表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

主人公は夢オチを期待する。

翌日、登校から放課後まで村崎ゆらが姿を見せる事はなかった。



「赤城くん、これから部活ですか?」後ろの席から声がかかる。


「そうだけど、よく知ってるな。俺が部活始めたって。」


「これでも一応生徒会副会長ですから、生徒のことは知っていないと。」

それが当然とばかりに言う。


 いくらクラスメイトの名前を覚えていない俺でも彼の名前くらいはジョンに訊かなくてもわかる。

 飛鳥煌斗。この学校の副生徒会長だ。なんというか彼の容姿を言葉で伝えるのは言葉というツールの限界を痛感する作業でしかない。カッコいい、綺麗、儚げ、どれも彼の中の十分条件でしかない。

学校全体を見てもやはり彼の存在は特別視されているようで、新参者である俺の耳にすらその人気ぶりの噂が舞い込んでくる。

席が前、後ろという事もあって転校以来比較的よく話しているが、人当たりもよく、面白い。中々にチートがかかっている人物だと思う。


 この学校に来て一番の異常と言えば間違いなく飛鳥煌斗という存在だった。

 


そう昨日までは―。



もしかしたら昨日の出来事は俺の幻覚だったか、彼女が成仏したか、それとも一人でなんとかすることにしたか、諦めたか、などと様々な理由を並べて安心しかかった放課後だったのだが、煌斗と別れ、教室を出ると、


『ほら、さっさと行くわよ。』


と幽霊という要素を除いても良く通る声が俺の頭を刺激した。目の前には廊下の真ん中に行方不明となっている少女が立っていた。立っているというより浮いている。その表情は昨日と同じで厳しい。顔立ちはかなり整った方だと思うがその不機嫌な顔がもったいない。昨日もずっとそうだったし、元々の彼女の性格なのかもしれない。


『今日は絶対役に立ってもらうからね。』


ゆらは俺に近づいて言う。俺は彼女の横を違和感のないように通り過ぎる。廊下にはまだ多くの生徒がいる。


『ちょっと無視すんじゃないわよ。このバカ城!』

『赤城だ!』振り返りそうになるのをこらえる。


『なんだ。聞こえてるじゃない。無視するから悪いのよ。』


『心の声だすのは結構疲れるんだよ。』


『あのジョンとかいう子はどうしたのよ。』


『ジョンなら今寝てるよ。』


『寝てるって声だけなのに?』


俺に訊かれても困る。別に寝ている状態かは分らないが、ジョンは一日に不定期に反応が無くなる時がある。ジョン本人によれば多分寝ているような感じだと思う、ということだった。


『まあいいわ。とっとと球技場行くわよ。』


どうやらまた異常な環境に飛びこんでいかなくてはいけないらしい。


それに今彼女が頼れるのは俺だけなのだ。先ほど俺からの反応を聞いた彼女の顔は一瞬安心した少女の顔になった。その顔はとても弱弱しかった。彼女にしてみればようやく自分の意志を伝えられる人間に遭遇したのだ。それは俺が想像するよりずっと彼女にとっては奇跡的なことだったのかもしれない。その彼女の顔を見て、幽霊の言うことなんて聞かないと言えるほど俺の性根も腐っていない。とにかくなるようになるだろう。


俺は球技場へと向かう。







俺は球技場の階段を上って右手前にある男子部室に入った。

部室は10畳以上はあるが、随分物が少ない。それも男子部員が3人しかいないからだろう。

中には既に2人の部員がいた。


「あ、君が新入部員?」


部屋中央の椅子に座っていた1人がこちらに目を向ける。少し軽い雰囲気の顔だった。別段派手というわけではないが、髪の毛をばっちり油で固めているようでなんだか違和感みたいなものがある。無理しているような…。


「ええ。まずは仮入部させていただこうと。」


「そか。俺は黒宮弘毅。よろしくね。」とりあえず友好的な言葉をかけてもらった。


「こちらこそ。赤城芥です。」無難な愛想笑いをする。


「知ってるよ。転校生だろ。俺も2年なんだ。」


なんで知っている。俺は知らない。


「そっちは宮野守。1年だ。」


右隅の長椅子に座って雑誌を読んでいた宮野守という男子は顔を少し上げて、


「あ、どうも。」

とだけ言って再び視線を下ろした。


「まあこの部活男子3人しかいないし、もう一人はあんま出てこないから、これで全員なんだよな。」黒宮は笑いながら言う。


 さて、協力者を求めるなら男子の方が都合がいい。部室で話が聞けるし他人の耳も少ない。しかし、情報の面でいえば男子よりも被害者のいた女子内の方が精通しているだろう。まずはどれだけ怪しまれずに事件の事を聞き、犯人ではない者を絞り込むか。



『さっきからなに黙ってるんだ?』


俺は宮野と反対側の長椅子に腰をおろし、後ろについてきていた村崎ゆらに話かける。


『べつに。』随分小さい返事だった。なんだか黒宮を睨んでいる気がするが。


『この二人の事教えてくれよ。協力者になってくれるかもしれないし。』

まずは彼女からある程度の情報がほしい。


『それはだめよ。彼らは。特に黒宮は絶対だめ。』ゆらは強く言い放った。


『何故だ?犯人の可能性を考えれば男子のほうが―』

現場が女子の部室なのだから、男子の方がわずかに犯行の難易度は上がる。




『犯人は黒宮だからよ!』



ゆらが黒宮に憎しみのまなざしを向けていることにようやく気付いた。



この話で出てきた飛鳥煌斗は連載小説「生徒会長の好きなもの」での主人公です。よろしければご一読ください。

                     有栖川煌斗

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