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閑話 面接官たちの心情

遅くなって申し訳ないです……。

リアルが忙しくて筆が進められませんでした。

そして遅くなった割に短いです。いや、申し訳ない……。


廊下にいくつも並んだ会議室の一つ。

静かな部屋の扉がバンッ、と勢い良く開けられた。


「邪魔をする!」


入ってきたのは赤髪の少女。

顔には自信ありげな表情が浮かべられていて、胸はふんと張られている。

少女はそのまま大きな歩幅で歩くと、どっかと椅子に腰を下ろした。


「わらわはクラウディア・ヴァン・アンハイサーだ、よろしく頼む!」


少女の雰囲気にのまれた面接官たちがおずおずと「よろしくお願いします」と礼をする。


これは癖がありそうな貴族の少女だ。

面接官たちは互いにアイコンタクトで警戒を促した。

変わっている貴族の少女には普通の対応をとっても学園にクレームを入れられる可能性がある。

故に面接官たちの柔軟な対応が必要となる。


「本日は、この王立魔術学園を受験していただきありがとうございます。クラウディア・ヴァン・アンハイサー様ですね。では早速いくつか質問をさせていただきます」

「うむ!」


少女の快活な応答に、面接官たちの気が抜ける。

これは別にクレームは入れられなさそうか……?


とはいえ、試験という意味では気を抜いてはいけない。

もう一度気を張りなおして、少女へと質問を投げかけ始めた。







白を基調とした部屋に、くっ付けられた2つの長机と、それに向き合うように椅子が一つ。

長机には4脚の椅子が並べられており、そこに4人の面接官が座っている。


先ほどの受験者が去ったあとに残された微妙な空気が面接官の口を重くする。

誰も口を利かずにただ自身に与えられた受験者の評価を、困惑しつつ書いていた。

あまりにも強烈過ぎてどんな評価をつければいいのかわからない。


面接官の頭には総じて受験者の少女が浮かんでいる。

まず扉を開けたところからどこかおかしかった。

一向に進まない評価を何とか書き上げるために、少女の一連の動向を思い出す。


最初はまだ声の大きい元気な少女だという印象があった。

だがここ最近の王都の様子や出身地の出来事などの話題になると話すことは支離滅裂。

仕舞いにはどこからか扇子を取り出して「どうだ、凄いだろう!」と胸を張りポーズを取り始めた。


そのころになると面接官の顔は引き攣っていて、精神的に疲れていた。


とはいえ、最後に行った魔術の実技は素直に素晴らしいものだった。

少女が胸を張るだけはある。


受験者としては珍しい中級魔術を使って見せたのだ。

ここ、王立魔術学園を受験する者の多くはかろうじて初級魔術を使える程度。

中には初級魔術さえ使えずに入ってくるものもいるくらいだ。

もちろんコネで捻じ込まれた者くらいなのだが。


その点ではあの少女は中々高評価を得たのではないだろうか。

筆記で点数をとれていれば、特別生になる可能性も高い。


重い筆を動かして高めの得点を付けると、面接官の一人が他の面接官に声をかける。


「では、そろそろ次の方をお呼びしても?」

「構いません」


面接官たちの頷きを見て、その面接官は受付へと合図を出す。


少し疲れているとはいえ、試験は厳かに行わなければならない。

一つ深呼吸をついて面接官たちは次の受験者に意識を向けた。


そこへ、トントンと響くノック音。

どうやら次の受験者は礼儀正しい人物らしい。


「どうぞ」


面接官の一人が受験者に声をかけると、しばらくしてがらりと丁寧に扉が開けられた。

先ほどの少女とは全然違う力加減だ。

比べてしまうのは仕方があるまい。


「失礼いたします」


一礼して入ってきたのは、執事服を身につけた銀髪の少年。

その風貌も相まって、爽やかな少年という印象を抱く。


少年はそのまま椅子の元まで歩み寄ると、椅子へは座らずに椅子の左横で止まった。

面接官たちは目を丸くする。

ここまで礼儀正しい受験者は初めてである。

大抵はそのまま何を言わずに座ってしまうのだが。


「どうぞ、座ってください」


面接官が椅子をすすめると、少年は「はい」と返事をしてようやく腰を下ろした。

面接官一人一人と目を合わせて、一瞬へらりと笑った。


ん?

