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Seek out  作者: ami
5/17

安堵

運命の6月15日の朝。昨日は結局あれから一睡もできなかった。

いつもより早く学校に行く支度をして、一階に下りる。洗面所の鏡の前に立って、情けない自分にガンをとばす。

ボサボサの髪に蒼白い顔、目の下にはくまができている。髪はセットせず歯だけ磨いて洗面所から出ると、ちょうど寝室から出て来た寝起きの母とばったり会う。


「おはよう。あら、もう学校行くの?早いわね」


こう見えて結構心配性な母に、死人のような自分の顔は見せられないと思い、咄嗟に下を向きそのまま玄関に向かう。

解けた靴紐も結ばず

「行ってきます」

とだけ言い残して、急いで玄関を出た。

外に出たらすぐに解けた靴紐を結びなおして、家が見えなくなる所まで全力で走った。

正直、母の顔を見た時とても泣きたくなった。その暖かい胸で、その優しい抱擁で僕を包み込んで欲しかった。そして全てが悪い夢なんだと言って欲しかった。


ようやく家が見えなくなる所まで走り抜いた僕は、無意識の内に泣いていた。乱れた息を整えながら周囲を確認した後、人通りの少ない朝の交差点で、一人声を圧し殺して泣いた。




このとき自分はまだまだ子供なんだと知った。









学校の男子トイレにある鏡の前で、潤んだ目が完全に乾ききっているのを確認してから教室に入るが、教室にはまだ誰もいなかった。時計を見るとまだ7時半だった。

自分の席に着き、時間割表を見る。


「今日のテストは生物と現代文か……」


教科書を取り出そうと鞄を机の上に広げるが、鞄の中には昨日のテストの教材が入ったままになっていた。

溜息をついて席を立ち、窓際のストーブの上に腰を下ろしてぼんやり外を眺める。今にも泣き出しそうな空は、今の僕にそっくりだ。

下を見下ろすと、まるで働き蟻が自分の巣に帰ってくるように、大勢の生徒達が疎らに列を成して登校してくる。


数分もしないうちに、教室はいつもの活気を取り戻し賑やかになる。また僕の居場所がなくなり教室を出ようとすると、傑が教室に入ってきてすぐに僕を見つける。


「あっ、優!」


あるで僕を探していたかのようだ。言われることは大概分かっている、昨日傑からのメールを無視したことを怒っているのだろう。


「何で昨日メール返してくれなかったんだよ。まさかお前が、勉強してました。とか言わないよな」


いつも通りの傑を見ていると、変に心が和んで可笑しくなって笑ってしまう。


「何だよ?何笑ってるんだよ?まさかホントに勉強してたとか?」


「いや、ごめんごめん。俺が勉強なんかするわけないだろ。昨日は帰ってから即行で寝て、気付いたら朝だったんだよ。しかも寝惚けて昨日の教材持ってきたし」


「まったく、何やってんだよ。ってか何時間寝てんだよ」


「俺が一番びっくりだよ」



傑とはいつも他愛もない話で盛り上がる。

そんな傑にさえ、やっぱり本当の事は言えない。でも傑と話していると、昨日の事を真に受けている自分が馬鹿らしく思えてきた。きっと傑に話しても、どうせ茶化すに決まってる。しかも仮にゲームが本当だとしても、名前も何も知らない相手を探すなんて2ヶ月じゃ到底無理だ。じっとしていれば絶対に見つからない。

冷静になって考えてみれば自信さえ湧いてきた。体の底から急にこみ上げてきた安心感が緊張の糸を切ると同時に、急激に睡魔が訪れる。




結局今日のテストは爆睡してしまい、かいたのは名前と鼾だけだった。

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