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プロローグ2

 地方都市ヴォータにあるヴォータ・アカデミーのグラウンドにて。


「次の組! アヤメ・テンパーリー、ダリウス・アッカー、準備はよいか?」

 中心に立って手にタブレットを持っている試験官が左右で対峙している二人に呼びかける。アヤメの近くには二体、ダリウスの近くには一体の精霊が浮いている。どれも身長は一メートルより少し高いくらいだ。


「ええ、あたしは大丈夫です」

「ああ。俺もだ」


「よし。じゃあタロー、障壁を展開してくれ」

 試験管が自分の精霊に命令をする。


 了解、と返事すると同時に精霊を中心とした半径二十メートルほどの半球型の障壁が展開された。


 障壁とは精霊の力ーー聖力(オーラ)を用いて試合や練習するときに周囲に被害が及ばないようにするためのものである。


「よし、では改めてルールの確認をする。勝利条件は相手のゲージをゼロにすることと相手が降参することだ。ただし、相手に大怪我を負わせたり、精霊を狙って攻撃したり、卑怯な手で『降参』と言わせた場合は失格となり0点になる。以上だ。質問はあるか?」


『………………』


「ないようだな。尚、先攻はアッカーで最初の文字は『い』だ。よいな?」


「ええ」「ああ」


 では各々準備をしてくれ、と試験官は言い手元のタブレットを確認する。画面には二人の名前とゲージがきちんと表示されていた。これは二人がそれぞれ腕につけている機器が受けたダメージを数値化してタブレットに送る、という仕組みになっている。


「だとさ。ヨー、準備をしろ」

「うむ………………我ハダリウス・アッカーノ精霊ヨー也。精霊機関ヨ、今コソ我ニチカラヲ与エタマエ。ーージャンル:基本的なこと(ベーシック)内容(カンテント)チカラの解放(リミットブレイク)That's all.」

 約二秒後ヨーとダリウスから紺色のオーラが溢れてきた。ただ精霊の方が色が濃くて強い。戦闘準備完了だ。


 同じような具合でアヤメも精霊のチカラを解放させる。これだけでは終わらず、某国民的青い猫が所有する筒型の武器に似たものを左手に装着した。こちらも完了だ。

 確認を終えて二人の方を見ていた試験官が告げる。



「終わったようだな。ーー実戦試験、開始!!」



 試験官の張り上げた声が鼓膜に届いた瞬間、ダリウスは地を蹴り上げてアヤメに迫る。


十六夜(いざよい)!」


 ダリウスの右手の(てのひら)にバスケットボール程の大きさの気弾が現れる。彼はそのまま天倒ーーすなわち頭頂部を狙って殴りかかる。


 通常は自分のターンになった瞬間に気弾が現れ、言葉を返すと放たれるのだが始めは言ってから気弾が現れるのだ。


 基本的な戦略。もう一つ手があるのか? まぁいい。

 アヤメは回避するために後ろにへ大きく跳躍する。だが、ダリウスはそれを見越していたかのように身体を捻り、ドロップキックをお見舞いする。まだ着地できていない彼女には避ける術などなく鳩尾(みぞおち)に直撃した。


「くっ……!」


 急所を突かれたせいで上手く着地できずにそのまま倒れる。地面にぶつかった直後、今度は気弾によって腹を攻撃される。


「ああッ!」


 今の一撃でゲージがニ割ほど削れた。アヤメは悲鳴を上げる腹を手で押さえながら立ち上がる。


「へっ。あんたは強いって聞いたことあるからちょっとだけ本気を出してやったのにーーふっ期待はずれだな。まさかその程度で強いって思ってたのか? ぷぷっ冷たすぎて逆に笑えるぜ」

 ダリウスは嘲笑する。その言葉にアヤメは歯を食いしばるってこらえることしか出来ないようだ。


 そして再びダリウスの手に気弾が現れた。


 このバトルでは片方が言って、気弾を放った瞬間に相手の手にバスケットボールと同じくらいの大きさの気弾が現れる。その時から時間の経過と共に小さくなって威力が弱まっていって消える。そして消えたら再び相手のターンになる。尚、現れた気弾は防御に使うことはできない。そのため、今はアヤメは言葉を発しなかったため、気弾が消えてまいダリウスのターンになったのだ。


「時間だな」とダリウスは言いダッシュする。


烏賊(いか)!」


 アヤメのすぐ近くまで迫って跳ねるのと同時に言葉を発し、気弾を放つ。次の狙いも頭頂部だ。

 さっきのような罠を警戒し手でガードする。


「つッ!」


 ダリウスは着地し、言葉を発する隙を与えないためにすかさず脇腹を殴る。


「くぁッ!」


 さらにストレートを心臓の辺りにぶつけ、もう一度思い切り殴ると、アヤメはバランスを崩して倒れた。今の連打で三割程のゲージが削れた。


「おい、まだちょっとしかやってないのにもう残り半分しかないぞ? いいのか?」

 ダリウスはアヤメを見下して嗤いながら言った。


 アヤメは呻きながら立ち上がって、

「そうしたのはあんたじゃない。女の子に手加減する気はないのかしら(’’’)?」

と返すのと同時に大分小さくなった気弾が放たれーーる前に手に装着している器具に吸収され、それについているメーターが二割程溜まった。語尾の『かしら』が『(かしら)』だと認識されたため放たれそうになったのだ。


