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7、学園探検

入学からしばらくが経った。

俺はいまだに誰とも親睦を深めていない。


いや違う、ボッチじゃない。断じて。


そもそも特別生クラスは俺たちを除くと3名しか在籍していない。

しかもその3人が全員癖の強そうなやつで、授業に真面目に来るやつもユルシエル1人のみ。


恐らく基礎中の基礎は今更学ぶ必要などないという考えなのだろう。

出席が義務ではない特別生クラスだからこそできることだ。

つまり、俺たちがいくら真面目に出席したところで仲良くなるチャンスはないのだ。


俺自身は別に現状に不満は抱いていない。

護衛という意味でもフィリアと2人のことが多いおかげで、ほとんど1人にならないからだ。

だから俺はボッチじゃない。


まあ、前世でボッチ経験ありだから今更どうとも思わないが。


だがフィリアはどうやら不満を覚えているようだ。

学園で友達と過ごすということが一種の夢であったらしく、しきりに話しかけたそうにしている。

特に同じ女子であるユルシエルに声をかけたいようだ。


といってもフィリアの大人しい気性のせいでうまくいっていない。

話しかけようと席を立つが何も言えないフィリアに微笑ましさを感じるが、俺も上から目線で見れるような立場にないことを思い出した。辛い。


まあそういうことで、放課後一緒に友達と王都に行くような案件もない。


「ねえアルフ君、どうする?」


要は暇なのだ。


昼を回らずに終わってしまった今日の授業。

ちなみに、まだまだ基礎を学び直しているような状態だ。だからこそ強制ではないのだが。


迎えはいつでも対応できるように駐車場で待機しているが、このまままっすぐ帰るのも味気ない。

ここ数日はその味気なさを感じていたのだから尚更だ。


もう誰もいない教室で、長机に頬杖をつくフィリア。

その表情には思いっきり暇だ、と書いてあるようだ。


なにか主人の暇を紛らわせるようなものはないか、と必死に頭を絞る。

魔術の訓練、はあとから学園で嫌でもするのだからやめておいた方がよさそうだ。

パソコンはないしなあ。あれ一つあれば一日や二日の暇など余裕で潰せるんだが。

俺は実際に潰しまくってたわけだし。


「では、学園内を回ってみてはどうでしょう? 私たちはまだ一部の校舎しか回っていないですし、ここはものすごく広いようですので」

「あ! それいいね! 学園探検だ、面白そう!」


何とか絞り出した答えはフィリアのお気に召したらしい。

暇そうにしていた表情がぱっと楽しそうに輝いた。


「では、いきましょうか」


俺が促すと、フィリアは席を立った。

椅子をひいて立ち上がりやすくしつつ、フィリアが教室を出るのを待つ。

意気揚々と歩き始めたフィリアの数歩後ろを歩き出した。







「こちらが魔法訓練場ですね」


手元の地図と現在地を見比べながら、フィリアに説明する。

教室からは随分離れているようで、長い廊下や階段を下ってようやくたどり着いた。

実践授業や私的な訓練で利用するための下調べでもあるので、最初にここを選んだのだ。


「ここかあ……広いね」


首を左右に振って当たりを見渡すフィリア。

その言葉通り、この訓練場は横にも縦にも随分広い。

レイリス家の訓練場も大きいと思っていたのだが、ここは少なく見積もってもその2倍はあるだろう。

ドーム状に広がった天井は到底手の届きそうにないほど高い。


大会にも使われるようで、地面から少し高い位置には観客席も用意されている。

しかしそれ以外は何もなく、ただっ広い空間があるのみだ。


「実践用ですしね。上級魔術のために薄く結界も張ってあるようです」


訓練場の壁のあたりを指さす。

フィリアとともに近寄ってまじまじと観察してみると、壁から少し浮いたところに薄い光の膜が見て取れた。


「うわあ!本当だね!」


どうなってるんだろ、と楽しそうに言いながらフィリアがつんつんと結界を指で突く。

しかし結界は働かずに、そのままフィリアの指を通した。


「あれ? 結界なんだよね?」

「多分、魔力干渉をしていないからだと思います。結界は魔力で作られたものなので、基本的に物理にはあまり効きませんので」

「へぇ~」


昔、エミーリアから教わった知識をもとにフィリアに解説する。

結界とは特定の効果を持たせた魔力の壁だ。

それは、火を通さない、魔力を通さないなど戦闘において様々な有利な点をもたらすことになる。よって魔術を使えるものは必ずこれを訓練するのだ。


フィリアは薄い壁に入ったり出たりする感覚が面白いのか、何度も結界を突いている。

俺も突いてみようかと思ったがこれはフィリアがしているから微笑ましいのであって、俺がしたらいけないような気がしたので見守ることに徹した。


それにしても、こんなに大きな結界を張れるということは、これを行った人物は相当な魔力量を誇っているのだろう。

さらにこの広いドーム全体を覆うのは細かい部分まで魔力を均一に張らなければならないため、酷なはずだ。

今の俺でもギリギリできるかどうか。


恐らく、この結界の目的は魔術から観客を守るため。

少し触れてみれば魔力の流れから、魔力を通さないようにできていることが分かる。


