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10 真実

「私はここで待っています。気が済むまで話してきてください」

「分かった。ありがとな、玲子」

 玲子に促され、川辺の坂を下り、ぼーっと川を眺めている会長の元に向かう。

「会長」

「益城か……」

 こちらも見ずに手を挙げている。きっと挨拶をしたつもりなのだろう。

 そんなことを別段気にすることもなく、会長の隣に座る。

「単刀直入に聞きます。僕たちに何をしたんですか?」

「もうそこまでたどり着いていた──いや、効果が薄れていたというべきか。私もまだまだだな……」

「何をしたか話してくださいますね?」

「いいだろう。とはいえ、話したところですでに手遅れなのだろうが」

「というと?」

「私は演説の時、皆に私に同調し、協力するように暗示をかけていたんだよ。そして、その効果が今切れて、解散を迫ってきているのだろう」

 会長が「私もまだまだだな」と自嘲気味に笑う。

「前に、私が変えたかったのは生徒の意識だと言ったな。それは真実だよ。けれど点数がものをいう現在の教育制度が根本的に解決できなければ、私の理想を実現できないことは確かだ。センター試験というものは広く浅く知識を万遍なく頭に叩き込まねば太刀打ちできないからな……」

「確かにそうですけど、会長なら洗脳なんかしなくても真面目に生徒に訴えていけばある程度は改善されたんじゃないですか?」

「無理だ。元々生徒会というのは、ちょっとした進学のアドバンテージにしかならないと思っているし、同じ立場の生徒にとやかく言われて従う生徒などいるまい。生徒会は直接生徒に有益なことをしているとも思えないしな」

「生徒会長の発言としてどうなんですかそれ」

「生徒に聞かれれば失望される──いや、すでに信頼など失ったも同然か」

「確かにそうかもしれないですけど、まだ何か手はあるはずです」

 ずっとひっかかっていたのは、会長の洗脳を根拠にする自信についてだろう。しかし、今また次なる疑問点が出てきているのだ。それさえ解決できれば──

「会長。榊原先輩のことはご存知ですか?」

「理事長の孫だろう? 藪から棒にどうした」

「いえ、先日お話しする機会があって、シャドーキャビネットの一員として勧誘されたんです。それで、みんなの洗脳が解けるタイミングが分かっていて声をかけてきたんじゃないかと思って……」

「ふむ……。確かに榊原学園はかなりの歴史を持つ伝統校だ。歴代の榊原の名を連ねる者は皆生徒会長をしていたはずだ。とすれば、私が会長になったことをよく思っていない可能性は十分に考えられるな……」

「それと会長。近いうちに一度生徒会を解散し、会長選が開催されるんですよね?」

「できることはしたつもりだが、再選は厳しいだろう。今まで尽力してくれてありがとな。最後に悪あがきはしてみるつもりだが、あまり期待しないでくれ」

 会長らしくない。

 それでも成績優秀、才色兼備、文武両道の完璧超人だというのか。いや、違う。

 だから、僕らが全力で抗ってみせる。会長を再当選させてみせる。だから僕がやることはただ一つ。

「会長。応援演説は僕にやらせてください」

 やりたくもなく、かつ興味のないことは絶対にしたくないというのが僕の信念だ。でも、一度決めてしまえば徹底的にやってみせる。

 初めての会議の日に僕は決意したんだ。


──精いっぱい生徒会で頑張ることを。


 だから全力で最後まで足掻いて、最終的には会長を勝たせてみせる。

 たとえ過去に生徒会を率いたのが一族の者であったとして、これからもそれが定められたことだったとしても。

 たとえ生徒全員が榊原を支持していたとしても。

 その状況をひっくり返せる可能性がわずかでも残されているのならば、やらない手はない。

「選挙はすぐにあると思います。もし応援演説をやるとして、原稿も考えなければいけないし、日々の雑務も、生徒のクレームも対処しなければいけない。でも、僕たちはもう運命共同体みたいなものじゃないですか。会長が選んでくれた副会長を辞めたくないです。だから、頑張れるんです!」

「…………」

 会長が僕の心を覗き込むように、決意を秘めた瞳を見つめる。

 しばらくそうしていただろうか。会長は吹っ切れたように笑顔を見せる

「キミは変わったな。かつてファミレスで話した時とは大違いだ。……いいだろう。応援演説、よろしく頼む」

「はい!」

 こうして僕は応援演説をすることになった。


                 〇


 翌日、生徒会は一度解散され、一週間後の23日に立会演説会及び投票が行われることに

なった。

 榊原の姓を持つ者ではない生徒の当選はもちろん異例のものであったが、無論祝日に投票があるなど榊原学園創設以来一度もなかったことである。


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