第一話 召喚 その2
「はっ!? て、なっ何がどうなっているの!?」
ふと気付いたら上を向いていて、空が藍色だった……。
…………へ?
「空! さっきまで明るかったのになんで急に!?」
「……ていうか地面も! アスファルトじゃない!? どうなっているの!?」
「……つうかここどこだよ!?」
「そういや落ちてきたのに痛くなかった! ん……落ちる!? なんーでっ!? これおかしいってレベルじゃないじゃん!?」
一体何がどうなっているんだ!? 全然理解できない! つか夢!? あーでもそれにしちゃリアルだし……。
「ああ、もうッ!! 何なの!? ハァ!? エッ!? どうなってんだよぉ!! ホントに何な……ん、だ……よ……」
な、なんなんだ……。
強烈な気配を感じたので上を見た。
少女がこちらを見下ろしている。
全身が紅蓮の光に包まれながら。ついでに髪の毛が逆立っていた。
ど、どうやら非常に怒っていらっしゃるみたいだ。
え? な、なにこれ? 死亡フラグ、的な……? いや、そ、そんなバカが……えっ、でもあれって……ワケわかんない。死にたくない! 嫌だ。怖いよ……。死ぬなんて怖い。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ……!
あれ、そういや僕は死ぬことを望んでいたはずなのになんでこんなに恐れているもだろう……。
「ハ、ハハ……」
何この急展開って思われるかもしれないが、あまりにも少女の殺気が凄まじいがためパニック状態に陥ってしまったのだ。
「オイ、ソコノクソガキ。カイワヲスルトキニハ、アイテノハナシヲキケトナラワナカッタノカ!? アァン!?」
少女がカタコトで喋っている間にいくつもの光の弾のような塊が現れた。
「え……あっ……そのっーーーーああああああああぁぁぁッ!!」
視認できないほどの速さで迫ってきた光の塊が爆ぜて、僕の意識は闇の彼方へと飛ばされた。
………………………………………………。
…………………………さ、寒い。
中学校入学以来、約二年半の間大切に着ていた制服がボロボロになっているのか、冷たい風がビュービューと直接肌に吹き込んでくる。
けれども、身体だけは妙に熱いし、重たく感じる。頭も少し痛い。
下がごつごつしていて冷たいし、周りがザーザーザーザーとうるさい。雨でも降っているのかな。
僕は寝ていた……いや、気絶していたのか。
ーー気絶? そんなわけない。さっきのは夢だ。きっと夢に違いない。
ていうか、なんでこんなアスファルトの上で寝てしまったのだろう? きっと周りには奇異の目で見られてるんだろうなぁ……。でも、そんなことは今更どうでもいいや。それに運動会のときなんかもっと酷い目で注目されるんだ。今のうちに慣れることも大切だよね……うん。
…………あーあ、惨めだなぁ……。
はぁ、と心の中で大きくため息をついた。
ーーってそういえばさっき復習しろって言われたんだっけ。熱っぽいけどやんなきゃ。甘えてらんない。
僕は起き上がろうとして、まず目を開いた。
「あっ、目を覚ましたです。よかったです」
「えっ……?」
夢の中にいたはずの少女が僕の顔を覗き込んでいて、安堵の息を漏らした。
「何故、キミがここに……?」
もしかして発熱でもしたのか、夢の時みたいに大きくリアクションを起こせない。
「なぜも何も、わたしがこのどうくつまで運んできたのです」
少女はえっへんと言わんばかりにぺったんこな胸を思いきり張った。
少女の顔つきは小学校の中学年くらいに見える。大人からすればまだ幼女なのであろう。まぁ背は一メートルより少し高いくらいだけど。
「いやーとつぜん大雨がふってきてビックリしたのです」
「そうなんだ……。すごい力持ちなんだね。ありがとう。……ところでここって夢の世界なのかな?」
そう。何故か僕は洞窟の中にいたのだ。住んでるところの近くに洞窟なんてないのに。それどころか生で見たことすらないのに。
しかも、少女は巫女さんみたいな和服を着ているし、頭には大きいとはいえないぐらいの獣耳があり、尻尾がついている。まるでリスを擬人化したようだ。
「ん……? ここは現実ですよ? あっそうか! まだ召喚されたばかりだから信じられないのですね?」
「いやいや、もし現実世界なら召喚とか二次元的なことが起こるわけないじゃないか。それとも、実はキミが厨二病で、尻尾は作り物で、獣耳はカチューシャで、巫女さんみたいな服はコスプレってことなのかな?」
「にじげんてき? ちゅうにびょう? かちゅーしゃ? みこ? こすぷれ? よくわからないですけど本当に現実です」
「じゃあ、証拠を示してくれない?」
「しょうこって言われましても……」
ほれ見ろ。やっぱりここは夢の世界なんだ。ていうかもしこれが現実で起こっていることとすると、僕は電波な幼女に誘拐されていることになるのか。……ははっ……みっともない黒歴史がまた一つ増えるんだな……。こりゃあ僕の人生ますます詰まれるぞ。……ふっ、惨め過ぎて自虐的な笑みがこぼれそうだぜ。
「……うーん………………ハッ! たった今気付いたのですが、夢か現かなんてぶっちゃけどーでもいいと思うのです」
「……は? いやいや、それが僕にとってはとても重要なことなんだよ」
「ん? なぜですか?」
電波な幼女(仮)は小首を傾げた。やべ、ちょっと可愛いかも……じゃなくて!