「よし、じゃあ次の所に行こっか」

「ここから行くとすれば、魔術研究棟でしょうか?」

「そうだねー……。あんまり研究とかわからないけど、行ってみたいかも」


校内の地図を2人で覗き込みながら話し合う。


この訓練場は北側にある教室棟から離れた南側に位置している。

東側には今話題に上がっていた魔術研究棟がある。訓練場からは一番近い。

ちなみに西側には巨大な図書館がある。頻繁に行くようになる可能性があるので俺としては今日中に下見をしておきたい。


「研究棟でしたら、こちらの廊下からが近いと思われます」

「うん、こっちだね」


訓練場を出て一度校舎の廊下に戻る。

天井が無駄に高い場所にいたせいか、廊下がひどく狭く感じる。

それはフィリアも同じようで、何度も天井を見上げている。


「なんか近いね、天井」

「これが普通なはずなんですけどね」

「確かに……あっ!」


フィリアの何かを発見したような声に、天井を見上げていた視線を隣へ向ける。


「どうかしました?」

「あっちあっち」


くいくいと袖を引くフィリアに促されるままに廊下の先を見ると、どこかで見たことがあるような生徒が歩いていた。前世では当たり前だったが、ここでは珍しい艶やかな黒髪だ。

手には分厚い本があり、西側へと向かっていく姿から、図書館へ向かっているのが分かる。


確かにあの黒髪は記憶にあるのだが、どこでみたのだったか。


「あの人、同じクラスの人じゃない?」


内緒話をするように俺の耳に近づいて話すフィリアの声で、ようやく思い出した。

そういえば、入学式の時に教室で見た、性別不明な生徒だ。

入学式以降は一度も授業に参加していなかったので忘れていた。

だが、本を持って図書館へ向かっている姿から察するに、学園自体に来ていないわけではないようだ。


「そうですね、確か特別クラスだったはずです」

「やっぱりそうだよね!」


記憶から絞り出しながら頷くと、フィリアは目を輝かせた。

その目を見た瞬間に俺は目的地が変更されたことを察した。


フィリアの友達ほしい病が発症したのだ。

恐らくこれをきっかけに仲良くなってそれから、という綿密な友達計画が立てられていることだろう。

その計画が実行されたことは残念ながらほとんどないのだが。


「図書館に行こう!」


ですよねー。

俺は楽しそうに歩き出すフィリアに手を引かれて図書館へと向かった。







巨大だとは聞いていたが、こんなにでかいとは。


それが学園の図書館の第一印象である。

3階建ての建物のすべてが本で埋め尽くされており、蔵書はもう数えきれないほどあるらしい。


中でも多いのは魔法書、魔術書だ。

これらは次々に新しいものが発明されているため、毎年新書が図書館に入ってくる。

まあ、くだらない研究や無駄な魔法なんかも記されているらしいが。


「あれ、あの子どこに行ったんだろう……」


性別不明の生徒を追ってここへと入ったのだが、姿が見えない。

俺は本に手を伸ばしたくなるのを必死にこらえて、そいつを探すフィリアに従って辺りを見渡していた。

ぶっちゃけ俺としてはそいつよりも本の方がよっぽど重要なんだが、主人の意向を無視するわけにもいかない。


くそ、何で俺は執事なんだ……。

執事になったのを初めて後悔した。


「アルフ君、ちょっと右の方を探してもらってもいい?」

「分かりました」


申し訳なさそうに眉を下げるフィリアに頷く。

どうやら俺が本を手に取りたがっているのをなんとなく察したようだ。そんなに態度に出ていただろうか。


左の方を見て回るフィリアと一旦別れる。

広すぎる空間のせいで、人を探すのも一苦労だ。


本棚を抜けて右側の方へさっと目を通していく。

普通のクラスは授業中だからか、図書館内は静まり返っている。

俺の足音と遠くからフィリアの足音がかすかに聞こえるだけで、本当に他に誰かがいるのが疑問に思ってしまう。


フィリアに言い渡された範囲をぐるぐると回ってみるが、人影らしきものは目に入らない。

物音一つしないとは、本当にあいつはいるのか?


「……」


今はフィリアと別行動しているし、別にいいよな。

心の中で弁明しつつ、ぐるぐると回っているうちに気になった背表紙の本を適当に眺めていく。


ここは火魔術についての魔術書が多いようで、俺が見たことのない魔術もたくさん載っているようだった。

これは家に帰ってから勉強しなきゃいけないな!


本棚の背表紙に目を通していくと、不思議な一冊の本に視線が吸い寄せられた。

背表紙には何も書かれていない。

タイトルや、著者すら。

くすんだ赤色の背表紙が周りから浮いていて、一際存在感を放っている。


興味を惹かれて背表紙へ手を伸ばす。


「……あ」



背表紙に触れた右手が何かに触れた。

誰かの左手。


隣へ視線を移すと、艶やかな黒髪が靡いていた。

中性的な顔立ちのそいつと視線がばっちりと合う。


性別不明のやつだ。



非常に遅くなりました。

忙しくてなかなか投稿できず……申し訳ないです。


でも絶対にエタらせる気はありませんので!

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