第三話 死地へ向かう者達
「メテオ型が落ちてくんのは…20分後!?場所は……ここからすぐ近くの一番デカい町か!今すぐ〝メドール〟と〝ブレイカー〟の緊急整備と、デッドウェイズを緊急招集してくれ!」
お兄さんが携帯を胸ポケットに入れると、ボクの方を見て言った。
「待たせたな少年!悪いけど急用が出来たから、今日はここまでだ」
「…どこに行くの?落ちてくるって……何が?」
「ああ、バケモンが降ってくるんだとこの街にな。メテオ型っていって、隕石に捕まったり、中で化石のように固まって地上に落ちてくるんだ。テレビでもやっていると思うが…」
「ブローケン…って奴でしょ。でもそれがお兄さんと何か関係があるの…?」
ボクが尋ねるとお兄さんは笑顔を見せた。
「そんなブローケンを倒すのを〝サポート〟するのが指揮官でもあるオレの役目だからだ」
「へえ…偉いんだね…」
「そうでもないけどな。さて、オレはもう行かないとな…またくるぜ。大人しくしてりゃ悪いようにはしねえよ」
…それすごい悪役っぽいよお兄さん。
「はっはっは…そうだ。お前、名前はなんて言うんだ?そういえばまだ聞いてなかったな」
「……ここから出してくれたら教えてあげてもいいよ」
「…そーかい。それじゃ、反省文に名前書いとけ!じゃあな、少年」
親指を起てて軽く笑うと、お兄さんは手を振って元来た方向に走っていった。
足音が小さくなって、やがて聞こえなくなる。なぜか少し不安な気持ちになった。
「ずいぶんと熱くて…優しい人だった」
口から零れる素直な言葉。ボクはお兄さんをこの短時間で信用したのかもしれない。
ここで大人しくしておいた方が誰のためにもいいのかもしれない。
こんな危険な力を持ったボクは、ココで一生を過ごした方がいいの…かも。
だけど、それだといつかお兄さんを傷付けることになる。
それだけは〝絶対〟なのだ。だからボクはココを出て行かなければならない。
牢の鉄格子に触れると、ボクは手のひらに力を込めず、能力(ちから)を込めた。
ガキン…!
鈍い音と共に太い鉄格子が簡単に折れた。あと2、3本壊せば外に出られそうだ。
ガキン…!
「ボクはココに居るべきじゃない…ボクが………にはもう…〝ソレ〟しかない」
ガキン…!!
ブローケン―それは未知の生命体。宇宙から、海から、火山から、世界各地のあらゆる場所に突如出現し、人類に襲い掛かる異形のバケモノ。それらを速やかに破壊することを義務付けられた、戦闘部隊がDAF(破壊者対抗武装軍)にはある。
人類の英知を結集して開発されたロボット、乗り込み式機械人形〝メドール〟
ブローケンから採取した特殊な物質を用いて作られし、所持式武装兵器〝ブレイカー〟
そして、突然変異により常人とは全く異なった力を得た新人類、〝ウェルズ〟
それら3つの力を合わせ、破壊者を破壊する者達を―死地へ向かう者達―と呼ぶ。
デッドウェイズ待機室。
「メテオ型ブローケンが都市に落下するまでおよそ20分。メドールとブレイカーの整備は昨晩の内に完了。点検も10分以内に終了予定。ウェルズの健康状態に問題無し。デッドウェイズメンバーの出勤は一部を除いて全員登録完了…っと」
カタカタと鳴るタイピング音と、自分の書いた内容を続けて読んでいるのは、デッドウェイズ専属オペレーターの安藤ミナコだ。ノートパソコンを閉じて「んーっ!」と、両手を後ろにグイッと伸ばして軽いストレッチを始めた。次に体をグイーッと反らすと、逆さまに二人の女の子が目に映った。
「あら、アリスちゃんとユウちゃんはもうお風呂から上がったの?」
シャワールームから出てきた、アリスと呼ばれた赤髪で小柄な少女は、ユウと呼ばれた女性に濡れた頭を優しくバスタオルで拭かれながら文句を言った。
「そうよ!バスルームに入った瞬間にミナコがメテオ型が20分後に~って言ったんじゃない!ホントならユウと一緒に30分以上は入ってたかったのに最悪よ!別にミナコが最悪なんじゃなくてあのデカブツのバケモノが最悪サイテーなのよ!人のお風呂タイムを邪魔して許さないわ!っっっていうかミナコ体柔らかいわね!ブラックタイガー(エビと言いたい)みたいよ」
「ぶ、ブラックタイガー!?そ、それは初めて言われました…!」
「アリスちゃん。ブラックタイガー(エビ)だとミナコさんがかわいそうですよ?車エビだったら丸っぽくてかわいくていいんじゃないかしら~?」
