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若さ故の過ち

  ベクトリール城の王室。


「……それは本当か?」


  (もと)王であるマグナとその息子、長男である現王のアスオフは、ルーガ本人から語られる事態に驚きを隠せないでいる。



  神龍が復活し、大陸が消滅する可能性がある。

  およそ現実とは程遠いこの事態、通常なら「当たらぬ予言」と鼻で嗤われてもおかしくない状況であるが、規格外と心得ている子供の言ったことである事から不思議と納得してしまっている自分に疑問を抱けない様子のマグナ。


「はい。奴は私を贄として捧げる、神を復活させると言っていました」


  俺はその時起こった事をありのまま語り、未だ疑わしげに静聴しているアスオフ王に、今起ころうとしている事の大きさを伝える。

  マグナとは対照に俺の話を信じきれていない様子のアスオフは王になってまだ日が浅い、という訳ではなく、単純に子供である俺の話を信じきれていないような感じである。


「……確かにこの国には昔から地龍を神聖なものとしている節がある」


  聞いた話だと、ベクトリールは宗教にこそ疎いが祭事や大きな催しが行われる際、必ずといっても良いほど神や地龍に関する単語が使われていたり、お伽噺や書物の類いにも使われている程にベクトリールで『神龍』は高い認知度を誇っているのだとか。

  やはり国の成り立ちからなにまで、ベヒモスに関する伝承が多く残されているこの国ならではなのだろう。


「先程申し上げた通り相手は神龍と呼ばれる『七星龍』の一柱、復活したらそれこそ天災レベルの被害を被る可能性がままこざいます」


「……この国を囲む山々は活火山だ。そうなった場合、真っ先にこの国が飲み込まれるだろう」


「ち、父上、今の話を信じるのですか?」


  ここで待ったをかけてきたアスオフ王。やはり俺の言葉に納得できないらしい。

  まぁ、父親がガキ()の話を鵜呑みにしてる様子は見ていて良いものではないだろうし、そんな重大な話、そうですかはいと受け入れられるようなものではない。


「エリック、大臣を至急集めよ。会議を始めるぞ」


「畏まり致しました」


「父上!?」


「状況を見ろ。(げん)にトイドルは数日前から行方知らずだぞ」


  後ろで控えていた使用人さんにそう命じたマグナさんのその判断に、驚きを隠せていない様子のアスオフ王。

  やはり王とは肩書きだけで、事実上はまだマグナさんが国を背負っているのだろう。


「ファル、ついてきてもらうぞ」


「はい」


  「ルーガ女王は……申し訳ないが少し待っていてもらいたい」


「今回の訪問は密会のようなものですしね。分かりました」


  ルーガは、本来はアシュトルスにいる筈なのをコッソリ転移、更には一大事とはいえお忍びでベクトリール城に訪問してしまっているのである。

  お互いの国の信用を守るという意味合いもあるので、今回ばかりは顔を出す訳にはいかないという事なのだ。










「……父上、本当にあの子供の事を信じるのですか?」


  大臣達の集められている会議室まで続く一本道、そこの戦闘を歩くアスオフ王は、なんとも言えないような表情でマグナに小声でそう問う。


「そうだ」


「何故です? 知名度はあるとはいえまだ子供、ましてや王族が兵士の言葉を鵜呑みにするという事ですよ」


「……お前は今、何を優先させるべきなのか分かっているのか?」


「勿論、今起ころうとしているであろう事態を優先させます」


「ならば話が早いだろう?」


「しかし……」


  尚も食い下がるアスオフにため息を溢し、顔を向けずともハッキリと聞こえるような声量で話し始めたマグナ。


「今のお前は、この事態以上にプライドを優先させているだろう」


  うっ、と言葉が出ずに詰まったアスオフ。

  今、自身が父親に物申している事はプライドを優先させている、「何故子供に先導されなければ……」と自身の思いを優先させているのに気付いたからである。


「お前はまだ状況を正確に見定める力が足らん」


  そのままではいずれ大変な目に逢うぞ、と言われて言い返せないアスオフは、自身らの後を追うように歩くファルを一瞥(いちべつ)して「父上を見習わねば……」と深く反省した。

