大臣の影
カーン :アレンが帰って来ただと、奴め、何を考えおる。 まあ良い、そのうちわかるだろう。
しかし、皇帝には困ったものだ。 子供だと思っておったがな、生まれながらのカリスマ、やはり皇帝の器か。
兵士:カーン様、ご報告を。
カーン なんだ、入れ。
兵士: 失礼致します。門番の連絡によりますと、エリサ殿、並びにアルマス殿が参られているとのこと。
カーン :旧騎士団の輩が揃いも揃って何しに来たのだ?わからんな。
兵士:アルマス殿は西方城壁に向かわれては居ますが、現在も騎士団の副団長を
カーン :知っておるわ、その位!たわけ者!
兵士:はっ、失礼致しました。
カーン :あんな品の無い奴らは、旧騎士団の残党とでも呼べばいいんだ。
兵士:しかしながら、彼らの力なくしてはこれまでの
カーン :あん?貴様、一兵卒の分際で誰に何を講釈垂れておる?
兵士:いえ、失礼致しました。騎士団の名誉のためにも一言だけと思いまして。
サロモン:騎士団なら、ここにもいるぞ。表にはあまり出てこないがな。
兵士:げっ、サロモン様、いらっしゃったのですか。
サロモン:ん?居ては悪いのか?ずっとここに居ましたよ。気配は消して居ましたけどね。
兵士:本日もご機嫌麗しく
サロモン:さっき迄はね。今は、あまり麗しくないかな。誰かさんのせいでね。
兵士:いえ、騎士団の名誉と思いまして、サロモン様も騎士団の一員ですので、あまり不名誉な事を耳にされるのは
サロモン:騎士団の不名誉?アレンの存在のことか?
兵士:いえ、まさか、そのような。
サロモン:そうか、お前もそう思っていたのだな?
兵士:そんな、滅相もございません。
カーン :隠さぬでもよいぞ。こういう時はそのように振る舞った方が身の為、という時もあるのだよ、一兵卒殿。
兵士:は、ハイ、そのご意見に異存はありません。
サロモン:あらあら、一兵卒に迄こけにされるとは、アレンもアルマスも地に落ちたものですな。
兵士:い、いえ、地に落ちただなんて。
サロモン:貴様の家族は元気なのだろうな。あくまで現在はの話だ。
兵士:はい、元気だと思います。先月も村で小麦を刈り入れたばかりですので、今はその後の作業に追われている頃かと。
サロモン:そうか。来月も元気だといいな。いや、明日も元気だといいな。
兵士:え、それはどういう事でしょうか?
サロモン:さあね。人は運命に逆らえない。君が大臣に逆らえないようにね。
兵士:それは、もう、皇帝陛下への忠誠心には一つも曇りがありません。
サロモン:皇帝陛下ではない。カーン大臣にだ。
兵士:まあ、それはもちろん忠誠を誓っております。ですが、皇帝陛下あってのこの国ですので。
カーン :ふふふ、やれ。
サロモン:私は大臣に忠誠を誓っておるのでな、大臣の命令は絶対なのだよ。悪く思うな。
兵士:なにをっ!ぐはっ!
カーン:皇帝のついでみたいな言い方をしよって、失礼なやつだ。
こやつ、謀反を企てた罪で処刑したと処理をしておこう。
サロモン:ならば、机に少し細工を。
SE ガッ! 机に一撃。
サロモン:これを証拠としようか。
カーン :私の机を!
サロモン:処刑するなら、それなりの代償が必要でしょう?
カーン :大事に使っておったのに。
サロモン:ちょっとばかり、打ち込みが強すぎましたかな?ザックリとえぐれてますな。
まあ、いいでしょう、この位派手でなければ嘘臭くなってしまう。でしょ?
カーン :あまり良くはないぞ。
サロモン:何か、言われましたかな。
カーン :いや、分かった。これでいい、これで。 また新しい物を手に入れればよい。
そうだ、あのわがまま皇帝に執務用の机は必要あるまいな。
サロモン:そうですか、ならばそうすればいい。
私と貴方は協力関係である。 主従関係ではないからな、対等の立場をお忘れなきよう。
カーン :いざ、という時、私を守ってくれるのであろうか。
サロモン:守りますよ、受け取った分位には。 では、私はこれで。
カーン :おっと、手筈は整っておるのだろうな? 色々と仕掛けを施しておるのだろ?
サロモン:抜かりはないですが、何分、相手がアレンとなると不確定要素が多すぎて。
まあ、その時はその時。 別のものでも構いませんかな?
例えば? 皇帝を巻き込んでしまうことも、あるかもしれませんよ。
カーン :あんなガキはどうでも良いのだ。偉そうにしやがって、クソガキ目が。
だいたいなんでこの私があんなガキに
サロモン:皇帝の事はあまり気になさらないのですな。
カーン :どうでも良い。あー、しかし、名馬ファイブスターは辞めてくれよ。
あの馬はこの国の誇り。子孫を増やして貰わねば困る。大騎馬軍団、復活のときまでな。
サロモン:昔々の栄光ばかり追いかけておられると、現在の状況を見誤り、足元を掬われますよ。
カーン :まあ、そう言うな。私の夢でもあるのだ。
大草原を悠々と大騎馬軍団が土煙を上げて侵攻するのだ。
敵国は身もすくむ思いでこの軍団と対峙するわけだ! 逃げ出す兵もおろうな。
なんせ、圧倒的だからな。
サロモン:(そんな事では敵の策略によっては軽く壊滅するがな。)
まあ、良いでしょう。 極力、被害を与えぬように心掛けましょう。
色々と、使い道があるようですからな。
カーン :そうであろう。 そうだ、確か今夜は晩餐会が開かれるであろうな。
元の騎士団とはいえ、皇帝が客人を城に招き入れたのだからな。
サロモン:その時にでも、アレンの腕が落ちて居ないか、少し確認させて頂くとしようか。
カーン :そうだな、しかし、くれぐれも内密に。
サロモン:分かっております。
奴が帝国を代表する騎士団ならば、私は影の、そうですな、黒騎士団とでも名乗っておきましょうか。
カーン :よしよし、それで良い。では、上手くやってくれよ。ふぅー。
サロモン:承知致しました。 では、晩餐会の席で少し大掛かりな見世物でもご覧いただきましょうかね。
カゲ:お呼びで?
サロモン:おい、あれ、用意しておけよ。
カゲ:かしこまりました。 最高級のものをご用意しましょう。
カーン :くしゅん!あー、なんか背筋が冷やりとしておるな。 そろそろ雨でも降るのかのー。
カゲ:それにしても、奴は頼りになるのでしょうか? どうも信用成りませんが。
サロモン:事を成すための資金源でも、あり、権力欲の塊の癖にそれをかなり持っている。
色々と都合がいいのだよ、権力の使い方だけは上手なものだ。
カゲ:深くは考えますまい。サロモン様のことですから、全ての事柄は蜘蛛の巣のように絡み合っているのでしょうね。
見えない程の、か細い糸によってその網に虫たちは捕えられる。
サロモン:気にするな、いつもの通りやればいい。 あの時の様な失敗はするなよ。
アレンは良いが、ギルモアは厄介だな。 まぁ奴との知恵比べ、負ける気はせんが。
カゲ:サロモン様、何を案じていらっしゃるのですか?問題有りませんよ。 サロモン様こそ、いつも通りに。
サロモン:そうだな。いつも通りに、奴も殺すか!