散華
少し読みが難しい漢字がありますが、後書きの方に載せておくので参照下さい。
「……倉。七倉!」
誰かが僕の肩を優しく揺すっている。目を開けて声の主の方に目をやるが、視界がぼやけて顔が断定できない。
「……誰だよ?」
思ったことを口にした。
「先生だ」
徐々にぼやけた視界の霧が醒めていき、ボンドが僕の顔を覗き込んでいるのが見える。
「なんだボンドか」
「なんだボンドか。じゃない、皆帰ってしまったぞ。寝るんだったらお家に帰って寝なさい」
そう言い残してボンドは教室を出て行った。周りを見渡すとホントに誰もいない。
「帰るか」
鞄を手に取り、椅子をしまって帰ろうとすると、部活の格好をした傑が教室に入ってきた。
「おぉ、まだいたのかよ?随分爆睡してたな」
「あぁ、今起きた。忘れ物?」
「タオル忘れてさ、ってか今起きたのかよ。じゃ俺これから部活だから。あっ今日どうする?」
「今日は多分大丈夫」「わかった、じゃあ部活終わったら連絡する」
「あぁ、部活頑張れよ」
寝ぼけ眼で傑と約束を取り付けた後、学校を出る。帰り道の途中、未だ現実と夢の境目がついていない半寝状態の脳を整理する。あの事はなるべく考えないようにしていたつもりだが、頭の片隅に腫瘍のように残るその記憶は、全ての思考の邪魔をする。
仕方なく記憶の片隅にある現実の悪夢を呼び覚まして、正面から謎を解くことにした。
第一に、ゲームの意図が分からないし、僕が選ばれた理由も分からない。しかも口外した場合は死ぬと書いてあったが、監視人か盗聴器を付けていない限り会話を聞き取ることは普通に考えて不可能だ。
尾行されていることを考えて周囲を見回すが、怪しい人は誰一人いない。
そもそもゲーム資金の使い道だが、隠れんぼに金なんか必要ないだろう。これは互いの情報を売るということなのだろうが、何も知らないプレイヤーの情報なんて引き出すことはできないし、ましてや接触なんて有り得ない。
考えれば考えるほど、このゲームは矛盾だらけで物理的不可能が多すぎることから、やはりまともに真に受けない方が良いと思う。
もしあっちから動きがあったら、その時また考えればいい。という結果に辿り着く、と同時に家に着いた。
玄関のドアを引いて
「ただいまー」
と声をかけると、奥の方から
「おかえりー」
と母の声が返ってくる。そのままの足取りでゆっくり階段を上がり、自分の部屋に帰ってきた僕はとりあえずパソコンを起動させてみる。
ゲーム開始初日から何か動きはあっただろうか。
僕の予想とは裏腹に、受信BOXにはメールが一通きていた。メールの発見と同時に、一気に心拍数が上がり脈が速まるのが手に取るようにわかる。
しかし今度はメールを開けるのを躊躇った。
(無視した方がいいのか?)
という考えが頭を過ぎるが、手は止まらない。無意識の内にメールは開かれていた。
〜花葬〜
狂い咲いた夜に
眠れぬ魂の旋律
闇に浮かぶ花は
せめてもの餞
B-25 ミッチェル 散華
携帯を取り出して傑に断りのメールを打つ。送信完了の文字を確認してから、誰からも連絡がこないように携帯の電源をoffにして鞄にしまう。
今は誰とも話したくない。
いや、話している余裕など無い
餞 散華