  今ベクトリールを託されている王は、父ではなく彼なのだ。


「……子供冒険者」


「っ? はい」


  後ろを振り返り、改まった口調でファルに声を掛けたアスオフ。


「すまなかった」


「ふぇっ!? お……私なにかしましたか!?」


「お前の事をプライドの為に信用しきれなかった事への謝罪だ」


  なんの予備動作も無く謝罪をしてきたアスオフに、突然の事で動揺しまくりなファル。

  前で父親と会話をしていた王が、突然自分に謝ってきたのだ。流石のファルも状況を理解できていない様子である。


「あ、頭を上げて下さい。王は何もしていないではありませんか」

 

「馬鹿者! ……私はプライドを捨てろとは言っていないぞ」


  焦るようなファルの声と、一直線に捉え過ぎた息子を注意するマグナの声が回廊に響き渡る。



  ……アスオフが自身の求める理想の王となるには、もう少し時間が必要なようである。







「……という訳で、ベクトリールの方から後で正式に協力の要請が来ると思うから、その辺の詳しい所はお願いね」


「了解です」



 会議が終了し、宿に戻った俺は会議の内容とその際に提示されるベクトリールの要望等々をルーガに話した。



  ベクトリールの要人達を集めた会議の内容なのだが、やはりアスオフ王と同じように突拍子もない話だという事で、様子を見ようという意見が多数であった。


「やっぱり、ファルちゃんがアシュトルスだという事も原因なんでしょうね……戦争直後ですし」


「そうなんだよなぁ」


  ちなみに、ごく少数だったが「アシュトルスの犬め! そう言って我々を混乱させ、それに乗じて利を得ようとしているのだな!」みたいな事を言っていた馬鹿もいたりした。

  速攻でマグナさんに撤回させられていたが。




「しかし、私としてはアスオフ王がファルちゃんを支持する発言をした、というのに驚いてますね。私達と話していた時はあんなに疑心暗鬼でしたのに」


  そう、ルーガの今言った通り、俺が説明していた時にベクトリールの大臣達が時々「何かの冗談だろう」と口を挟んだりしてきたのだが、その時にアスオフ王が俺より先に、俺から予め聞いていた事を踏まえて説明をしてしまったのだ。

  俺もてっきり良くは見られていないだろうと思っていたのだが、何故か俺に謝ってきたあの時から、どういうわけかマグナさん以上に俺をフォローしてくれるのである。


「まぁ、そんなアスオフ王とマグナさんの一押しもあってトイドルの指名手配と白ローブの捜索が始まった訳なんだけどね」


「なにがあったのかは聞きませんが、お二方には感謝ですね」


  そう言ってお茶を啜ったルーガ。

  前々から思っていたが、やっぱり猫舌ではないんだな、ルーガって。





「……毎度疑問なんだが、これは俺が聞いても良い話なのか?」


  グレイがアシュトルス産茶菓子(クッキー)を片手にそんな事を聞いてきた。


「遠からず国中に伝わるような事だから、別に隠してたって意味がないでしょ?」


「それはそうだが……」


  まだどこか納得していない様子のグレイ。

  裏の仕事がどうのこうのとか言ってたが、その辺は律儀なんだよな。


「ではこうしましょう。私達の国やベクトリール中にこの話が広がるのは良くて二日後、しかしそんな情報でも国の中全てに届き得る訳では無いです。なので私が依頼をしますので、グレイさんは今の私達の会話の内容をギルド伝いに広めてほしいのです」


  ルーガが咄嗟の思い付きでそんな話を提示してきた。

  いやまぁ、そうしてくれると俺達的にも後が楽だし、それだけ猶予が伸びるから助かる訳だけども。


「ルーガもそう言ってる事だしさ、気にしなくても平気だよ」


「依頼……それなら」


「とは言っても、もう話す事は無いんだけどね」


  ルーガの依頼(?)を承諾したグレイには悪いが、報告すべき事は全てやってしまったので取り敢えずは切り上げる事にした。

  グレイが何やら煮え切らない表情をしているが、あまり気にしない事にした。


  俺はこの後色々とやらなければいけない事があるのだ。


「となると、私はこれの報告をするためにまたアシュトルスに戻らなければいけませんね。ファルちゃんはどうします?」


「俺はこっちでもう少し情報を漁るよ」


「分かりました」


  では私は護衛を連れていきますね。とテスを相手しているライアンの所へ歩いていった。

  あれ? なんか今日は妙に大人しいな。おしとやかモード中は人格まで変わるのかな?