「だって、『ヒャッホー! 夢とはいえ憧れの異世界だ!』か『電波な幼女に攫われる惨めな少年Kの誕生wwww』のどっちかなんだよ? とても大事なことでしょ?」
「あっ……そう、なの……ですか……」
ちょっ……なんで少し引くの!? 心ではそう思っても体が動かない。そういえばさっきより少し辛くなった気がする。
「じゃ、じゃあさ耳か尻尾を触らせてよ?」
だからからか、普段の僕からは一切出ない若干キモい台詞がこぼれた。
「……い、いい、です……け、ど」
獣耳っ娘(仮)が僕のそばまで戻ってきてから、おそるおそるしゃがんで頭を傾けた。耳元へ手を伸ばす。
「ーーひゃうッ……!」
…………………………え?
カチューシャを取る(そもそも触ったことがないけど)つもりで片耳を引っ張ってみた瞬間、少女は容姿に全く似つかないような色っぽくて甘い嬌声を上げた。
それと、こっちの衝撃の方が強かっため作者によって先に書かれたけれど、獣耳は取れなかった。ここは夢の世界であるようだ。
それからハッと我に帰った少女は獣の如く「ガルルルルルッ」と呻きながら、こちらを睨んできた。でも顔の色はゆでダコのようになっている。
「……耳は、せ、せーかんたいだから、あ、あまり強くしないでほしいのですッ!! そもそも『さわらせろ』と言ったのになぜ引っ張ったのですか!? あなたはさぎしなのですか!?」
「え……あっーーご、ごめんなさい!!」
ものすごくだるくて身体が重かったのにも関わらず、咄嗟に土下座ができてしまった。
人間って不思議だ。どんな状態でもいざ危機が迫ると疲れとか無関係に動けてしまうのだから。それでもこの体勢は結構きついけど。
「ふ、ふん! ふだんなら許さないけど、今は特別に許してあげるのdーーはぅわっ!? とつぜんたおれるなんて、どうしたのです!? ってさっきよりも身体が熱くなっているです!」
やっぱり身体は正直だというもので、この体勢に耐えられなくなって倒れてしまった。
「あ、トリプルの意味でごめん……。大変申し訳ないけどしばらく寝かせてください」
「あああ、し、死なないでほしいです……!」
「ありがとう。心配してくれるんだね?」
「ん?……いえ。それもそうですけど……」
え? 最初の戸惑いって何なの!? ……ってなに自惚れてんだろう。僕みたいな低スペック野郎が。
「実はわたしは大事な目的のために召喚をしたのです」
「目的?」
「はいなのです。それについてはあなたに元気になってもらってから説明するのです」
「あ、うん。分かったよ。……ちなみに僕には藤代語って名前がちゃんとあるんだ」
「あ、そうなのですか?」
「うん。そういえばキミには名前ってあるの? ここの人たちはみんなキミみたいに耳が頭頂側にあって、尻尾がついているの?」
「わたしは人間ではなくて、精霊なのです。名前はコトハです」
「せ、精霊?」
すごい。本当に異世界みたいな夢だな。いや、もしかしたら夢じゃないかもしれない。なら嬉しいな。
「はいなのです。説明は大変かもしれないので、後でするです。今はねて元気になってほしいです」
「あー悪いね。じゃあ、おやすみなさい」
衝撃なことばかり聞いて眠気が吹き飛びかけたと思ったけれど、よほど熱が高くなったのかすぐに眠気が戻ってきた。
って、異世界召喚(仮)後、すぐに大雨に当たって風邪、を引く……とかどん、だけ酷いスタートな、ん、だよ…………?
青い猫に頼りまくる眼鏡少年ほどではないが、すぐに意識は離れていった。
更新が遅れてしまって大変申し訳ございません。次回も今回のようなノリで進行する予定です。
※ここからは言い訳です。
実は私は受験生であるうえに長編の小説を書くのは初めてなのであまり長くない時間の中で悩みながら執筆しています。
ですので次回の更新もいつになるか分かりません。けれど、次回も読んでいただけると大変ありがたいです。よろしくお願いします。