第一話 召喚 その4
「ーーただの変態じゃないかぁぁぁぁああああぁぁッッッ!!」
ナニソレ!? 滅ッ茶怪しすぎるんですけど!?
「お姉さんには大変失礼なんだろうけれど、なんでそんな変態に捕まってしまったのですか!?」
警戒する要素しかないじゃない!! ていうかよくそんなんで道中お縄にならなかったな!? ここに警察のような組織があるのかは分からないけれど!
「あ、あまりに変な恰好だったので共に思わず呆然として、かたまってしまったのです……」
「あっ、そっちなんですね!」
なるほどね。それなら分かるかもしれない。最近の、おフランスで開かれる有名なファッションショーとか僕のような凡人には理解しがたくて、テレビ画面の前で石化しちゃうもんね。というか理解できる方がいたら拝んでみたい。
それと似たような状態に陥ってしまったのか。なら仕方ないかもしれない。
「…………あのー、そろそろ話を戻したいです」
コトハは気まずそうに話を戻そうとする。
「あっ、ごめんなさい。たしかにそこまで酷いと逆に見つけにくいですね。さすがにその変な団体でも日常的に恥ずかしい恰好で過ごしてる、なんてことはないと思いますし」
「はいなのです。でも、最近少し進展して、姉様を救う方法が分かったです。そのためには人を召喚する必要があったのです」
「あ、そうなんですか!? よかったですね! では僕は何をすればいいのでしょうか?」
「わたしのチカラをつかって戦ってほしいです」
「…………は? どのように、ですか……? 僕の得意なものなんて皆無ですよ? |
強いて一つ挙げるとすれば、しりとりぐらい、ですよ?」
でもなぁ、しりとりは同級生の間では『コイツとやったらなかなか勝てない』って感じで殿堂入りしちゃっていて、ここ二年くらいは誰ともやってないし、一切役に立ってないよ。
こんなんでどうやって戦うんだろう? そもそも何で対決と誘拐が繋がるのかな?
「そう! それがいいのです」
「えっ? 僕が無能だってところですか? はは、これはこれで惨めですね……」
思わず自虐的な暗い笑みを浮かべてしまう。
結局、異世界へ移っても、僕は僕のままなんだな。人生の舞台が変わっただけなのだろうか。
それで、えっと……無能な僕が戦うと良いってことは、見世物の勝負に駆り出されて、『もしも惨めに面白く斃れるモノを見せるのであれば、キサマの姉を帰してやろうじゃないか。グヘヘヘヘ』的な展開になっているということか。
たしかに僕はお姉さんを救うために必要な人間だな……。はっははーー
「ーーはははははははははッははははははははははは、はははははははははははは」
惨めだな。こんなの泣くを通り越して狂ったように笑い飛ばすしかないじゃないか! ええい、こうなったら行くところまで行ってしまえ! 伝説の不幸男子になってやらぁッ!
「ーーち、ちがうです! そっちではないです! 安心してください、しりとりが得意って方です! だから、落ち着いてください!」
「またまたぁー。僕がイカれかけたから慌てただけでしょう? いいです、僕なんて所詮そんな奴ですので……」
「だから、そうじゃないです……」
あーあ、こっちでも人生ツムツムかよ。いっそのこと自分の願望及び感情ごと捨て去って人形みたいになった方がまだマシみたいだな。
「ごめんなさいね。動くゴミクズ程度が{喚く《わめ》だなんて失礼ですよね」
「本当の本当にちがうんです。なんでそんなに自分のことを悪く言うのですか?」
ーーハッ。つい自虐的になり過ぎてしまった。
この方はこの異世界しか知らない、ここしか知る由もないから、僕について知ってることはほとんどないんだよね。
……ん? それってつまり信用度的なものがリセットされてる、ってことじゃん。
やり直そうと思えば、表面上のキャラだって変えられる……! もしかしたら、友達や仲間を作り直すことも可能なんじゃないの!?
