お題小説 詐欺師 猫 快刀乱麻 臨機応変
「ふふふ……今日も楽勝だったな」
そう呟きながら街の片隅を歩いているのはこの俺、杉原卓郎。詐欺師だ。
今日も俺の卓越された話術によって一人暮らしの年寄りから金を奪うことに成功した。
「くくく……お前の息子が借金しているって言った時のジジイの顔、最高だったなぁ。」
人を騙して自分は楽して金を手に入れる。これだから詐欺師は止められない。
詐欺が成功した祝杯でも挙げようとコンビニに立ち寄り缶チューハイとつまみを数個買う。近くの公園でこの余韻に浸っていよう。
そんなことを思いながらコンビニから出ると。
にゃー
どこからか猫の鳴き声がする。
辺りを見渡してみると、コンビニの横の路地裏にぽつりと置いてある段ボールのから一匹の子猫がひょっこりと顔を出してこちらを見ていた。
「……んだよ。そんな顔しても連れては帰れねーぞ。」
こちらをじっと見つめている猫にそう言ってみる。まぁこちらの言葉など相手に分かるはずがないのだが。
にゃー
「だから無理だって。」
そんな綺麗な目で俺を見るな。頼むから。
にゃー
「……はぁ~」
無理。まいった。こいつには勝てないわ。
ため息をつきながら両手を段ボールに突っ込み子猫を抱きかかえる。
子猫の体はとても温かく、何処にも異常がないようなので捨てられてからそれほど時間が立ってないことが分かる。
子猫は俺に抱きかかえられると「にゃー」とひと鳴きした後、俺の腕の中で眠りについてしまった。
「ったく……呑気な奴だな。」
そんな猫の様子を見て思わず笑みがこぼれる。
犬や猫などの動物を見ていると心が癒される。俺の荒れた心を浄化してくれるようだ。
「さてと……とりあえず帰るか。」
さすがに子猫を抱えたまま酒は飲めないので一度家に帰る事にする。わざわざ外で酒を飲む必要もないしな。
「ん……?」
ふと街の様子に意識を傾けてみると、何やら公園に人だかりができているようだ。
興味本位で人だかりができる理由を見るべくしてその人だかりに近づいてみると、どうやら一人の男を中心として周りの人はその男を見ているようだった。
その男は何かを集まった人たちに言い聞かせているようだった。何やら壮絶に嫌な予感がする。
なんか「詐欺師」とか「一人暮らしのおじいさん」という単語が聞こえてくる。予感的中だ。
巻き込まれないようにそそくさと立ち去ろうとする俺に男が話しかけてきた。
「なぁ、アンタもそう思うだろ?」
絡まれた。最悪だ。
「……ああ、そうだな。」
俺は後ろにいる男の方に振り返らず無愛想に答えた。
「おお、やっぱり俺の推理は間違ってなかったか!」
「推理?」
推理と言う言葉に反応して振り返る。
こいつ今推理って言ったよな。……てことはこいつ刑事か!?
「……あんた、刑事か?」
「いや、違う。俺はただの一般人だ。」
一般人かよ。
「やめとけ。刑事でもないのに事件に関わっているとお前も巻き込まれるぞ。」
「ふふふ……俺をただの一般人だと思ってもらっては困る。」
「なんか特殊能力的なのがあるのか?」
「いや、ない。だが俺にはこの頭脳がある!」
男はそう言って自分の頭を指差して言った。
無駄にドヤ顔なので微妙に腹が立つ。
「この頭脳を使って事件を快刀乱麻に! そしていかなる謎も臨機応変に解いて見せるさ!」
その自信はどこから湧いてくるのだろうか。正直胡散臭くてたまらない。
「ああそうかい。せいぜい頑張ってくれよ。」
これ以上この男に関わっても時間の無駄なので男にそう言い残してその場を立ち去ろうとする。
すると背後から
「おう。優しいにーちゃんも頑張れよ!」
という自称非一般人の男の声が聞こえた。
俺が優しい? 何言ってんだあいつ。
男の言葉に鼻で笑いながら、自宅へ帰るべく足を進める。
にゃー
俺の腕の中でいつの間にか目を覚ました子猫が俺に向かって可愛らしい鳴き声を送ってくる。
「……あながち間違っちゃいないかもな。」
俺は子猫を抱く腕の力を少し緩めながら呟いた。