Part12
「あ、ビャクヤ君早いね。」
「といっても、5分前ですけどね。」
準備を終えて冒険者の洞窟前に行ったら、リーナさんがお出迎えしてくれた。ミズリさんとレイはまだ来てないみたいだな。
「ミズリはもう来てるよ。一足先に、ダンジョンに潜ってる。」
「あ、そうなんですか?」
「DPが欲しいから、すぐに一周してくるってさ。まあ、ここは難易度低めだし、周回プレイでもDPは多少手に入るからね。」
聞けば、ミズリさんは現在『エンブレム』の中で一番ダンジョン製作に取り組んでいるプレイヤーなのだそうだ。
レベル上げよりも、モンスターの核を入手したり、ダンジョンを掘り進めたりする方を優先しているらしい。
『エンブレム』のメンバーでも、一番レベルが低いらしい。確か、ミズリさんってレベル17だったよね。僕の存在意義ってどうなるの・・・。
「そういえば、リーナさん達のギルドメンバーって何人いるんですか?」
「うーん、私含めて8人よ。私、マスターのエルザさん、ミズリ、レイと、騎士2人と錬金術師に薬師。」
「8人って、多い方なんですか?」
「まさか。中堅クラスのギルドでも20人は居るよ。私達は、少数精鋭のギルドなんだから。」
少数精鋭ギルドか・・・なんていうか、こういう立ち位置のギルドって憧れるよね。
僕も、もっと成長したら加入させてくれるかな・・・。いや、無理かな。エルザさんクラスの化物プレイヤーには一生追いつける気がしない。
「おー、ビャクヤもう来てたか。」
「あ、レイも来たのね。」
レイも来たみたいだ。
前に、レイはレンジャーだって聞いたけど、改めて見ても弓らしきものは持っていそうにない。隠し持ってるのかな?
「ん?どうしたビャクヤ?私に惚れたか?」
「それはない。レイって、レンジャーって聞いたけど、弓とかは持ってないの?」
「私の場合は、機動戦を重視してるのよね。これこれ。」
と言って、腕を差し出された。よく見ると、小型のクロスボウが腕にはめられていた。
「クロスボウですか?」
「そうそう。本当はクロスボウっていう武器、接近戦クラスの人とかでも装備できる補助装備なんだけどね。私はこれを愛用してるよ。」
よく見ると、小さなギアやらレバーが至る所についていて、弦の部分の少し手前に大きな筒がついている。
レイの話を纏めれば、この筒が銃の弾倉の役割を果たすらしい。小型の弓矢を連射できる、機械仕掛けのオートマッチククロスボウらしい。
「かなりの高性能みたいだけど、何処かに売ってるの?」
「甘いよビャクヤ君。このクロスボウ『暴風』は特注品だぜ?」
「うちのギルドの錬金術士の作品よ。レイの武器は特殊だから。」
リーナさんが補足する。暴風って名前なのか。そういえば、生産職が作る武器や防具って、自分だけの名前をつけられるって聞いた覚えがあるな。
それに、『エンブレム』にはこんないい武器を作る錬金術士なんて居るのか・・・。一度は会ってみたいな。というか、普通は武器って鍛冶師とかが作るんじゃないの?と聞くと。
「普通はね。でも、こんなカラクリ満載な武器は、鉄をカンカン叩いて作れる代物じゃないからねえ。」
あ、そうか。まあ確かにそうだよね。
金属製の武器や防具は鍛冶師の役目なんだろうけど、服とか革鎧、弓とか杖は鍛冶師じゃ作れないよな。
詳しく聞いてみると、錬金術師と言うのは、僕が想像するような素材を変化させる、というような事はできないらしく、特殊なアイテムや素材の製造、合成、調合等が出来るクラスらしい。珍しそうなクラスだな・・・。
「あ、私が最後みたいですね。」
レイと話し始めて数分後に、ミズリさんも来た。これで全員揃ったね。
「ミズリさんって魔導士ですよね?ソロで行っても平気なんですか?」
「ここ『冒険者の洞窟』は、かなり難易度が低いですからね。ダンジョンのチュートリアルみたいな所です。」
まあ、最初に攻略するであろうダンジョンだからね。難易度が高かったら、どうしようもないか。
「それじゃあ、行こうか。ビャクヤ君も、軽い気持ちで行くといいよ。」
「はい、分かりました。」
