9 窮地
「うぅ……」
窓から差し込む赤い光が眩しくて目が覚める。ゆっくりと起き上がり周囲を見ると、そこは見慣れた自室であることが分かる。
ん? 赤い光……?
「今日は何月何日何曜日だ!?」
「12月16日水曜日ですが」
「てことは……」
「蓮が倒れてから3日経ちました。まったく、人騒がせというものです」
「ご、ごめん……」
3日も寝込んでいたのか……。
「それより、大変なことになりました」
「というと? 僕が抜けたから業務が滞ったりしてるの?」
「そんな生易しいものではありません」
玲子はまるで僕に話してもいいのかと逡巡した後、覚悟を決めた瞳で告げる。
「全校生徒の9割以上の生徒の署名が届きました」
「なっ……」
「このままでは我々椿姫生徒会は解散せざるを得ません。まるで示し合わせたかのように生徒たちがレポートも施設利用申請も出さなくなり、進路指導にも応じなくなりました。それどころか、教師までも進路についての面談は忙しいからと応じてくれません」
榊原先輩が言っていたのはこういうことだったのか。
「さらに、会長以外の3名でどうにか説得を図っているのですが、それも上手くいかず、もはやどうしよもない状況です」
「会長は?」
「ここ数日は生徒会に顔を出していないので分かりません」
「……っ」
拳を握り、無力な自分を恨む。
あの時、榊原先輩についていかなければ……。
「蓮。あなたが気に病む必要はありませんし、誰も役員一人ひとりを責めることはできません」
「でも……」
「言いたいことは山ほどあるのでしょうが、今は堪えてください。この危機を乗り越えねばいけませんから」
「そうだね……」
「では、会長を助けに行きましょう」
「会長って生徒会に顔を出してないんじゃ……」
「そうです。ですが、居場所くらい分かりますよ。……恋敵に発信機を付けておくのは常識です」
「なんか言った?」
「いえ、なんでも。さぁ、着替えてください。行きますよ」
「分かった。……着替えるから外に出ていてくれないかな?」
「いえ、着替えを手伝うのも許嫁の務めです。着替えは用意してあります。さぁ、脱いでください」
「それくらい一人でできるって! ていうか、いつから許嫁に!?」
「それは些細な問題です。では、廊下でお待ちしています」
玲子が部屋を出ていく。素早く着替えながら、僕は今の会長と話すことで必ず疑問が解明できると確信する。まったく根拠はなかったけれど。