少しズレたことを言っているのはユウと呼ばれた少女だ。アリスが「どっちもどっちよ!」と言いながらソファーに座ると、次はブラシを取り出して、アリスの長い髪を優しくとき始めた。
「く、車エビ…!確かにちょっとかわいい…でもエビはちょっと嫌かな…」
ミナコを体を起こすとため息を一つついた。
「はあ…はあ…はあ…!」
「ちょ、ちょっとレイジ!ナニ発情してんのよ!あたしに見とれるのは仕方ないけど、そんなに感情をオープンにされると気分悪いんだけど!っていうかアンタの存在がすでに気持ち悪いんだけど!?」
レイジと呼ばれた金髪の青年はアリスに罵倒されながらも、ただ一点を見つめて瞬き一切しない。その目線はアリスの頭上を超え、ユウの胸元を見ていたものだった。
「だだだだ、だってアリスちゃん!ユウちゃんのバストが!バスタオルから零れ落ちそうなほどにぷるんっぷるんにッ!アリスちゃんのツルペタもナイスだけど、それと比較してのこの大きさ…!こ、これはオレを誘ってるとしか思ぇアウチッ!!!おぶっ!?」
レイジが言い終わる前にアリスの投げたブラシがレイジのアゴにクリーンヒット。その勢いでイスごと後ろに倒れ込み、頭を強打した。
「おーまいがー…」
「こんのオープン・ド変態めェ…今度ツルペタとか訳わかんない単語引っ張り出して来たらこんどは包丁投げるわよ!っていうか全ッ然気づかなかったけどユウはなんでまだバスタオルなのよ!さっと着替えて来なさいよ!!」
「あら~アリスちゃんの髪の毛を拭くのに夢中で全然気づかなかった~今、着替えて来まーす」
「今…着替えるッ!!?(キラーン★」
「死にたいようね女の敵」
着替えるという言葉に反応し、起き上がったレイジが上を見上げると眉間に拳銃が突きつけられていた。
「し、死にたくないデス、助けてクダサイ、へるぷみー」
震える声でレイジが両手を合わせて懇願すると、ゆっくりと拳銃が眉間から離れた。
「ワタシへの命乞いは1日1回…覚えておきなさい」
「は、はひ…」
「だ、ダメですよメイちゃん!銃は人に向けちゃいけませーん!」
「銃は人に向けるモノよ…ミナコ」
メイと呼ばれた黒髪ポニーテールの少女は拳銃を懐にしまうとそれだけ言ってソファーに座った。
「し、死ぬかと思ったッスよ…」
「少し………静かにしてくれ………ないか?」
「「「「ん?」」」」
部屋の隅にある和室から低く静かな声がした。誰も聞き取れなかったようなので、アリスが聞き返す。
「なに?全っ然聞こえないんだけど!っていうかなぁに一人だけ寝てんのよ!もうすぐバケモンが降ってくんのよ知ってんの!?ってか準備出来てんのアンタ!聞いてんの?返事しなさいよジン!!」
「…………………………………………聞いている」
「間ッ!その間よ!!何なのアンタのその間は!いらないのよその間ッ!正直ウザい!それに聞こえない!だーからぁ、さっさとこっち来なさいよ!」
「了解」
「なんで了解っていう時だけ間がないのよ!訳分かんない意味不明よ!そう言えばアンタこの前メールした時も間髪入れずに了解って返したよね!3回連続で了解って返したわよね!アンタのそーいう所がムカつくのよッ!!大体アンタは…!(割愛)」
ジンと呼ばれた背の高い青年がフラフラと歩いてくると、アリスにこの前のメールの件について問い詰められだした。こうなると長い。
「ガミガミガミガミガーミガミ!キーキーキー!」
「…………………………ブツブツ」
(性格的に相性悪いなーアリスちゃんとジンくんは…)
ウィイン………ドォン!!!
自動で開かれるハズのドアが途中で力ずくで開かれると、黄色いジャージを着た女が大声で叫んびながら入ってきた。
「オイぃアリスとジン!お前らずいぶんと血気盛んだなァ!!これなら今回のブローケンは楽勝っぽいな!!!」
「ふんっあたしはいつでも楽勝よ!」
「………以下同文だ」
「以下同文じゃおかしいでしょ!!どんだけ話すのだるいのよ!大体アンタはいっつもいっつも…!(割愛)」
「あら、カヤお姉様。お帰りなさ~い」
茶髪の長髪をなびかせて千条カヤがソファに音を立てて豪快に座った。
「うぃーす!そう言えばミナコ、黒田のバカはどこ行ったんだ?」
「黒田さんならもうすぐ来ますよ。今にでもカヤさんが壊したドアにツッコミを入れて入って来ても…」
「オイオイこの部屋どんだけオープンなんだよ!コレじゃお前らのバカ騒ぎが丸聞こえだな~ってな訳でみんなおはようぶるぉおお!!?」
ドォオオン!!
