十九日目ー天使は蛇を思う丸スリー
旧約聖書…
彼女の持っている予言書にも記されているだろう神の国、
僕は其処で天使隊長として執務に勤しんで居た。
「はぁ…」
今までひたすらに動かして居た手を止め、
ため息を吐いた。
「どうしたんですか、先輩」
いけない、
今は僕一人じゃ無かったな。
「あぁ、すまない、少し考え事をね…」
嘘では無い、
でも…
「む~さてはまたまた私の事をわすれてましたねぇ~」
そんな事を言いながらおどけた様に怒る真似をする後輩。
全く…
この子が天使のNo2だと思うと頭が痛い、
彼女の名前はガブリエル、
僕の後輩で秘書だ。
変な所で勘がいい。
「また…サタンの事を考えて居たんですか…?」
こんな所がね…
間違いでは無い、
でも、
僕が考えて居たのはサタンでは無く李理素の方だ。
今や地獄の大帝とさえこの天界にも名を轟かせる彼女のことだ。
「まぁ、そうだね」
僕は言葉少なに返す。
「だ、大丈夫です!シャ、サタンなんか怖くありません!そ…その…先輩と…わ、私なら」
そういって真っ赤になり俯くガブリエル、
最後の方は声が小さくて聞こえなかった。
彼女が怖くない、か…
「ガブリエルは勇敢だな…」
「え?…そ、そんな事無いです!私なんか先輩に比べれば…ちっとも…」
ガブリエルはまた所在無さげに俯く、
僕よりも少し年下の天使たちは皆サタンの事を悪の帝王かなんかだと思っている事が多い。
「僕はね、ガブリエル…とても怖いよ」
彼女も、
彼女を傷つける事も、
「で、でも先輩はリベリオンの時に戦線で戦ったじゃ無いですか!」
涙目のガブリエルが叫ぶ様に言う、
「だってあの時は護りたい人が居たから…待ってくれる人がいたから…」
でも…
彼女はいなかった…
リベリオンが終わり、
僕が帰ってこれた時には彼女は既に園にはいなかった。
「護りたい…ヒト? アダム達ですか?」
ガブリエルが不思議そうに聞いてくる、
そうか…
ガブリエル達も李理素の事を知らないのか…
「いや、違うよ…それに彼女は女の子だからね」
人…
と言うのは彼女自身が言ってた事だ、
それに蛇はガブリエル達にとって邪悪な獣、
真実が言える訳が無い。
「女…ですか?」
ガブリエルは目を伏せ、
唇をわななかせ、
漸く…っと言った風に言葉を言う。
「え…?そうだけど…」
何かいけない事を言っただろうか?
前にも別の女性天使にも同じ反応をされた様な気が…
「もしかして先輩が休暇になる度に探している人の事ですか…?」
どうしてガブリエルはこんなにも鋭いんだろう?
前におんなじ反応をした子たちもここまでは当てられなかった。
「そ、そうだけど…」
今度は僕が狼狽える番だった。
こんなにも狼狽えたのはいつぶりだろう?
…
エデンの園にいた時は狼狽えぱなしだったっけ?
「じゃあ先輩はいつ休むんですか!いつもいつも仕事をしていて…数少ない休暇だってその人を探していて…」
…
なんだか、
ここまで自分の為に怒られたのは初めてだと思う。
怒られただけなら彼女にもあったけど彼女は心配から来るものじゃ無くて、
安堵から来るもので怒ってたと思う。
「しかも最近じゃ新人の天使の監督もしているじゃ無いですか!夜遅くまで!いつ寝てるんですか!」
それよりもガブリエルを静かにさせないと…
なんだったっけ?
彼女から聞いた人を大人しくさせる方法。
確か…
前に一回あのウミヘビにやってた様な…
そうだ、
たしか心臓の音を聞かせるんだっけ?
「だいたい先輩は…え…⁈」
彼女が途中で黙ったのは僕が彼女の頭を胸に押し付けたからだ。
身長差的に行うのも簡単だった。
室内に無音だけがこだまする。
耳に入るのはそれこそ僕の血脈と、
お互いの息遣いだけだ。
…
こんな時何て言えばいいんだろう?
彼女ならポンポンと言葉をいって相手を安心させるのだろうけど…
僕にはとてもでき無い。
取り合えず彼女がやっていた様にガブリエルの後ろ髮を浅くすいてやる。
「せんぱい…」
ガブリエルが微妙に枯れた声で呼んでくる、
「なんだい?」
僕は冷静を装って応える、
と言うのも今更ながらこの状態が他人に見つかったらマズイと自覚したからだ。
「先輩の今度の休暇に、一緒に海に行きませんか?」
海…か、
海って聞いたらあのウミヘビの事が真っ先に出てくるな、
関係無いけど。
「別に構わないけど…」
なんで?
と、聞こうと思った言葉は喉に飲み込まれた。
ガブリエルが突然離れたからだ。
「じゃあ…次の休暇、お待ちしてます!」
そういってガブリエルは走り去って行った。
仕事でも残っているのかな?
っと 予想は着いたけど、
ガブリエルの後ろ姿に見えた耳が赤くなって居る理由は全くわからなかった。
一方のガブリエル
「ど、どうしよう!ウリエルー私いっちゃったよう!」
「よーし!よく言った!今日は早速祝賀会よ!」




