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2 謀略

「さぁ、入りたまえ! ここが生徒会室だ!」

「し、失礼します……」

  少し緊張しながらも、しっかりと歩みを進めて生徒会室に入る。手前には、応接用と思われる、向かい合って置かれた二つのソファ。奥に目をやると、大きな机が一つ置かれていて、全体的に開放感が感じられる空間だった。

「意外と整頓されてるんですね……」

「役員を迎えるのに、部屋が散らかっていては申し訳ないだろう」

  これも生徒のバックアップの一環なのだろうか、すごく居心地がいい空間になっているような気がする。

「さ、座りたまえ。キミの選抜理由の説明をする前に、この紙に名前を書いてくれ」

 差し出された紙には、『役員推薦書』と書かれている。

  これはその名の通り、役員を推薦するための書類だ。

 僕らの通う榊原さかきばら学園の生徒会は、会長のみを選挙し、役員は会長が選ぶという方法を取っている。でも、変な人選が行われないように学園長の承認が必要になる。つまり、総理大臣が各省の大臣を組織するようなものってことだ。

  僕はすでに書かれた四人の名前の下に、「益城蓮」と書く。僕は素行不良で生活指導を受けることがなかったから、推薦されても問題ない。問題ないんだけど……

「本当にくじで選抜してもよかったんですか?」

「問題ない。私にだって考えがあるんだ」

 そう言って、会長はどこからか紙とペンを持ってきて、『生徒会に必要だと思った要素』と書く。

「まず、私の生徒会を組織するにあたって、四つの要素が必要だと考えた。その一つ目が、“成績が優秀な者”だ」

 会長が紙の上に『一、成績優秀者』と書く。

「でも、そういう人が生徒会に入ろうとするのって、進学に有利になるから……とかそんな理由じゃなんですか?」

「もちろん、そういう側面もあるだろう。しかし、私の生徒会に入る人間であるからには、この学校をよりよくしたいという熱意がある者でなければならない。その要素も考慮して、並みいる成績優秀者の中から神崎を採用したというわけだ。顔合わせについては、正式に発足してから行うから、楽しみにしているといい」

「分かりました」

 神崎さんって、どんな人なんだろう。

 成績が優秀だから、安直だけどメガネをかけているとか、すごく努力家だとか、そんな感じなのかな?

 ……と、そんなことを考えていると、会長から「続けてもいいか?」という視線を感じたので、現実に引き戻る。

「次は、“文化系・体育会系のそれぞれで優れた才能を持つ者”だ。うち学校の生徒は、必ず部活に入るように義務付けられているのは知っての通りだろう。そこで、それぞれの分野で活躍する者たちに生徒会を任せることで、生徒たちの要望や意見を吸い上げやすくした」

 気づけばすでに紙の上には、『文化系・体育会系のそれぞれで優れた才能を持つ者』と書かれていた。

「あの、会長。一ついいですか?」

「ん? どうした?」

 『三、運で選抜された者』と書いている会長に、気になったことを聞いてみる。

「どうしてそこまで生徒のために頑張ろうと思ったんですか?」

「そうだな……」

 会長は少し思案した後、「長くなるぞ?」と確認を取ってきた。聞いた手前、「やっぱ時間がある時でいいです」とも言えず、うなずく。

 これは決して僕が運で選抜された理由を聞きたくないからではない。ただの興味本位で聞いただけなのだ。いや、マジで。別に「ほかに要素が思いつかなかったから、運で選抜した」と言われるのが怖いわけじゃない。

 現在時刻は18時過ぎ。進学校ということもあって、放課後学習する生徒もいることから、学校が閉まるのは21時なので、会長の話が長引いたとして、僕の選抜理由が聞けないなんて事態には陥らないだろう。きっと。

「私は、中学生の頃から、この国の教育制度が大嫌いだった。そして、今も嫌悪感を覚えている。それには理由が三つある」

 会長が人差し指を立てて、続ける。

「まず、テストは暗記しさえすれば満点を取れる点。一夜漬けなどが顕著な例だが、これは生徒自身の思考停止を招いている。ひいては、大学に行くことが目的になって、将来何がしたいのかが分からない人間を大量に生み出してしまっている」

 まるでパンドラの箱を開けてしまったかのように、会長の教育制度の問題点の指摘は続く。

「二つ目は、教師のレベルが低い点。これは私が身を以て実感したのだが、質問に対してすぐに答えられない。ほぼ、『後日調べておきます』の一点張りだ。点数を取るコツだけ教えるんだったら、機械でもできる! 学習意欲のない生徒も生徒だが、向上意識のない教師も教師だ!」

 いつの間にか、会長はいつもの冷静さを忘れて、熱く語る。

「三つ目は政治家を始めとして、国家公務員のやつらが、点数教育でのし上がっているため、問題の本質を理解していない可能性が高い点だ。このことが特に気に食わん」

「まぁ、言われてみればそうですけど、たかが生徒会長程度では何も変えられないんじゃ……」

「それは違う。生徒の生徒会に対する関心が薄いのも問題だが……今は置いておこう。今回の選挙に関しては、そのことに感謝せねばならないからな」

 会長はついに立ち上がり、拳を堅く握って、宣言する。


「私は生徒の意識を変える! 生徒の意識が変われば教師の意識も変わる! 相対的に教師のレベルも上がり、その恩恵を生徒が受ける──まさにウィンウィンの関係じゃないか!!」


「ということは、会長の演説の意味するところって……」

「確実に解釈を間違えて受け取っただろうな。彼らは」


『私はこの学校が好きだ』

 →学校が好きだから、よりよい方向に。


『そして、様々なところで活躍している生徒たちを誇りに思っている』

 →活躍するのはいいが、勉強はおろそかにしないよう、きっちり生徒会役員が監督してやる。


『だから、私に全力でバックアップさせてほしい。機会を与えてほしい。そうすれば必ず、諸君らの期待に応えて見せよう!』

 →必ず第一志望の進路に進めるように、全力でバックアップするぞ!


「なるほど、そういうことだったんですね……」

「理解が早くて助かる。ちなみに、キミはくじなんかで選んでなどいない。本当は、条件としてキミの生徒会の加入が提示されたのと、キミの思想が私のものと類似していたからというのが理由だ。まぁ、不運で選ばれたと言っても過言ではないだろう。実際彼女に条件として提示されなければ、キミの存在など知らなかったからな」

「署名させるための方便だったんですね……騙したんですね……」

「まぁ、そう気落ちするなよ。私はキミの思想を高く評価しているし、彼女も賢い生徒だ。ちょうどあと一人を誰にするかで迷っていたところだったし、ちょうどよかったよ」

「じゃあ、あの告白は……?」

「アレは私が勧誘する際に行っていた、ちょっとした試験のようなものだ。キミの純情を弄んだことに関しては謝罪する。すまない」

「そのことは別に気にしてません。受けたわけでもないので」

 敵を作りたくないからということで断りはしたけれど、なんだか告白する前からフラれてしまった男子の気持ちがよくわかる気がして、いたたまれない気分になった。


読んでいただき、ありがとうございます。猫やなぎです。

次回からは不定期更新とします。とにかく、書いたら推敲して即更新という感じになるということです。

更新情報は、twitterの固定ツイートにあげておきますので、随時確認してください。

次回、ようやく残り3人の役員が登場する(予定)です。

あと、サブタイの話ですが、二字熟語で統一したいと考えていますが、予告なく変更されることがありますのでご容赦ください。ボキャブラリーを増やす意味でも、努力はしますけどね。


ではでは。



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