 だが、あっさりとゲージを半分削れたことにより気分が良くなって注意力散漫となったダリウスはそれに気づいていない。そして自分の手に気弾が現れて、あたかも三連続で俺のターンだと錯覚した。


「ふっ。残念ながら俺には女だからといって容赦してあげるような優しさなんて持ち合わせてないぜ。ーー開鑿(かいさく)!」


 今のアヤメは立っていることすらちょっとキツいはず。ならば、と思い言葉を発した直後に手を足元に向ける。しかし放たれることはなく、どんどん小さくなっていく。


「ん!? ど、どいうことだ!? テメェ何か細工したのか!?」


「さあね」


 シラを切られたダリウスは舌打ちし、試験官の方を見る。


「おい、試験官! これはなんなんだ!?」


「ほぉ、なるほど。……アッカー、この程度のことに気づけないようじゃ減点だな」


「ハァ!? クソッ!!」

 悪態をついている間にも気弾はどんどん小さくなっていき、消えた。そしてアヤメの手に装着している器具の先に気弾が現れる。


「にひぃ。私の番ね」


「おい、今すぐ教えろ!! じゃないと後で痛い目に遭うぞ!!」


「何それ? 脅してるの? それより落日(’’)でも見て少し落ち着いた方がいいと思うわよ」

 気弾が吸収され、器具のメーターが四割程溜まった。たしかに遠くの山脈に陽が沈み始めていた。


「ハァ!? テメェ舐めてんのかゴラァ!?」

 完全に混乱し、イラついているダリウスはまた気付かなかった。


 そして手に気弾が現れる。


「ああ!! もう適当にやってやるぜ!! ーーアザ! 生け捕り! 迂回! 液体! 逢瀬(おうせ)! 雷!」

 自棄糞(やけくそ)になってア行の言葉から順に怒鳴り始めた。


 ふふ。無様だなぁ。さっきの自信はどこに行ったんだろう。


「ねぇ、まだ気付かないの?」


「うるせぇ!! テメェは黙っていろ!!」


「あらそう? せっかくヒント教えてあげようと思ったのに」


「……あ? なら早く言えよ」


「ヒント。今までの会話」

とアヤメが教えたところでダリウスの気弾が消え、アヤメのターンになった。


「どういう意味だ? もっと詳しく言え」


「それは無理。追想(’’)して見れば?」


 気弾が吸収され、メーターが満タンになった。その直後、通常の約二.五倍程の大きさを誇る気弾が現れる。アヤメは器具についているとあるスイッチを押して、それをビー玉程の大きさに圧縮させて放つ。

 下を向いて必死に思い出しているダリウスは気付いていない。それはそうだ。そうなるように仕向けたのだから。


 バァン!!


「ぐぁぁあぁ!?」


 近くまで迫った気弾は唐突に爆ぜた。ダリウスは軽く吹っ飛ばされ、突然起きたことに対応できず、地面に背中を強く打った。ゲージは一この一撃で最後の一ドットまで削り取られた。



「……勝者、アヤメ・テンパーリー!」



 試験官が声を張り上げた。アヤメはにひぃと笑った。ダリウスは衝撃と痛みで起き上がれないようだ。


「ど、どう……いう、こと……だ……?」

 ダリウスはなんとか意識を保ちながら()く。なんで突然負けたのか、何で気弾が放たれなかったのか理解できない。


「まず始めに弱いふりをしてあなたがわたしを舐めるよう仕向けたのよ。次に会話の中に続きの言葉を織り交ぜて、この器具に三回分の気弾をチャージしたの。そして最後にあなたが考え込んでいる隙に三回分の気弾を圧縮してあなたにぶつけた。以上よ。まぁあなたが自身のチカラを過信している単細胞でよかったわ」


「な……ん、だ……と…………」

 ダリウスは意識を保てなくなり、ついに気絶した。

 



 およそ二時間後。ヴォータ・アカデミーの医務室にて。


「ーーハッ! ……ん? なんで俺はここにいるんだ?」

 ダリウスは目を覚まして半身を起こした。彼は実戦試験の後、試験官によって医務室に運ばれたのだ。彼は何ヶ所かに湿布を張られて、ベッドに寝かされていた。


「あら? 目覚めたようね?」

 椅子に座って読書をしていた保健医が椅子に本を置いて、こちらにやってきた。


「あなたはさっきテンパーリーさんに負けて気絶してしまったって聞いたわ。ところで具合はどうかしら?」


「まぁ、大丈夫だ……じゃなくて、です」


「そう。実は今から職員室で事務を片付けなきゃいけないの。鍵を預けるから少し落ち着いたら鍵を閉めて、届けに来てくれる?」


「ああ。分かりました」


「よろしくね」

 保健医は保健室から出て行った。


 外を見るとすっかり暗くなっていて、辺りは静寂に包まれていた。


 ダリウスはさっきの屈辱的な実戦試験を思い出す。今はあの忌々しい女の顔を思い出すだけで、ものすごく腹が立つようになった。あれはただの試験。されど試験。こんなんじゃ終われない。随分と俺を舐めくさってくれたな。俺はアイツをコテンパンにしないと気が済まない。


「……。アヤメ・テンパーリー、いつかテメェをぶっ殺してやる」

 ダリウス・アッカーは静かに不気味な笑みを浮かべた。


 



 

すみませんでした。実はまだきちんとしたプロットを作ってないので遅れてしまいました。

さて、次回から本編が始まります。よろしくお願いします。

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