今のは何だったんだと少年を見るが、少年はもう真剣な顔に戻っていた。


「では、貴方のお名前と出身地を教えてください」

「はい、私はアルフォンと申します。出身地はレイリス侯爵領の南端、グエラ村です」


滑らかな少年の口ぶりに感心する。

堂々とした態度といい、どうやらこういった場面に慣れているようだ。


その後いくつか質問を繰り返したが、少年はどの質問にも淀みなく答えた。

時々入るよくわからない笑みが気になるものの、これは高評価間違いなしだなと面接官の気持ちも揃っていた。


「では最後に、魔術の実技を行います。あなたが使える魔術を、何でもいいので使ってみてください」

「はい分かりました」


返事をして少年は椅子から立ち上がる。

集中するためか、目を閉じてその場から動かない。


もしかすると魔術は苦手なのかもしれない。

品行公正な態度からするともったいないような気はしたが、それでも筆記がよければ十分に入学できるだろう。

魔術は入学後に伸ばせばいい。

才能がなくともある程度なら伸びるだろう。


面接官がそう思い始めたころ、少年に動きがあった。

少年が目を開くと、会場である会議室に膨大な魔力が流れ出したのだ。


「えっ……」


面接官の一人が小さく声を漏らした。

他の面接官も口を開けて目を丸くした。


これだけの魔力を持つ者は教員の中でもそうはいない。

少年はこれを使って何をしようというのか。


面接官たちの顔に焦りが浮かんだ。

もしかすると会議室を初めとしたここら一帯がなくなってしまうかもしれない――!


「やめ――」

「大いなるマナの力よ、地を潤す雨となりて天より降りしきれ。大雨(ダウンプア)


停止の声は間に合わず、少年の詠唱が完成してしまった。

下手をすると命の危機もあるかもしれない。

面接官たちは顔を蒼くして身を固くした。


が、いつまでたっても会議室に変化はない。

面接官が恐る恐る少年の顔を伺うと、少年はばつの悪そうな顔をしていた。


「あー……っと、驚かせてしまったみたいですみません。えっと、中庭に雨を降らせました」


放心しながら少年が指差す方法へ目を向けると、大規模な植物園がある中庭だけ不自然に雨が降っている。

思わず窓まで走り寄って空模様を確認するが、晴れ渡っている。

いや、中庭の上だけ曇天がぽつりと存在していた。


そして何より、中庭に降りしきる雨が先ほど会議室を満たした魔力に溢れていることから、少年の魔術であることはまず間違いないだろう。


天候を操る魔術というのは、その周囲の魔力をすべて動かさなければならない。

つまり、魔力量が相当なければ扱えない魔術なのだ。


それを、こんな入学すらしていない少年が……?


面接官たちが唖然としつつ少年を見つめる。

少年はどこか慌てた様子で魔術の説明を早口に言い始めた。


「えっと、今のは水属性の上級魔術で! いや、本当は火魔法の方が得意なんですけど!」


そして少年の一言で面接官がさらに唖然とした。

上級魔術まで習得しているというのに、その属性が一番ではないのか。


混乱した面接官たちはただ茫然と黙り込んでいる。

少年も何かまずいと感じたのか、その口を閉じた。


これではいけないと面接官の一人がハッとして、少年を見据えた。

全てが終わったのだから、あとは退室するだけだ。

それを促せばいい。


沈黙が横たわる部屋で、面接官が口を開く。


「……はい、じ、実技も終了いたしましたのでご退室をお願いします」


絞り出した面接官の声はどもり過ぎていた。








「ねえ皆さん」


面接官の一人が頬を引きつらせながら口を開いた。


「聞くまでもないと思うけど、あの子……」

「特別生だろうね」

「ですね」


面接官の声を他の面接官が繋いだ。

そしてその場にいる全員がその言葉に深く頷く。


面接による礼儀正しい態度ももちろん高評価だが、それ以上に魔術の実技。

水属性の上級魔術。

繰り返して言うが、受験者の多くは初級魔術を使える程度である。

更に加えると、この学園を卒業したものでも上級魔術、それも2つの属性を使えるものは少ない。


上級魔術を使うとなると、魔力量や魔力の使い方がしっかりしていないといけない。

つまり才能がないと辿り着けないのだ。

そしてこの学園はその才能を磨くための施設。


少年はここに来る必要があるのだろうか……?


面接官たちの疑問はそれだった。


次は早く更新できると思います。

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