1 勧誘
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さすがに霜月の屋上は寒かった。できるだけ日が当たる場所にいようと悪あがきをしているけれど、それすらあざ笑うように凍えるような風が吹いてくる。
「寒いなぁ……早く来ないかなぁ、先輩……」
『放課後、すぐに屋上に来てほしい』。そんな、ラブレターというより事務連絡に近い文書を見つけたのは今朝のことだった。しかも、宛名に『椿姫』と書いてあるなら、つい先日生徒会長になった先輩か、誰かがいたずらで書いたかのどちらかしかない。
そろそろ屋上に来てから一時間が経とうとしている。いい加減に見切りをつけようと、あと三分だけここにいようと決意した。
「絶対来る!」
一言気合を入れて、待つことしばし。扉を睨めつけるように見ていると────
キィ──────!
耳をつんざくようなドアの開く音がしたかと思うと、ドアの向こうから一人の女子生徒が現れた。
夕日を受けてなお漆黒に輝く黒髪と、すべてを見通すような瞳が特徴的な彼女の名は、椿姫千尋先輩。
つい先日行われた生徒会長選挙にて見事当選し、今は新生徒会発足のために尽力している人だ。
「遅くなってすまなかった。いろいろ立て込んでいてな」
「先輩も忙しいでしょうから、仕方ないですよ」
「ははっ。そう言ってもらえると助かる」
そう言ってはにかむ先輩。その笑顔を見ているだけで、この一時間が報われた気がした。
「時間がないから単刀直入に言おう。キミ、生徒会に入らないか?」
「はいっ、喜んで!」
「すまんが一つ質問してもいいか?」
「? いいですけど」
「もし、私がここでキミに告白したとして、キミはそれを受けるか?」
唐突に投げかけられた質問に、思わず先輩を見返してしまう。先輩の目は真剣だった。だから、意図はわからなかったけれど、真剣に答える。
「僕は……受けないと思います。だって、先輩と対等な立場なんて夢のまた夢の話じゃないですか。あと、この噂が広まって、たくさん敵を作りたくもないですし。こんな回答でいいですか?」
もう一度先輩を見返す。すると、「そうか……」とつぶやいて何か思案する様子を見せてから、手を差し出してきた。
「合格だ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出された手を握る。先輩の手はとても暖かくて、すべすべしていた。僕には、このくらいがちょうどいいのだ。ファンとアイドルのような、この関係が。
と、そこで僕は、一つ疑問に思って先輩に聞いてみる。
「参考までに聞きたいんですけど、どうして僕なんですか?」
「くじを引いたら君だった、ではダメか?」
「数日前の僕の感動を返してください!!」
どうやら僕は運で選ばれたらしい。
「まぁ、納得はしないだろうな。それについては生徒会室に移動してからにしないか? ここはどうも寒い」
「そうですね……」
いつの間にか僕らが立っていた場所も影になっていて、すごく寒い。
「これを使うといい。だいぶ待たせてしまったからな」
「ありがとうございます」
カイロを受け取り、両手で包むように持つ。今まで先輩のポケットに入っていたからか、それとも元々使いかけだったからか、とても温もりを感じた。
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