「……凄いな」


  奥の部屋に消えていったルーガを見てか、グレイがそう呟いた。


「プライベートになるともっと凄い事になるよ。……予想をかなり上回る感じで」


  俺はいつものハイテンションの方のルーガを連想しつつグレイのルーガに対する評価にそう付け加えた。

  どういう理由かは知らないが、無性に素のルーガを誰かに見せてやりたいと感じた俺。まぁ見せられるようなものではないが。





「そういえば、テスから聞いたんだが……」

「ファル、女王様からまた暫くベクトリールに残ると聞いたのだが……」


  思い出したように口を開いたグレイと、それとほぼ同時に扉を開けて入ってきたライアンが声を掛けてきた。





「……お前、女だって本当か?」

「隊長に何か伝える事は……は……?」


「いっぺんに聞かれると分からないんだけど、どうしたのっ……」


  一度に二人から質問を受けて若干混乱気味のファル。とにかくもう一度言ってもらおうかな、と口を開いた瞬間に、何やら血相を変えたライアンがぐわしとファルの肩を掴んで捕獲した。


「い、今言った事をもう一度聞かせてくれないか?」


「俺は何も言ってないんだけど……」


  ……ら、ライアンさん、握力強ぇっす。痛い痛い……。

  俺との模擬戦を遥かに凌駕するレベルの真剣な表情、というか凄い剣幕で俺を見るライアンさん。


「私の聞き間違いではなければ、お前は女……と聞こえたような気がしたのだが……」


「……俺がテスから聞いた」


  若干引いているグレイがそう口に出すと、次はファルの首根っこを掴んで扉を出ようと振り返った。

  その様子はさながら我が子を運ぶ獅子のようである。


「……行くぞ」


「どっ、どこに?」


  えっ、えっ? と状況を全く理解できていないファルがズルズル……と引っ張られながら、恐る恐るライアンに問いた。


「風呂だ」


「ふ、風呂ぉ?」


  全くの予想外な返答に、思わず変な声が出てしまった。

  しかし、なんで?


「温泉が名所のベクトリールだ。さぞや気持ちいいだろうな」


「ちょっ、ま……せめて理由だけでも教えて!?」


  俺が女だって聞いた途端に何なんだ!? えっ!?








「……何だったんだ」


「お待たせしました。準備ができま……あれ? ファルちゃんと護衛さんは……」


  部屋から荷物を持ち出したルーガが、その部屋にいた筈の二名を発見できずにキョロキョロと辺りを見回す。


「護衛の方がファルを連れていったぞ。……風呂がどうとか言っていたが」


「お風呂? 「ファルが女とかいう話題になった途端な」……ははぁ、そういう事ですか」


  そんな短い会話から、既にライアンの目的を察したルーガ。

  いざとなると前が見えなくなるらしいライアンに苦笑を溢し、「仕方無いですね」と呟いたルーガは、その場に持ち物の大半を置いて、持ち物の一つから布の入っているらしき袋を取り出した。


「では、護衛がいなければ元も子もないので、私も参加するとしますね。グレイさんも御一緒にいかがですか?」


  猫の獣人であるに関わらず水浴び好きなルーガは、冗談めかしてそうグレイに聞いた。


  対するグレイは、頬を引き攣らせながらも男の意地からか無表情を貫いてみせた。



「……遠慮しておこう」

オマケ




風呂がどうとか(ry



「……あのー、ライアンさん? そろそろどういう事なのか教えてほしいんですが……」


(ファルが女? 私が気付かない筈が……。いやしかし……)


「……えっ? このまま外出るの?」


(とはいえファルはまだ子供だし、どちらとも似つかない容姿だからな……仕方無いといえばそうかもしれん)


「そ、そろそろ何か喋ってほしいんだけど……」


「まぁいい。いざ風呂に入れば分かる事だからな!」


「何が!?」

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