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帰り道に分析を


部活動初日を終えた俺は昨日とは違って暗くなった駅までの道を歩いていた。


「じゃあ、進捗の分析だな。」


『進捗って今日も特になにもしなかったじゃない。』


相変わらず頭に突き刺さるように響く幽霊の声だ。もしかしたら生前からこんな声なんじゃないのだろうか。


「そんなことないだろう。君からの依頼から昨日の今日にして事件の渦中に飛び込んだんだ。十分すぎる成果じゃないか。」


『そんなことはどうでもいいわ。結局私をみつける情報がないなら意味ないもの。』


どうでもいいとは、全く言ってくれる。まあゆらの言うことも一理ある、か?


「あって直ぐに村崎ゆらの事を聞いて回るのは危険だし、俺が直接あれこれ聞くのも危険だって昨日説明しただろ?」


『知らないわよ。じゃあなんだっけ?あんたのいってた協力者ってのは見つかったの?言っとくけど黒宮は却下だからね!』


「それだってそんなに直ぐには決められないよ。昨日いった条件に当てはまる人を見つけないと。」


『でも芥の中ではほとんど決まっているんじゃない?』


ジョンの声が頭に響く。ゆらと話しているとα波を聞いているように感じられてしまう。だが発言の内容は余計なことだ。


『なによそれ?だれなの!言いなさい。』


言われなくても隠そうとしていたわけではない。初めから進捗を分析するといっただろう。



「今日俺が顔と名前を覚えたのは、

       2年の男子、黒宮弘毅

       1年の男子、宮野守

       部長の西紀舞

       派手でグループのリーダ的な葛城笑子

       ゆらの親友だった椿弥生

       良く分らない牧野さん。あ、名前知らないな。

この中での協力者の候補は―ってまあ消去法でそんなに選択肢はないがな。」


『てゆうか全然覚えてないじゃない。なにが早く部員の顔覚えたいから、よ。でもこの中じゃあ確かに弥生しかいないわね。』


「いや椿さんはダメだよ。昨日言ったじゃないか。」


『何でよ!?』


「だから彼女は良くも悪くも君に近すぎるんだよ。彼女の情報はもちろん重要だけど協力者とするには偏りすぎている。」


『じゃあ舞にするの?』


「まあ彼女も候補の一人だけどこの中だったら牧野さんかな。」


『はあ!?あんたバカァ!?』


アスカかよ。


『牧野さんって私だってよく知らないわよ。普段あんまりしゃべらないし。それになんかあんたの事怪しんでなかった?』


「まあ確かに疑問は抱いていたな。」


その思考こそが俺にはプラス評価なのだが。


『最後だって良く分らない事聞いてきたし。』


「あれは適切かつ効果的な質問だよ。正直かなりびっくりした。」


『なんで?あの子が訊いたのっていつ黒宮からどの名前がどの子かを聞いたのか?って事でしょ?そんなの練習の合間でも休憩中でもいくらでも時間ならあるじゃない。』


「いくらでもあるから問題なんだよ。」


『どういうこと?』


「もし俺が持っている情報が本当に黒宮から得たものなら何の問題もない。だがもしそれが嘘だとしたら、嘘をついている立場の人間からすれば選ぶべき選択肢が沢山あることになる。そしてそれは迷いにつながり、問いに対して答える時に不自然な間や仕草がでてしまう危険性につながる。その言い訳を直前の思いつきで話したなら尚更ね。即答できる答えなんて用意していないんだから。普通は一瞬迷って答えるだろう。いつなら一番本当っぽいかってね。」


もしその辺りを考慮しての質問であったなら―。


『じゃあなに?牧野さん。あんたの言ったことを嘘だって気付いていたの?』


「さあ、そこまでは分らないけど疑問に思っていたのは確かだよ。」


同じ答えをした椿さんは恐らくなにも疑問に思っていない。人間、会話の内容なんてそんなものだ。字面にすればおかしくても流れでそのまま疑問に思わないことなんて沢山ある。しかし牧野さんはそうじゃなかった。

その思考回路には個人的に興味がある。

それに卓球の実力についても大いに謎である。彼女ほどの実力者がなぜそれを表に出さないのか。

確かに俺は彼女が第一候補だと言ったが、彼女をそのまま協力者とするには謎が多すぎる。つまりリスクが高いということだ。その分のハイリターンは見込めそうだが。


『なんで?』

「ん?」



『だったらなんであんたはあの時直ぐに答えられたの?始めの休憩の前だったって。』


ああ、それか。


「俺は嘘をついてそれをばれないようにするときは、自分が言った嘘を嘘だと忘れる。いやまあ正確には必死に本当の事だと思い込む。だから始めに俺が黒宮から名前と顔を聞いたと嘘を言ったときにそのことを聞いた情景をまとめて思い浮かべていた。だから直ぐに答える事ができたんだよ。誤魔化せたかは分らないけどね。」


