Part3
落ち着け、よく考えるんだ。何が起こったのか。
原因は恐らく、あの最初の設定だ。だが、僕自身は髪の色の設定をそのままにしたはずだ。――そのまま?
「ま・・・まさか。」
最初、僕の身体はスキャンされた。あれは盗難防止システムかと思ってたが・・・。
もしかして、あの地点でまっさらな状態――即ち初期状態、になってたのではないのだろうか?・・・その状態でそのまま、を選べば、間違いなく白のままだ。
考えたくはないが・・・その可能性も低くない・・・。きちんと確認してなかった僕も悪いが、いきなり真っ白でキャラクリスタートって考えるか、普通!?
まあ、いいか・・・。今更どうにもならない。えっと、今の僕の姿は。
・身長143cm(だと思う。変化してないし。)
・白い髪。
・赤い瞳。
うん、ダメだ。自分でもよく分からないような容姿だ。
しかも、周りのプレイヤーは皆それなりの身長だ。当たり前だけど。
髪の色とか目の色とかは人それぞれだけど、僕みたいな低身長は誰一人としていない。
気を取り直して武器屋へと向かう。最初のお金は100Sある。大したものは買えないが、初期装備を買う分には十分な筈だ。
この世界のお金はゴールドとシルバーの二種類がある。といっても単純な話、1000シルバー(Silver)で1ゴールド(Gold)になる。ファンタジー小説世界の、銀貨と金貨みたいなシステムだ。
「え?あの子って何歳だ?すげえ小さいけど。」「おいおい、小学生がVRやっていいのか?」
とか声が聞こえてくる。違う!僕は背は小さいけど中学生だ!
「一瞬で100S無くなったんですがそれは・・・」
いや、少しは余るかなーと思ってたんだけど、甘かった。
ルーキーソードとかいう短剣が80S、薬草が4つで20S。はい終了。
と所持金が綺麗に0Sになってから気づいたんだけど、アイテムインベントリに初心者ポーションという回復アイテムが50個も入ってた。20S返せ!
ルーキーソード【短剣・武器】
攻撃力+3(斬撃・無属性)
初心者が最初に使う短剣。古い銅を再利用した一品。
薬草【回復・素材アイテム】
体力を10%回復。
治癒能力が秘められた薬草。山で比較的簡単に採取できる。
初心者ポーション【回復アイテム】
体力を50%回復。
レベル10まで使用できるポーション。レベル10を超えると、自動的にインベントリから削除される。
完全に薬草必要なかったじゃん。あー、もったいない事した。
しかも、僕は防具を買っていない。服は着てるけど、これはアバターが最初に着てる服で、防御性能は皆無なのだ。ちくしょう。
「とりあえず、適度に肩慣らしと行こうか。えっと、ここから一番近い狩場は。」
マップを開いて確認したが、『始まりの街』付近には3つの狩場がある。
『旅立ちの草原』、『旅立ちの森』、『冒険者の洞窟』の3つだ。
旅立ちの草原の適正レベルは1からだが、森は5から。冒険者の洞窟は10からとなっている。洞窟はダンジョンらしい。
適正レベルとは、これくらいのレベルなら苦戦しませんよーと、適切な狩場を示してくれる案内のようなものだ。
適正レベル以下でも入ろうと思えば入れるが、敵が強すぎて思うように経験値が手に入らない、すぐ死んでしまう等、メリット以上にデメリットが大きかったりする。
「まあ、そんなに急ぐ事も無い訳だし、草原で適当に狩るかな。」
十数分後。白夜は青い顔で街に戻っていた。
だってさ、あれだよ?人が多すぎる!いや、確かに販売して二週間程度だし、初心者プレイヤーが多いのは予想してたけど、あれは酷い!
あそこにいるのは、スライムとはぐれゴブリンらしいのだが、モンスターが沸いた瞬間にそっちへプレイヤーが群がっていくのだ。少しでも横取りみたいな事をすると、すぐに他プレイヤーが食って掛かる。白夜自身も、それらしい事が原因で喧嘩になってるプレイヤーを何回か見た。
「・・・どうしよう。草原は初心者プレイヤーで埋め尽くされてるし、かといって街にいても所持金が0じゃやる事が限られてるし。」
そういえば、今日はゴールデンウィークの初日なのだ。多分、連休が始まり、今まできちんと時間が取れなかった学生や社会人の人とかが、今のうちに遊ぶぞ!と集中してゲームにログインしてるのだろう。
だが、そうなると夜でも草原は人が多そうだな・・・。深夜になれば、流石に人は減るだろうけど、僕も眠気に耐えられないかもしれない。というか、深夜帯まで起きてまでゲームはやりたくない。
となれば・・・森に行ってみるか?
『旅立ちの森』の適正レベルは5。僕は1。自殺行為のようにしか思えないが、せっかくログインして、所持金だけ0にしてログアウトしました、じゃあ何がやりたかったのか分からない。
「よし、なら死ぬの覚悟で旅立ちの森に行きますか!」
僕は短剣を振り回しながら、旅立ちへの森へ続く道を歩き始めた。