12 決着
生徒会室に開票結果が届いた。そのことで召集がかかったのは、およそ5分前のこと。僕と玲子が到着すると、すでに他の役員は揃っていて、通知を囲んで神妙な面持ちで眺めていた。
「では、開けるぞ」
会長が代表して折りたたまれたt一枚の紙を開いていく。
「見たら回してくれ」
そう言って、右隣に座っていた神崎さんに用紙を回す。皆も早く見たいと思っているのを察して、彼女は早々にそのまた右隣に座ったカレンさんに渡す。
そうして、わずか1分程度で僕の元に紙が回ってきた。玲子から受け取り、文面を確認する。
開票結果。
椿姫千尋 481票
榊原小黄泉 483票
よって、榊原小黄泉を生徒会長とする。
「…………」
皆無言だった。
勝てる見込みがほぼ0パーセントで挑んだわりに、多くの生徒の心を揺るがすことができて、これ以上ないくらい善戦したと思う。でも、過程はどうであれ、すべては結果に過ぎない。
この選挙を通して、改めて思い知らされたことがある。
いくら努力をしたところで、庶民程度じゃ権力者には勝てない。それが世の中の不条理な真実だ。
だったら、何をするべきか。その答えは自ずと見えてくる。落ち込む必要なんかない。悪いのは社会だ。権力者だ。そして、現行の教育制度だ。今の政治家に期待できないのなら、僕らが政治家を目指し、努力の上にてっぺんに上り詰めて改革すればいいだけの
話だ。
「皆、今まで世話になった。本当にありがとう。椿姫生徒会はこれで終わってしまうこと
になるが、私は新たに部活動を設立しようと考えている。我々はこの程度では屈しない。
力と知識と知恵を蓄えて、いつか根本から改革できる日を目指して研鑽を重ねようではな
いか!」
「ぜひ、もう一度会長の元で共に、同じ目標に向かって努力させてください!」
「私、二人目の部員になるよ!」
「私もこのままでは終われません。ぜひ入部させていただきます」
会長の言葉に、皆元気を取り戻す。
そう。僕らは敗北を知ったことで一歩ステップアップした。
来年の会長選にはおそらく、会長──じゃないな、椿姫先輩以外の4名が立候補するこ
とだろう。その時、またかつての志を目指せばいい。
「では、部活動の申請書類を書くとしよう。部名は何がいい?」
「そうですね……」
と。その時、ポケットに入れていたスマホが振動し始める。
「すみません、ちょっと失礼しますね」
一言ことわって、画面を確認する。そこには、『屋上前の階段で待っていますわ』と表示
されていた。
○
生徒会室を抜け出して、指定された場所へと向かう。
その途中、ひと月ほど前のあの日のことを思い出した。
寒空の下、会長に呼び出されて待っていたこと。
会長からカイロをもらったこと。
会長の真意を聞いて、騙されたと感じたこと……。
すべてが克明に思い出されて、懐かしい気持ちになった。
そんなことを考えていると、階段前に到着した。
「ごきげんよう、益城さん」
階段の上から声がかけられる。榊原先輩だ。
「時間もないので、単刀直入に言いますわ。あれだけのハンデを持ちながら、よくぞあれほどまで追いつきましたわね。素晴らしいですわ!」
「ども……」
結果的に負けたのなら、褒められても煽られているようにしか聞こえないはずなんだけど、なぜか榊原先輩のそれは、純粋に褒めているように聞こえた。これも人徳なのだろうか。
「あなたの演説は素晴らしかった──心動かされた者も多かったと聞いています。だからこそ、わたくしの生徒会に入ってはもらえませんこと?」
「二度もお誘いしてもらっているのに申し訳ないんですけど、僕はあなたの生徒会に入ることはできません。もし、そんなことをすれば、皆を裏切ることになりますから」
「あら、そうですの。まあ、今回はダメ元で声をかけているので、そこまで落ち込みもしないというもの。分かりましたわ。では、ごきげんよう、益城さん。来年の会長選、期待しておりますわ」
榊原先輩はそれだけ言って、スキップするように階段を降りると、そのまま教室に駆けていってしまった。すれ違いざまにいい匂いがした。
「さて、僕も生徒会室に戻ろう」
きっとこれから学校が年末年始の休みに入るまで、生徒会室の片付けがあるだろうから。
椿姫千尋の政。わずかひと月で終わってしまったが、かけがえのないひと月だった。
これからも僕は前に進んでいく。この5人のチームワークは、全日本──いや、全世界最強レベルだ。
総評の方は、活動報告の方で行いますので、よろしければそちらもどうぞ。