うちの竹取物語
山の笹藪から、夫が大量の姫タケノコを採ってきた。私はせっせとタケノコをゆでては皮をむいて水にさらしていく。
「なんか、昔ばなしみたいだな。オヤジが山でタケノコ採って、カアちゃんが水仕事して。うちは現代版の竹取物語だ」
「竹取物語なら、かぐや姫と黄金もセットで採ってきてくれなきゃ」
「……それじゃ、強欲な悪役バーさんだろ。善良な俺に神様が同情して、笹藪から金塊でも出てこないかな」
「全然善良じゃないし。それに読んだ本にはかぐや姫に出てくる黄金は、砂金って訳してあったけど」
「砂金か。笹藪に砂金は出ないが、同じ市内の川では昔砂金が取れたらしいぞ。でも、笹竹の姫タケノコじゃ、かぐや姫には小さすぎるか」
「あ、それもね、かぐや姫はそもそも菜種粒ほどの大きさだったって説があるんだって」
「それならうちにもかぐや姫が来るチャンスがあるかもなー」
夫は笑いながらそう言って、私がゆでたタケノコを一本手にして皮をむいたが……
「ありゃ。お前、かぐや姫をゆでちゃったよ」
何を言ってるんだと思ってそのタケノコをのぞいてみると、菜種粒ほどの何かの虫の幼虫がタケノコの中でご臨終あそばしていた。
「あーあ。強欲バーさんがいちゃ、俺にかぐや姫と黄金は巡ってきそうにないなあ」
バーさんいうな! そういうあんたも十分強欲ジーさんだろうが!
我が家にかぐや姫が訪れることは、永遠にない。