第二話 居候 その4
ランちゃんは二階の隅でちりとりのようなモノでゴミを集めていた。近くには長いほうきのようなモノが置いてある。
きっと長いほうきでゴミを隅に集めてからちりとりで一気にとる、という作戦なのだろう。
「おはようございます。もうそろそろ朝ご飯の準備が終わるみたいですよ」
「あ、おはようございます。分かりました」
あれ? 思いの外普通のリアクションだ。これが『時が解決してくれる』ってやつなのかな。
「これ、どこにしまえばいいですか?」
僕は長いほうきらしきものを指して訊いた。言うだけ言って去るのもなんかアレだよね。
「え、片付けてくださるのですか? お身体はもう大丈夫なのですか?」
「はい、やっと治ったみたいです。ありがとうございました」
「いえいえ。その、お役に立てたのであれば嬉しいです。ではお願いしますね」
年下なのに良くできた娘だなぁ。ホテル業のお手伝いをやっているうちに自然に身についたのかな。
「はい。で、どこですか?」
「ああ、すみません! 受付の近くに、あの、『関係者以外立入禁止』と書かれている紙が貼ってある扉があるのですが……分かりますか?」
「ん? ……ああ、はい」
ここに連れてきてもらった時にチラッと見ただけだが、確かにそんな扉があった気がするようなしないような……。
……まあ行ってみれば分かるよね! 多分。
「そこが掃除道具が入っている小さな倉庫みたいなところなので、そこにしまってください」
「あー……うん。分かり、ました」
「……えーと、やっぱりわたしが片付けましょうか? お任せするのも悪い気がしてきましたし、ただの常套句でしたら尚更申し訳ないので……」
微妙な態度を見て、不安に感じてしまったらしい。
「ううん! 大丈夫です。お世話になったのでどんなに小さいことでも、その、恩返しがしたいので」
「そうなのですか? では……ご厚意に甘えてお願いしますね」
「はい、これくらい任せてください!」
僕はほうきらしきものを拾って階段に向かって歩き出した。
掃除用具入れは案外早く見つかったので、それをしまってから食堂へ向かった。
食堂の方は八割ほどの席がもう埋まっていて、従業員やテンパーリー家の三人は端の方の席についていて、それぞれの人の前には料理が盛り付けられた皿があった。ランちゃんは大皿の前で立ちつくしていて、何を食べるか悩んでいる。
ここの宿では宿泊客も経営者もみんな同じ時間帯に同じものを食べるようだ。
アットホームな感じーーとはちょっと違うかもしれないけれど、なんかいいな。
僕も皿の山から一枚取って、食べるものを選び始める。
「あ……掃除用具入れの場所、分かったでしょうか……?」
やはり少し罪悪感を覚えてしまったのか、あるいは全く信用していなかったのか、今までよりも控えめに訊いてきた。うん、理由が後者だったら哀しい。
「うん。割とすぐに見つけられました。これくらいは大丈夫です。……それとも、全く信用できなかったのですか……?」
もし後者だったら、嫌なので思わず尋ねてしまう。
「いえいえいえいえっ! 別にそういう訳じゃないんですっ」
両手が塞がっているランちゃんは手の代わりにぶんぶんと首を横に振って否定した。小動物みたいで可愛い。ーーじゃなくて!
「そうなんだ。よかったー」
無事に受験終わりました。おそらく本命に合格できます。
これからは更新ペースを縮めていきたいと思います。
次回も宜しくお願いします。