第二話 居候 その3
「ん〜〜〜〜っ。」
部屋の窓から、やわらかな朝日が差し込んでいる。
商店は既に営業が始まっているようで、ここは三階なのに喧騒が響いてくる。
翌朝。僕は布団から出て、数日ぶりに大きく伸びをした。
昨日までと比べて、身体が軽くなったような気がする。やっと治ったのだろうか。
その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
扉を開けて入ってきたのはアヤメさんだった。
「あっ、元気そうね? 体の具合はどう?」
「はい、昨日までと比べると大分良いです。ありがとうございます」
「どういたしまして。お客さんの関係者が辛そうに悶えているのに商品だけ受け取って『またお越しくださいませ』とはさすがに言えないわよ。幸いウチは宿屋もやっているし」
「でも助かりました。だって散歩してたらいきなり召喚されて、わけも分からぬまま気絶するほどの攻撃を受けたんですよ? そして目覚めたら風邪を引いていて」
「……えーと……それはー、災難だったわね」
「いえ、別にいいんです。あの日常から抜け出せただけでも嬉しいんです」
「……深入りするつもりはないけれど……なんか、あったの? ご家族とかは大丈夫?」
「あー、どうだろう……。さすがにいなくなったら心配してくれるのかな?」
「さすがにいなくなったのなら心配するはずだと思うわ……」
「だといいんですけどね」
それから、しばし沈黙に包まれてしまった。
……はぁ。またやっちゃったよ。やっぱり人と話すのは得意じゃないな。
昨日のランちゃんのこともそうだ。あれ以来一切来てくれくなったし……。
「そうだ! せっかく元気になったのなら、今日はこの街を案内しようか?」
空気を変えようとしてくれたのか、弾んだ声でアヤメさんが言った。
「あ、はい! 宜しくお願いします」
あのお誘いって社交辞令の類じゃなかったんだ。なんか嬉しい。
「じゃあこれに着替えてから一階にある食堂に降りてきて」
と言って、手に持っていた服を差し出す。
「カタルが着ていた服はボロボロだったけど、とりあえず洗濯しておいたわ。それに、ああいう生地もあるのね。初めて見た」
「そうなんですか? 洗濯、ありがとうございます」
へー、この世界にはスーツみたいな服はないんだー。そういえば、連れてきてもらったときもビシッとした感じの服を着ている人はいなかったな。
「まあ、洗濯したのはあたしじゃなくてお母さんなんだけどね」
アヤメさんは苦笑いしながら言った。
「じゃあ」
軽く手を降って部屋を出て行った。
食堂に着くと、テンパーリー家の皆さんと三人の従業員たちが忙しいそうに食器や大皿に載った料理を運んでいた。どうやらここの朝食は、あっちの世界のホテルと同様でバイキング形式らしい。
五十席程ある席も半分以上埋まっていて、宿泊客たちは待っている間に談笑を愉しんでいるようだ。
何もしないで席に座るのも何か悪いので、ちょうど手の空いたアヤメさんのお母さんの元へ向かった。
「おはようございます。あの、僕に手伝えることってありますか?」
「あら、おはよう」
姿形はよく似ていてさすが親子って感じがするけれど、毎日毎日忙しいせいか、金髪は楠んでいてほんの少しやつれているように見える。
「そうねー……そういえばまだランが朝の清掃から戻ってきてないから、『そろそろ朝食だよ』って伝えて連れてきてくれる?」
「はい、分かりました」
「ありがとうね。多分二階にいるはずだわ」
「あ、はい」
これからは、今までのような月一で長くではなくて、半月ごとに短めに更新していけるようにしたいです。
といっても、今月の受験が無事に終了してからの話なんですけどね(苦笑)
次回も宜しくお願いします。