5 談話
学校を出て、寒空の下を歩くことおよそ10分。ようやく近くのファミレスに到着した。
「いらっしゃいませ〜って、会長!お待ちしてました!」
「桑鶴か。待たせたな。案内してくれ」
「かしこまり〜」
目の前には、金髪ポニーテールと眩しい笑顔が特徴的なスポーツ万能少女が、まるでメイドさんを思わせるかのようなファミレスの制服を着て立っていた。つまり、うちの学校のもう一人の副会長がいた。
さすが、人間離れした運動神経を持つ人はやることが違う……。
「では、こちらにどうぞ!」
“予約席”というプレートが置かれた場所に案内され、僕と玲子、僕の正面に会長という形で座る。
「じゃあ、今日は私の奢りだ! 何でも好きなものを頼みたまえ!」
「じゃあお言葉に甘えて……」
会長からメニューを受け取り、決めにかかる。
ほどなくして、会長も玲子も決まったらしいので、チャイムを押した。
「ご注文お伺いします!」
「僕はエビドリアとドリンクバーで」
「私はドリンクバーを」
「私は、ドリンクバーと、ダブルチーズハンバーグとチキンドリアとナポリタン、あとはこのDXパフェを頼む」
「繰り返します。ドリンクバー3つ、エビドリア、ダブルチーズハンバーグ、チキンドリア、ナポリタン、DXパフェですね? 少々お待ちくださいませ!」
マッハ(※イメージ)で去っていくカレンさんを見送り、会長に向き直る。
「あの……会長。そんなに食べられるんですか?」
「食べられなければ頼むまい。もっとも、普段はもっといけるのだが、さすがに誘った相手を放置して食べるのも憚られるしな」
十分すぎる量を頼んでいるのに、まだ食べられるとは……。見かけによらずカー◯ィのような胃袋を持っているらしい。
と、そんなことを考えていると、会長が席を立った。
「先にドリンクを取ってくるから、少し待っていてくれ」
「あ、はい!」
会長が行ったところで、玲子が話しかけてくる。
「蓮、1つ聞きたいことがあるのですが」
「何?」
「昨日、あのおん──会長に告白されたと小耳に挟んだのですが、本当ですか?」
「そうだけど、ちゃんと断ったよ?」
「そうですか。でも気をつけてくださいね。あのメギツ──会長は恐ろしいほどに魅力的な方ですから」
玲子は満面の笑みを浮かべているけれど、目が笑ってない。そのうちオーラが立ち上ってきて、修羅が見える勢い。
「待たせたな! 今度は君たちが行ってきたまえ」
「ええ。ありがとうございます」
会長が帰ってきた途端、緊迫した雰囲気が霧散した。
「行きますよ、蓮」
「う、うん……」
言われるがままにドリンクバーコーナーに向かい、グラスを手に取る。
と、なぜか僕の様子を注視している玲子に声をかける。
「どうかした?」
「いえ、何でもありません。続けてください」
「もしかして取り方が分からない、とか?」
「そ、そんなことありません!」
「そういえば、玲子ってファミレス来たことあるの?」
「うっ……」
「初めてなんだね?」
「し、仕方ないではないですか! 蓮以外と郊外での交遊は禁止されているのですよ!? 結局、蓮が悪いのではないですか!!」
初めて聞いたぞそんなルール。
「まぁ、いいや。あまり会長を待たせるわけにもいかないし」
そう言って、僕はグラスを定位置にセットして、コーラのボタンを長押しする。その様子を見て、玲子も同じようにオレンジジュースを注いでいた。
「これに懲りたら、もっといろんな場所に連れて行ってくださいね」
「分かったよ。今度行きたいところを教えてくれたら、休日にでも連れて行くからさ」
「しばらくは生徒会活動が忙しくなりそうなので、週に一度くらい二人でこうしてファミレスに来たいです」
「了解」
約束をして、席に戻る。
「お、戻ってきたか。それじゃ、話を──食べ終わってからだな」
「鉄板熱くなっておりますので、お気を付けくださ~い!」