いつものように全身黒で統一した服装でやって来た黒田は、カヤによるドロップキックで吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「よォ黒田ァアアア…!テメェ私の電話無視しといて生きてこの部屋入れると思ってたのかァア!!?」
「ア…アハ、ハ…で、電話?し、知らないにゃあ?…い、痛だだだだだッ!か、髪の毛掴むなっ…な、何を…うぎぎぎ、ぎ、極まってる!コブラツイスト極まってる…!」
「黒田さんおはよーッス」「おはよう」「おはようございます~」「…おはよ」「………以下同文」「お、おはようございます黒田さん…」
「うん!みんなおはよう!そ、そしてっ誰も助けてくれないのかな?」
「無理ッスね」「無理よ」「無理ですね~」「無理」「…以下同文」「うう~ゴメンナサイ黒田さん(泣」
「だ・よ・ね!(泣ッ!」
黒田はその後カヤに、10以上のプロレス技をかけられ、5分後には真っ白になった男と満足した顔で男の背中に座る女が居た。
「く、黒田さん…大丈夫ですかっ」
「ん…大丈夫じゃないよミナコちゃん…そ、それじゃあ時間も迫っているし、作戦会議を………開かない。もうブローケンが目視できるまでにも10分を切っているので作戦は各自準備中に、支給されている無線機によって伝える…ってな訳で…ちょ、ゴメン退いて…あ、すいません退いてください…」
「ぷっ…今日はいつも以上に締まらないわね黒田」
アリスに笑われながらも、ヘロヘロになりながらも黒田は立ち上がる。今からする行動は彼にとってコレは最も大切な流儀ともいえる行為だ。
「赤坂アリス、心木ユウ、レイジ・J・如月、神崎ジン、シュン・メイ、千条カヤにメテオ型ブローケンの討伐及び破壊を命じる。デッドウェイズ、出撃!」
バッ!
…と、音がするほどの敬礼を黒田がすると、全員が立ち上がり敬礼を返した。
「今日も生きて帰ってこい…いや、生きて帰って〝こさせてやる!〟」
黒田が言い終わると壊れたドアの反対側にある、「出撃口」と書かれたドアが開く。デッドウェイズの面々が出撃口から出て行くたびにお願いをしてはドアの向こうへ消えていく。
「帰るまでに甘いモノ用意しておいてねミナコ!」「早めに大浴場を開けておいてくださいね~」「大浴場を混浴にするべきと進言お願いしまッス!」「バカは撃ち殺してもいいという規則を加えておいて頂戴」「………今日は中華が………食いたい」「私はラーメンなァ!!!」
「分かりましたー!みんな!怪我しないでねー!」
「ラーメンも中華だぞカヤー!」
出撃口の自動ドアが閉まると、黒田とミナコだけが残された。
いつもこの場面で、時が止まったかのように二人は動かなくなる。出撃口を見つめたまま、命を投げ打ちバケモノに挑む子供達の事を思う。そして-。
「よし…オレ達も行くか、ミナコちゃん!」
「ハイ!黒田さん!」
いつもこの言葉で、始まる。
「あー、ミナコちゃん…車椅子持ってきて、腰をやられた…(ぷるぷるぷる…」
「………ハイ(汗」
ブローケン対策本部
「室長!衛星により今回のブローケンの観測できました!隕石に張り付く形で化石化したタイプで…推定で200m級だと思われます!」
「非難の方もギリギリですが9分後には完了との連絡受けました。町全体にある緊急防衛装置も作動可能」
「軌道も完璧に予測地点と一致しています!時間はこれから10分後、東京都内の…渋谷区です…!」
「うむ…後はデッドウェイズと黒田君を待つのみか…」
「では、紅茶でも飲みながらゆっくりと待つとしますかネ。浅木少将殿?」
「これはこれは…レビィ大佐」
次回予告
ついに現れたブローケン、それに対抗するデッドウェイズ!
ア「デッドりゃ…デッドれど…でっろ、で、デッド…レッド!あ、アリス!」
ユ「デッドピンクの、心木ユウと申します~よろしくお願いします~」
レ「君の隣にレイジ★デッドゴールド!」
メ「どこに居ようとヘッドショット♥デッドダーク・メイ」
ジ「………………どこに居ようと…デッドブルー…ジン」
カ「デッドイエロー・ザ・Iアム№1!千条カヤァ!!!」
黒「ついでにデッドブラック黒田!」
ミ「ついでのついでに~デッドグリーンミナコ!」
ア「八人揃って、デッドウェイズ…って多いわ!何入ってきてんのよ黒田とミナコ!っていうか、れりょ…デッドレッドって言いにく過ぎよ!だ、誰だって噛むわよあんなの!ユウは丁寧過ぎ!レイジは輝きすぎでウザい!メイは怖すぎ!ジンは適当!適っ当よ!カヤは…いいや。とにかくもうめちゃくちゃじゃない!なによコレ!なんなの?っていうかなんであたしだけ喋ってんのよ!ちょっとなんとか言いなさいよ!これじゃあたしがスベってるみたいじゃないの!ちょっ…え?ナニ!?おわり!!?」
少「ボクが入ると…デッドホワイトかな?」
ア「アンタ誰よ!!?」
第三話 死地へ向かう者達 ぐだぐだEND
データが消えたりパソコンが壊れたりと災難続きでしたが、ようやく投稿することができました。上記の次回予告は物語とは何の関係もありません。
不定期ですが、またよろしくお願いします。