冒険者の洞窟の内部は、RPGによく登場するような洞窟になっていた。
左右は土壁になっていて、見る限りでは一本道が続いている。奥は暗くてよく見えない。
「何の変哲もない洞窟ですよねこれ・・・。」
ダンジョンっていうくらいだから、石レンガとかで作られてるかと思ってたよ。
「まあ、名前が『冒険者の洞窟』だしね。ちなみに、ここのモンスターはスライムベスとノーマルゴブリンよ。レベル10程度のモンスターね。」
スライムベスは、普通のスライムと比べて能力が若干強化された赤色のスライムだ。大して脅威ではないが、たまに防御力を下げる『アシッド』という魔法を使ってくる。
ノーマルゴブリンは、こん棒や木製の剣で武装したゴブリンだ。こちらも大した事はないらしいが、集団で行動している為に面倒な相手だ、という事だった。
「おっしゃー!素早くケリを付けるぞ!遅れるなよビャクヤ!」
「レイ、ちょっと待って!早い!っていうか、レイはレンジャーだよね!?後衛職が前進んでいいの?」
「こんな洞窟でケガなんかする訳ないぜ、私はレベル30のレンジャーだぜ?」
ちょっ、レイってレベル30もあったのか。確かリーナさんが19だっけ?この人、ノリも軽いし性格めちゃくちゃ(な気がする)だけど、油断ならない。
「とっととこんな場所は踏破するに限る――っておわぁ!?」
前方を走っていたレイが何かに躓いて盛大に転んだ。さっきまでケガする訳ないぜーとか言っておきながらこれかよ、恥ずかしい。
「あー、見てビャクヤ君。ああいうトラップがあるのも、ダンジョンの特徴の1つよ。」
「トラップですか?」
レイの足元をよく見ると、トラバサミみたいなものがレイの足を挟んでいた。
現実なら、凄い痛そう(痛いどころじゃない気がするけど)だな。
「うん。あれは多分、トラバサミLv1かな。・・・レイ、貴方レンジャーなんだから、簡単なトラップのサーチくらい出来るでしょ?何やってるのよ。」
「う、うるさいなー。たまには失敗するって。」
「たまにはって、貴方、今トラップサーチを使おうとすらしなかったでしょ。」
レイはリーナさんのツッコミを無視すると、足をつかんでいたトラバサミを短剣で強引にこじあけた。
HPのバーはそこまで減ってないな。1割も減ってないくらいだ。
「あーあ、ヘマやっちまった。ビャクヤ、ああいうトラップってのは、ダンジョンを作る時も配置できるから、活用するといいぜ?」
「ダンジョンといったらトラップとかもあるよな、・・・具体的にはどういうのがあるの?」
「んー、そうだな。今私が引っかかったのは『トラバサミ』で、少しのダメージと行動不能効果が追加される。他にはダメージを与える効果の『火矢』とか『針山』、魔法陣の『ステータス低下』や『HP減少』、変わり種で『ランダム転移』とかもあるぜ?」
うわっ、色んな種類があるんだな。
「トラップに関しては、私のダンジョンに結構配置されてますよ。ビャクヤ君も、気が向いたら私のダンジョンに挑戦して見て下さい。」
「うげっ・・・ミズリのダンジョンって、私苦手なんだよなぁ・・・」
「レイは懲りないですからね。トラップサーチがあるにも関わらず、慢心していつも痛い目を見てますから。」
レイの反応を見る限り、ミズリさんのダンジョンはトラップが多いのかな?トラバサミとか針山とかがズラリと並んでたりしたら、僕は攻略を諦めるよ?
トラップは、ダンジョンにつきものですよねー。
詳しく出てきたトラップについて、少しずつ解説を。
『トラバサミ』
色んなゲームで出てくるトラバサミ。足を挟む奴です。
効果は少量のダメージ(Lv上昇によって、ダメージ微増)、行動不能効果(Lv上昇につれて、解除がしにくくなる)
トラップにもレベルがあり、基本的にはレベルが上がるにつれて、トラップの効果も高まります。それとは別に、レベルが高い程、トラップサーチ等の探知スキルで看破されにくくもなります。
【トラップサーチ】探知スキル
使用すると、近くにあるトラップを探知できる。トラップのレベルが高い程、探知に失敗する確率が高くなる。