僕らの後ろには、カレンさんがエビドリアとダブルチーズハンバーグを持ってきていた。
その後、立て続けに注文したメニューが運ばれてきて、テーブルはすぐにいっぱいになる。
「冷めないうちにいただこう。それでは、いただきます」
「いただきます」
「御馳走様でした」
「早っ!?」
食べ始めることおよそ10分。アツアツのエビドリアに苦戦しながら食べていると、目の前から信じがたいセリフが聞こえてきた。顔を上げると、すべての料理を平らげていた。まさにカー○ィだ。
「少し休憩するから、ゆっくり食べるといい」
「ありがとうございます」
それからしばらく無言の時間ができた。
「ごちそうさまでした」
「ようやく食べ終わったか。では、早速本題に入ろう」
「はい」
途中でカレンさんが空いた皿を下げてくれたので、いくらかスペースができたテーブルに手を置いた。
「話というのは、ぶっちゃけ少数意見の尊重というやつだ。キミが何を思ってあの場で反対したのかについて教えてほしい。何か理由があったのだろう?」
「ありますけど、きっと参考にならないと思いますよ?」
「それでも構わない。この3つの活動を同時進行するにあたって、ぜひ聞かせてほしい」
「分かりました。まず、発足していきなり3つも同時に進行できるほどの信頼関係は築けていないと思ったからです」
「確かに一理あるな。その点は、個別に責任者を任命し、雑務とフォローを私とキミで担当するという方式にしたから大丈夫のはずだ」
「次に、役員の体調の問題です。カレンさんは部活に顔を出せなくなります。必然的にストレスがたまることになると思われます。また、玲子や神崎さんだって、急に忙しくなれば体調を崩しかねません」
「それをフォローするのも我々の職務であるし、彼女らは、異なる分野といえど、日常的にかなりのタスクを抱え、それをこなしてきている。桑鶴が言っていたように、しばらく生徒会活動に付きっ切りになるだろうから、独自のノウハウで発生する仕事を捌くことは可能だろう」
「……最後に、僕の力量についてです。あまりこういうことは言いたくないのですが、僕は会長を始めとする、他の役員のように誇れる部分も処理能力もありません。だから、会長にすごくしわ寄せがくると思ったので……」
「キミは、キミができる最大限の努力をしてくれればいい。私の心配は無用だ。なぜなら、すべての最終責任者は私だからだ。失敗することがあれば、すべて私が責任を負う」
「でも……」
「不安要素はそれだけか?」
「そうですが、本当に大丈夫なんですか?」
「見くびってもらっては困りますよ、蓮」
と、そこでしばらく黙って話を聞いていた玲子が口を挟む。
「思い立ったが吉日です。それに、あなたは自分を過小評価しすぎるきらいがあります。もっと我々を信じてください」
「何事にもリスクはある。だがな、リスクを恐れては何もできないし、ましてこの3つの活動を同時進行することは無謀だとも思わない。それは今の会話が示している」
会長が一度言葉を切る。
「益城。私たちにはキミの力が必要だ。この活動を同時進行するための潤滑油の役割を果たしてほしい」
「僕を選んだことを後悔させないようにやれるだけやってみます」
「その言い回しが少し不安だが、きっと自信に変えてみせよう。よろしく頼む」
差し出された会長の手をしっかりと握り、握手を交わす。玲子はその様子を、穏やかな顔で見守っていた。
「では、問題が解決したところで帰ろうか。あまり遅くなっても親御さんが心配するだろうからな」
「そうですね。──会長、ごちそうさまでした」
「ありがとうございました。あと、横からかっさらうような真似、絶対に許しませんからね」
「なんのことだか分からんが、善処しよう」
「では」
会長に会計を任せ、僕らは一足先に外に出て、帰路に就いた。
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では、また次回。