専心
気になることがいくつかある。
まずは今回ミッチェルの死の要因にもなった、ゲームの禁止事項についてだ。これを詳しく知っておかないと、自滅する恐れがある。まさか人の命を殺り取りするこのゲームに禁止事項が一つだけということはないだろう。
パソコンのキーを弾いてクレメントキース宛てにメールを打つ。
「禁止事項についての詳細がしりたい。有料か?」
メールを送信してから丁度30分後、キースから返信が届く。
禁止事項
・ゲーム内容の口外(プレイヤー同士は可)
・急激な生活基準の変化
・エリア外への進出
・ゲーム外での資金の使用
・PCの持ち運び
・メールアドレス・電話番号の変更
・プレイヤー同士での略奪
・取引時の不正行為
以上が禁止事項になります
なお、ゲームの説明に関する情報でしたら全て無料となっています。
他のプレイヤーの情報を知りたい場合は有料となります。
もちろんF9F クーガーから情報を提供することも可能です。この場合は情報提供者がその情報の値段をつけることができます。
やはり僕の思った通り、情報は売ることができる。値段を自分でつけられるとは思わなかったが、これはあまり高額な設定だと買い手が少なくなる恐れがあるということだ。逆に低すぎると買い手は多いかもしれないが、簡単に情報が行き渡ってしまい情報価値が薄れてしまう。
自分に充分な利益を残し、且つ少数のプレイヤーにしか行き渡らない情報取引が最も理想だ。結構頭を使う。
そのためにはクレメントキースから他のプレイヤーの情報をどこまで聞き出せるのかが重要になってくる。
再びキーを弾いてメールを送る。
「プレイヤーの情報をどこまで買えるのかと、取引手段を知りたい」
すぐに知りたいところだが、返信がくるには少し時間がかかるだろう。
帰ってきてからずっと座っていた椅子から立ち上がり、大きく伸びをして深呼吸をする。窓の外を見ると、もう陽が落ちていた。カーテンを閉め、再び椅子に座る。
僕の予想では、プレイヤーの居場所や名前に繋がる情報はリークしない筈だ。そんなことをしてしまったらゲームをする意味がなくなってしまう。教えられるとしたら、メールアドレスや携帯番号等の交流手段としての情報くらいだろう。
そもそもキースは僕に関する情報をどこまで知っているのだろうか。アドレスと携帯番号の変更が禁止事項にあることから、僕の携帯番号を知っていることは間違いない。しかも知っているのは僕の情報だけじゃない、他の9人のプレイヤーの情報も奴は知っている筈だ。
何か大きな闇組織が運営しているのかこのゲームは……。それにクレメントキースが一人とは限らない、複数いる可能性も……。
駄目だ。考えても切りがない。今はキースの事は考えないで、目の前の敵について考えよう。生き残れば奴の正体も分かるかもしれない。
とその時、いきなり部屋のドアが開き、びっくりして僕は椅子の上から落ちそうになる。
振り向くと母が立っていた。
「なんだ母さんか、びっくりした。部屋に入るならノックぐらいしてよね」
「もう、さっきからご飯できたって呼んでるのよ。食べないの?」
そうだったのか、考えることに夢中で全然聞こえなかった。
「ごめん、今行くよ」
そういえば昨日の昼から何も食べてない。意識した途端に腹の虫が鳴る。キースからまだ返事がきてないし、この辺で小休憩にしよう。
部屋の明かりを消して階段を下りる。
主人の帰りを待つパソコンの明かりだけが、不気味に暗闇を灯していた。