日常
家に帰った僕は、傑から連絡がくるのを部屋で待っていた。さっきパソコンをチェックしたが、キースからメールはきていなかった。キースからメールアドレスの提供金額通知が届くことが、開戦の火蓋が切られた合図だということは他のプレイヤーも自覚していることだろう。
問題なのは出だしだ。人間は十人十色。十人いれば十人が違う色を持っている。人それぞれ違う考えを持っているわけだから、様々なアプローチの仕方、され方がある。相手に呑み込まれないようにするためには対策が必要だ。臨機応変に対応するためには、それなりの策が必要になってくる。赤には赤、黒には黒というように。
いくつか策を練っていると、ケータイの画面にメール受信マークが表示されると同時に、綺麗なメロディーが流れ始める。傑からだ。
今家に着いた。どこで遊ぶ?
どこで遊ぶと言われても、今の僕の家では遊ぶ気がしないので、傑の家に行くことにした。傑に今から行くと返信して部屋を出る。傑の家は僕の家から見える位置にあるため、歩いて一分もかからない。立花の文字が刻まれた表札を横切って、玄関のインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開く。ドアを開けたのは傑のお母さんだった。
「あっ、どうもこんにちは」
すかさず挨拶をして軽く頭を下げる。
「あら、優ちゃんお久しぶりね。ちょっと待っててね、今傑呼ぶから」
笑顔でそう言い残すと、階段の下から大声で傑を呼ぶ。すると上の階から傑が顔を出し、手招きをする。
「まったくあの子ったら。ごめんね、どうぞ上がってちょうだい」
玄関に出向かない傑に呆れて、代わりに傑のお母さんが申し訳なさそうに謝ってきた。
「はい、おじゃまします」
靴を整えて階段を上がり、傑の部屋に入る。傑はソファーに寝そべりながら、僕の大好物のカントリーマームを食べていた。
「おっ、いいの食べてるじゃん。今日部活休みだったんだ」
そう言いながらテーブルの上に散乱したカントリーマームに手を伸ばすが、全て封が切られていて蝉の抜け殻状態だった。
「残念。ほら」
一つ一つ蝉の抜け殻を潰して、中身を確かめていく僕を見た傑が、ソファー脇に置いてある袋からカントリーマームを複数取り出して僕にくれた。
「さんきゅ。で、何する?」
封を切りながら傑に尋ねると、ソファーから起きあがり大きく欠伸をする。
「特にしたいことは無いんだよな。よし、ゲームでもするか」
傑と遊ぶ時はいつもこんな感じだ。予定も無く集まり、する事がないので話をしたりゲームをしたりと、グダグダ過ごして終わる。でも、一緒にいることが何より楽しいということを、お互いが理解し合っているから、する事が無くても楽しく過ごせる。親友とはそういうものだと僕は思う。
傑は手早くゲームを接続して起動させる。コントローラーを僕に渡し、元の位置に戻る。傑とするゲームは決まっている。ウイニング11だ。寧ろそれしかゲームを持っていない。
傑はサッカー部ということもあり、かなり強い。
僕もそれなりに出来る方だと思っていたが、初めて対戦した時にその自信は脆くも崩れ落ちた。
強いなんてもんじゃない、全く話にならないのだ。
意味不明なフォーメーションに、こまめな作戦。
試合が始まるや否や、とても11人で織り成すプレーだとは思えない。きっと15人くらいはいるだろう。以前、全く勝てない僕はインチキだとか、裏技を使っているなどと文句をつけ、傑が日本を使ったり、アナログで操作したりと、色々ハンディをつけてもらったがそれでも勝てなかった。挙げ句の果てにはコントローラーまで交換したのに……。
しかし、今日は違う。僕も今まで家で特訓を重ねてきたのだ。今日こそは勝って有終の美を飾ってやると、密かに闘志を燃やしていた。