プロローグ
初めまして。本作が初投稿となります。
プロットは組み立ててありますので、どうにか完結することを目標に書いていきたいと思います。
真っ赤な色の缶を傾けて、黒い炭酸飲料で喉を潤す。喉を鳴らして息をつくと、そのまま缶を机の隅へと追いやった。
シンプルな黒い机の上に、今しがた置いた真っ赤な缶、無造作に開けられたポテチ、そして買い換えたばかりの真新しい白いパソコン。
このパソコンは生活環境が一変した際に思い切って購入したものである。
パソコンが家に届いてからというもの、俺の生活はずっと堕落したままだ。
時間も気にせずに好きな時間に起床し、特に何をするでもなくパソコンに向かい続ける。そして腹の虫が鳴ればカップラーメンを啜り、惰眠を貪る。
そう、俺は今自宅警備員をやっている。
事の発端は一週間前だ。
そのころは俺もまだ職に就いており、冴えないサラリーマンをしていた。
それがどうして自宅警備員にまで落ちてしまったのか。
まあ、一言でいえば懲戒免職を食らった。
一週間前、出社するなり、上司である脂ぎった中年男性にいきなり呼び出された俺。心当たりがないままについていくと、社長室に連れていかれた。
何が起こるのかと心臓をばくばくさせながら中へ入ると、白髪の入り混じったおっさんがいた。社長である。
まさか出世か!?と思わないでもなかったが、そちらについても特に心当たりはない。
呆然とする俺に、社長は書類にサインする片手間に
「あ、君クビだから。明日から来なくていいよ」
とおざなりに告げる。
「……は?」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
この時ほど社長禿げろと思ったときは無い。
そんなこんなで見事に一人前のニートと相成ったわけだ。
懲戒免職の理由はいまだに見当もつかない。
昔から少しうっかりしているところはあると自覚していたが、もしや俺が気づいていない重大なミスでもあったのだろうか。
俺自身はうっかりだと公言しているものの、周りから見ると中々に酷い間抜けなのだそうだ。
例えば、出かけようと駅まで行ったところで財布をおいてきたことに気づき、慌てて家に戻ったり。(ちなみに散々家を探し回ったのだが、財布は最初からポケットに入れてあった。)
待ち合わせのファミレスに着いたと思ったら、別の店舗に入ってしまっていたり。
思い出せばきりがないが、ただそれだけのことだ。
間抜けといわれるのは解せぬ。
突然の理由のわからない解雇に一気にやる気をなくした俺はハロワにもいかず、毎日アダルトサイトを漁っている。
お、このサイトまだ見てねぇな……。
漁り続けて一週間もたつと、ほとんどのサイトは攻略済みになってしまった。そんな中で見つけた新人くんだ。これは見ない手はない。
早速クリック。
「やべっ……」
即座に開くサイトに胸を躍らせていると、突如警告が発生した。
ニート歴一週間。初めてのウイルスである。
警告文に書いてあるのは意味の分からない数字列。
「ど、どどどうしよう……」
焦った俺は、意味を分からずに警告の【OK】のボタンを連打してしまっていた。
すると途端に全身から力が抜け、意識がブラックアウトしていく。
狭い視界からパソコンの画面を見ると、警告文はもう消えていた。
再び意識を取り戻すと、眼前にはパソコンなど無かった。それどころかコーラとポテチの乗った机も無い。
見えるのは白い天井。
知らない天井だ……。
とまあ、言いたいことは言えたので天井から目を離し、部屋を見回す。殺風景な部屋の様子が視界に映り込んできたが、それよりも気にすべきことがあった。
首がどうにも動きづらい。
肩が凝った時によくやっていたように、首をぐるりと一周させてみる。だが、思うように回らない。
気を失っているうちにどこか悪くしたのだろうか。
試しに手足を動かしてみる。
手を目の前に持ってこようとするものの、こちらも動きづらい。
俺が一人で四苦八苦していると、古ぼけた扉を開いて部屋へと入ってきた女性と目が合った。
二十歳前後だろうか。
艶のある銀髪を前髪を残して短く切りそろえ、左右に分けられた長い前髪の下から透き通った蒼の瞳が覗いている。
少し釣り目がちの瞳が俺と目を合わせたまま、数度瞬いた。
あまり高そうには見えない服を着ているが、十分に美人であるといえる。
怪我でもしているのか、左手につけられた質素な白い指先のない手袋が特徴的だ。
「――――」
あまりの美人に驚きじっと見ていると、こちらへ歩み寄り、にこやかに声をかけてくる。
え? 今なんて?
コスプレの似合う美人に声をかけられたぜ! なんて現実逃避したいところだが、残念ながら再度声をかけられても全く言葉を理解できなかった。
聞いたことのない言葉で、英語ではなさそうだ。勿論日本語は論外。
こちらの反応を気にもかけず、その人はとうとう俺の前へやってきた。というより、ベッドらしきものに横たわっている俺の顔を覗き込んできた。
そして俺に向かって手が伸ばされる。
今にも折れそうなほど細い手で、男性の平均体重ほどの俺を持ち上げられるわけがない。
となれば、その手を伸ばして何をするつもりなのか。
「あうあうああー」
何をするつもりだ、と言おうとした声が理解不能な言語に変わる。
はっ?
気持ちと言葉が噛み合わないことに混乱していると、事態はさらに悪化した。
伸ばされた手は、その細い2本の手だけであっさりと俺の体を抱き上げてしまった。
「あううっ!?」
そしてまたしても声は思うように出ない。
そう、例えば赤ちゃんのように――――
え、まじですか?
俺、赤ちゃんですか?