「あれ? 急に口角が上がりかけていますが、どうしたのです? ……はっ、まさかくるってしまったのですか!? ど、どうすーー」
「大丈夫です。落ち着きました。今、とあることに気づいたんです」
誤解されると面倒そうなので喋っている途中だが、割り込んだ。
そしてどうやら僕は無意識のうちにニヤけかけてしまったらしい。
「あ、それなら良かったです。安心したです。ーーそれで、とあることって何ですか? ちょっと気になるです」
「たいしたことないし、言うのも恥ずかしいのでいいです」
「そうなのですか」
あっさりと引き下がってくれた。問い詰められたら、早速黒歴史を築くハメになりそうだったから助かった。
「それで、しりとりでどうやって戦うのですか? まさかとは思いますが、『しりとりで勝てたら開放してやろう』ってことになっているのですか?」
「うーん……当たっているけれどまちがっているとも言えるです」
「えっと、それって…………しりとりを基本とした、あるいは応用したバトルってことですか?」
「はいなのです。だいたいそんな感じなのです。しりとりと精霊のチカラで戦うのですが、口頭で説明するのはかなり難しいのです。やっぱり生で見ないと分かりにくいかもなのです」
言葉じゃ説明できない、ってどれだけ難しいのだろう? せっかく召喚したのに遣えない人材でした、とか洒落にすらならなさそうで嫌だな。
「難しそうなのに僕なんかにできるのですか?」
「素質はあるはずなのです。なぜなら、召喚は条件に最も適した人がくるからです」
「へー、だといいな。ちなみにですが、どんな条件にしてたんですか?」
「えっと、語い力が豊富でこの環境に早くなじめることです」
「あ、確かに当たっているかもしれません。僕はさっきまでいたところが大嫌いだったので……」
「ん? なぜですか?」
「すみません。思い出したくないことばかりなので言いたくはありません」
「あ、ならいいです。ごめんなさいです」
また、触れないでくれた。やっぱりコトハは『大人』なのかな。
ーーそういえばそのバトルってどこで見ることができるのだろう。そもそもこっちに街とかってあるのかな?
「ところでーー」
「はい、なんですか?」
「そのバトルってどこで見ることが出来るのですか?」
「ここからしばらく歩いたところにヴォータというそこそこ栄えている街があるのです。そこのスタジアムへ行けば誰かがきっと試合しているのです」
街どころかスタジアムまであるのか。結構文明が発達してるのかもしれないな。あ、でも古代ローマレベルも有り得なくはないかも。
「そのスタジアムって誰でも無料で入れるのですか?」
「はいなのです。観客席ならば、大会がない限りはいつでも入れるのです」
「大会?」
「はいなのです。これはわたしの目的にもつながーーハッ! 一番大事なこと聞き忘れていたです!」
「え? 何かな?」
コトハが真顔になって、深呼吸をした。
そして、改めて向き合ってくる。こちらを見据える眼差しは真剣そのものだ。
つられるように僕の心がおとなしくなる。なぜか僕はコトハの醸し出す雰囲気に合わせなければ、と感じたのだ。
「ホントに勝手でごめんなさいなのですが、わたしの姉様を救うために協力してわたしと戦ってほしいです。お願いします、です」
あ、そっか。さっきのお願いには何だかんだできちんと答えてなかったな。
どうせ帰り方なんて分からないだろうし、もし帰られても僕は向こうではゴミクズのままだ。
もしかしたら、こっちでも上手くできないかもしれない。でも、今は一からやり直すチャンスかも知れないんだよね。
それなら、挑戦してみたい。
「はい、僕なんかで良ければいいですよ」
僕は決意を固めて告げた。
「ーーはぁあああ……! ありがとうございますです! 宜しくお願いするです!」
蕾が開くように笑顔になってお礼を言ってくれた。こんなに喜んでもらえたのはいつ振りだろう? んー……思い出せないな。
「迷惑をかけるかもしれませんが、こちらこそ宜しくお願いします」
「いえいえなのです! そのときはそのときで頑張るのです」
「ありがとうございます。……ところで、さっき言っていた大会って例えばどのようなものがあるのですか?」
「あっ、それはですねーー」
「あっ! やっと見つけたわ〜。あなたが、精霊のコトハさんよね。随分と探したわよ」