『あんたって嫌なやつね。』


真顔でいうな。傷つくじゃないか。


「彼女の知的探究心の高さは協力者にとっては都合がよさそうなんだよな。それに黒宮や宮野を取り巻く色恋沙汰にも無縁そうだし。」


『なんであんたにそんなことが分かるのよ。』


「いや、だって― 

     俺の言ったことの真偽を本当に確かめたいなら黒宮に直接聞けばいい。そうすればハッキリするんだから。あの後彼女が黒宮に訊いた様子はなかった。これは何を意味する?」



『えっと芥の言ったことを信じた?』ジョンが発言


『どうでもよくなったとか。』ゆらが発言



「または黒宮と話したくなかったか。」最後に俺が発言する。


「大体考えられるのはこの3つだな。どの可能性も一様に確からしいけど、俺は最後にいった可能性が高い気がするんだよな。」


『どうして?』


「…なんとなく。」


ゆらが呆れた顔と共に嘆息する。オチに納得いかない映画を見た後のような顔である。


『ま、でもそれには納得かな。彼女、基本そういうの興味なさそうだし、というかむしろ嫌ってそうな感じ。』


俺よりも長い時間を過ごしたゆらが云うんだ。信用していいだろう。


『私も別に彼女の事怪しいって思ってないし、というか誰ともグループ作っていないしそう考えれば一番犯人じゃなさそうかもね。』


「まぁ俺だって早計にペラペラと彼女に話したりしないさ。もっとも本当の事を言って信じてもらえるとは思えないがね。」


本当は黒宮に聞いたんじゃなくて半年前に行方不明になった女生徒の幽霊に教えてもらったんだ。なんて言ったら一体どんな顔をされるだろう。協力者を探すといってもどこまで話したものか正直分らない。


「さて、協力者の話はいいとして、事件の検証に移ろうか。」


『検証って今日だって何も聞けなかったじゃない。』


「何を言っているだ。重要な情報はたくさん聞けたぞ。行方不明になった張本人に。」

そう、村崎ゆらに。


「黒宮周りで色恋沙汰の問題がおこったんだろう?そして君はそれが事件の原因だと見ている。」

だからこそ彼女は卓球部に犯人がいることを疑っていなかったのだ。

『…べつに隠していたわけじゃないわよ。』


拗ねたように横を向きながら呟く。その様子は中々可愛いかもしれない。なんてな。

「だがそれを原因として君は黒宮を第一容疑者にしているだろう。ならもう事件は解決したも同然じゃないか。」


『なんでよ。』


「黒宮を尾行すればいい。もし犯人なら会話なり行動なり証拠がでてくるだろう。」

尾行する方は実体のない幽霊なのだ。本来なら付きまとう尾行のリスクは零になる。

しかし、この発言を聞いたゆらの顔は全く優れなかった。


『…それはできないわ。』


絞り出した声だった。


『どうして?』ジョンが尋ねる。


『それは…私、えっとね。』


急にしおらしくなってどうしたんだ? 


『私、実はあんたの傍を離れられないのよ!』


顔を赤くしながら勢いをつけて叫ぶ幽霊。


「幽霊に告白されたのは初めての経験だ。」


現実にもされたことなんてないが。


『ば、馬鹿! 何言ってるのよ。違うわよ、違くて、離れられないっていうのは、そのままの意味で、っていっても別に好きで離れられないとかじゃなくて―ああもう。』


俺の不用意な幽霊発言に怒るのも忘れて、狼狽しながら空中をぐるぐるとじたばたしている。

「つまり俺の傍でしか行動できないっていうのか?」


『そ、そうそれそれよ。そうなのよ。』


「いやいや、昨日普通に別れただろ?それに放課後まで俺の前に現れなかったし。」


『ああ、それは隠れてたから。』


なぜだろう。だんだん聞くのが怖くなってきた。



「ど、どこに?」


『上とか下とか』


どこだ。


いやまあ、つまりこういう事だ。周りを徘徊していてばったり俺と出会ったと思っていた幽霊こと村崎ゆらは俺の近くでしか行動できず、何故かそれを俺に隠そうとして通常の人間では“ありえない場所”に隠れていたと。というか何故かってそんなの考えるまでもない。それを隠さなければ、成立がしない事実が幾つかあるからだ。


「つまり、警察に行って聞いたとかそういう話も嘘だったってわけだな。」


それに初めて会った時に彼女が言った「気づいたらここにいた」のこことは俺の傍でということで気づいたその時とはあの時あの瞬間だったということだ。


『だ、だってホントの事話したら協力してくれないと思ったし。』


本当の事も何も俺は初めから協力したくないと思っているのだが。

しかし、なるほど。だから彼女はあそこまで俺に協力を強要し、卓球部への入部を強行したわけだ。彼女がその事実にいつ気づいていたのか分らないが、彼女が頼りにできるのは本当に俺しかいないことになる。


『それに―』

「それに?」

『ずっとついて回ったらストーカみたいだし』


なんだか顔を赤くしながら呟いているゆらの顔がなぜだかとてもおかしかった。

いや何故かってそんなの考えるまでもない。




その表情が幽霊とは思えないほど可愛かったからだ。



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