるだけって事? 結構ぱっくり切れたけど」


『死ななきゃ安いものよ』


  ……一、二発は怪我覚悟で(とつ)れって事ね。


  右腕を覆い始めた結晶を破壊した俺は一度深呼吸をして気持ちを整えた後、ルシアを構えた。


「……じゃあライム、行くよ?」


『んっ!』


  攻撃を避ける為だろう。スライム形態になって元気な返事をしたライム。


  ……今は小さい姿が羨ましいな。



  【代償強化】で強制的に大人の姿になっている現在、元の姿に戻るには魔力を一定まで減らさなければいけないので、この場はどうしても大人の姿で挑まなければならないのだ。


  と、言っている間にも、鋭利な刃物のような鎌鼬は飛んできている。

  当たっても死なないだろうが、厄介だな。




「ふっ……」


  俺達は縦に縦断するように飛んできた鎌鼬を避け、それを皮切りに走り出した。



(【電光石火】は……危険だな)


  鎌鼬はランダムに、しかも目的地に近付くにつれて密度を濃くしている。下手に小回りがきかない【電光石火】で突っ込むと、それこそ被弾が多くなってしまうだろう。


「痛っ……すっげぇウザいな、あれ」


  身体能力を上げていない素の状態でギリギリ見切れる、そんなレベルのスピードで飛んでくるものや、逆に野球の投球レベルに遅いものまで。速度の違いが大きく変化する鎌鼬に、被弾する度にヘイトが集まっていくのがわかる。


  葉っぱで切った程度の傷なんだけども、あるじゃん? 包丁でザックリ切っちゃった傷よりも、指先を少しだけ切っちゃった傷の方が痛いってやつ。


御主人様(マスター)、どうやらこの鎌鼬で生成された結晶は御主人様(マスター)の世界でいうアメジストと同様の成分で構成されております』


(今はその発見はいらないかな)


  どちらかというともっと使い道のある情報が欲しいんだが……。


『それともうひとつ、この結晶に鎌鼬が触れた場合、更に生成される結晶の量は増えます。お気をつけて下さい』


「えっ、それって……うぉあっ!?」


  ルシアの言葉で咄嗟に被弾場所を確認した俺。

  そこにはパリパリ……と現在進行形で俺の体を侵食させていくのが確認できた。

  一々結晶を壊していくのは手間だとほっておいていたのだが、これでは動けなくなってしまうな……。


  証拠隠滅で結晶化した某戦士みたいにはなりたくないぞ……。


「ふんっ! とぁっ!?」


  巨大化した結晶を力任せに破壊した直後、新たに飛来してきた鎌鼬が肩口を直撃してしまった。

  そしてその場所から結晶が増え……。


「……っだぁ~壊しても無駄なのウザい!」


『そうね……完全に動けなくなる前に突っ込んだ方が良いんじゃないかしら?』


  俺と同じくしびれを切らしたらしいディメアが、そんな提案をしてきた。


  とても魅力的で素晴らしい提案だな。


「よし……ライム行くぞ!」


『んっ!』


  最早被弾など知らん、と必要最低限な致命傷になりそうな部位だけ守り、突撃を実行した。

  それはつまり結晶化の増大を無視するという事であり、エグルフさんの工房に入るのか少しでも遅れてしまうと、多分動けなくなってしまうのだ。


「ぐっ……っごきにくいな!」


  体を直撃しては面積を拡大していく結晶に、動きを鈍らせながら力業で突撃する俺達。


「もう……ちょっと!」


  そしてやっとの事で、扉から距離にして数メートルという所まで到達した。







  しかしそこで両足が完全に結晶で覆われて転び、勢いをそのままに工房の扉に頭から突っ込んだ。

オマケ。





野球の投球レベルに遅い(ry



大人状態のファルにとっての『速い』は、某殺せない教師の域に達しています。

ちなみに野球の投球(約150kmと仮定)は、おばあちゃん方がよく乗っているスクーター位の速度にしか感じておりません。





【鎧纏】



動きを阻害しないよう空間を保持して鎧を作り出す技能(スキル)

纏う鉱物の種類は使用者によって異なり、鎧なので動きやすさはしっかりとしている。


属性は『時空』と『土』、『火』を使用した複合技能(スキル)でもある。

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