突然声がしたので、驚いてコトハとほぼ同時に洞窟の入り口のほうを見る。
そこには『ザ・異世界』って感じの美少女がいた。
まず、その少女は外見的には僕と同い年、あるいは少し年上ぐらいで栗色の髪に翠色の瞳を持っている。
少女の周りは薄い黄色のバリアみたいなもので包まれていて、それによって雨風は凌げているようだ。
それから、成体のライオンを二回りくらい大きくしたような獣の上に跨がっていた。
近くには精霊と思われるモノが浮かんでいる。
ライオンのような獣には、小さめな荷車がつながれている。
ていうか、今の僕は服がボロボロになっているためそこそこ露出しちゃっているんだけど、こんな可愛い娘に見られるなんて恥ずかしい。まだ見られていないけど。
「はいなのです。あなたは、たしか貸出屋の娘ですよね?」
「ええ、そうよ。レンタルした商品は大切に扱ってくれる? 返却期限を過ぎたから、ここまで探しにきてたけど、あなたが召喚したと思われる場所に放置されていたわ」
「あああーー!! うっかり忘れたです! ごめんなさいなのです!」
荷車の方を見ると、先の方に水晶玉がついた棒が四本乗せられていた。
「まったく……。こういうのは気をつけてよね」
「はい、なのです」
申し訳なさそうに頷くコトハ。
「召喚には道具が必要なんですね」
話が一段落したと思われるところで、ちょっと気になったことを告げた。
「ええ、そうよ……ってなんて恰好をしているの!? 服、ボロボロじゃない! 君大丈夫!? 寒くない!?」
「え、あ、ものすごく寒いです……」
「そうだよね!? あ、それに顔が赤いじゃない。発熱したんじゃないの?」
「はい、そうみたいです。さっきまでは起き上がるのも少し辛いくらいだるかったです」
うん、それもあるけどこうして注目されてることも十分に影響されてると思います。
「コトハさん、何か心当たりはない?」
「いえ、ふと気づいたらボロボロになっていて、カタルは気絶してたです」
「なにそれ…………。それで、カタルってこの人の名前かしら?」
「あ、はい。そうです」
と僕が答える。
「あなたたち、これからウチに来ない?」
「え……?」
まさかの美少女からの『ウチくる?』発言に驚きのあまり呆然としてしまう。
ここで、『行く行く!』って答えられるほどの度胸は、残念ながら僕にはないな。
「ほら、ウチは宿屋も経営しているし、たしか部屋もまだ余っているはずだし」
「いいんですか?」
「ええ、別にいいわ。それにこの長雨じゃしばらくここから動けないでしょ?」
「まぁ、そうですね」
「何よりも病人を洞窟に放置できるほど、あたしは鬼畜じゃないわ」
え……? そこまで鬼畜じゃないって表現がちょっと気になるけど、この娘優しい。惚れてまうやろ!
……いや、嘘です。僕はチョロインではありません。一回心の中で言ってみたかっただけです、はい。
「それで、どうかしら?」
少女は決断を急かせてきた。せっかくだからお言葉に甘えたいな。
「コトハ、いいですか?」
「ええ、いいです。貸出屋の娘、お願いするです」
「オーケー。決まりね。ラク、この二人も入れるように障壁膜を調整してもらえる?」
「ん。分かった……」
あ、やっぱり精霊だったんだ。
ラクと呼ばれてた精霊がさっきのコトハのように呪文を唱える。
僕はよっこいしょ、と言いながら立ち上がる。やっぱ立つのもちょっと辛いな。
それから、障壁膜と呼ばれたいたものに足を近づけるとすんなり中に入ることができた。コトハも一緒に中に入る。
「それじゃあ荷車の上に乗ってもらえる?」
『はい』
と同時に頷き、荷車に乗り込んで座った。
かくして、僕は美少女の家が経営している宿に向かうことになった。
うん、我ながら物語っぽい急展開をしているな。
「じゃあ、出発するわよ。いいかしら?」
「はい、大丈夫なのです」
「了解。あ、ちなみにあたしの名前はアヤメ。よろしく」
そして、これから何かが起きそう、と何故か浮かんだ予感と共にライオンのような生物は動き出すのであったーー。
テスト直前なのに書き上げてしまった……。
鎮まれ我が両手よ! と思いつつキーボードから手を離せなかった自分が恨めしいです。
ーーっとお知らせを忘れかけるところでした。
これにて第一話は終わりです。次からは第二話に突入します。
次もよろしくお願いします。