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Seek out  作者: ami
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第一章 超不平等条約

カーテンの隙間から差し込む朝の光が僕の目を、急に鳴り響く目覚まし時計が僕の耳を、そして母の呼ぶ声が僕の脳を覚醒させた。

自殺率No.1の週末明けの月曜日。有意義な連休から一変、憂鬱な一日が始まる。


「学校か………」


朝一番の溜め息と同時にパソコンを起動してメールのチェックをする。

新着メールありの表示が目に入ったが、朝の気怠い雰囲気と時間が押していることもあったため、帰ってから見ることにした。

制服に着替え、今日聴くMDを選ぶ。実はこれに一番時間がかかる。


「えーと、GLAYかな、いや、L'Arcか……やっぱHawaiian6だな」


時計を見て時間がないことを再確認して、急いで一階に下りる。歯を磨いて、髪をセットし、伊達眼鏡をかけて鏡の前で笑ってみる。


「なにしてるのよ朝から。気持ち悪い」


いつの間にか後ろに弁当を持って立っている母がいた。


「盗み見するなんて、ホントいい性格してるよ母さんは」


皮肉を返して弁当を奪い、玄関で靴を履く。

「嬉しい御言葉、ありがたく頂戴致します」


あからさまに人をからかっているとしか思えない母を相手にしていると、朝から調子が狂ってしまう。


「顔が笑ってるよ。行ってきます」


ヘッドホンから聴こえてくる爽快な音楽が僕の体内に流れ込む。胸の高鳴りを追うようなメロディーと自然と口からこぼれる英詞は、独特のリズムに合わせて六月の空に風と共に吸い込まれていく。

今日の天気は快晴。気分はHawaiian6で


「RAINBOW RAINBOW」




騒がしい所が嫌いな僕にとって、朝の教室は大変居心地が悪い。だからきまって僕はギリギリの時間に登校する。もちろん教室に入ってもヘッドホンは外さない。

椅子の背にもたれ掛かっていると、誰かが背後からヘッドホンを取り上げる。すかさず振り返ると、耳にヘッドホンをあてて音楽に聴き入っている傑がいた。


「よっ、今日は何聴いてんの?」


「聴けばわかるだろ」


本名は立花 (たちばなすぐる)。こいつとは中学校から一緒で、結構気の合う数少ない友達の一人。趣味とかが全く同じで、家が近いということもあって遊ぶときはいつも二人でいる気がする。

「Hawaiian6かぁ、いいねぇ。今日の気分はRAINBOW RAINBOWって感じだな」

仰る通りで。

簡単に自分の心情を汲み取られた悔しさもあって、傑からヘッドホンを奪い返して鞄にしまう。


「あっ、もしかして図星?」


ニヤニヤ笑いながら僕の前の席に座る。


「残念。はずれ」


負けず嫌いな性格からか、つい嘘をついてしまう。しかし傑は僕の嘘を見抜いたような目つきで


「ふ〜ん」


としか言わない。おそらく僕の性格を知っている上で聞いてきたのだろう。そのことに対して何も言わない僕の反応をみて、それが図星だということも傑は知っている。

やっぱり傑には敵わない。ここはひとまず話題を変えて、反撃の隙を伺う。


「ってか、お前の席そこじゃないだろ。早く席に着かないとボンドがくるぞ」


「はっ?なに言ってんだよ、先週席替えしたばっかりじゃん」


………撃沈。

これ以上は怪我をしたくないので、心の防空壕に非難することにする。

すると教室の戸が開き、ボンドが勢い良く入ってきた。


「はい席に着いてー、携帯しまうー」


ボンドは僕達三年A組の担任だ。何故ボンドかというと、確か傑が一番最初に

「あいつボンドに似てねぇ?」

と言ったのが事の発端だ。僕が

「ジェームズ?」

と聞くと

「いや、木工用」

と答えた傑にクラス全員が笑った記憶がある。それ以来二年間ボンドが定着している。


朝礼をして席に着く。いつものようにボンドが意気揚々と話し始める。


「明日から期末試験が始まるから、分からないところがあったら今日中に先生達に聞いておいた方がいいぞー」


そうだった、明日からテストだ。でも今回の範囲はそれ程難しくなかったから、勉強しなくても大丈夫だろう。

すると目の前の傑がすかさず手を挙げる。


「何だ傑?お前が質問とは珍しいな」


「自信と不安を胸にテストに向かう生徒達を、雲の上から眺める試験官の気持ちはどんな感じですか?」


周りから微かな笑い声が漏れる。


「知りたいか?そりゃもう快楽だ」


周囲の微笑が一変し、クラスが爆笑の渦に巻き込まれた。

傑はもちろんだが、たまに傑に合わせて悪ノリするボンドも面白い。


「まぁ冗談はこの位にしておいて、おまえ達は今年で最後なんだから笑ってる場合じゃないぞ。就職にしろ当然進学にしてもテストの成績は必ず影響してくるからな、いい数字を残せるように頑張って欲しいと思う。」


ボンドにしては珍しく良いことを言うな。と心の中で笑っていたら、朝会の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。今日の一時間目は……現代文か、どうせなら読心術とか教えて欲しいよな。なんて傑に言ったら何て言うだろうか。

止めておこう、自ら地雷を踏みに行くような真似はしたくない。もう今日は防空壕に篭ると決めたのだ。

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