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さっそく主人公は異常に出会う


赤城(あかぎ)。もう帰るのか?」



転校して数週間が経過した放課後、体つきのいい男子が俺に話しかけてきた。彼の名前は…よく思い出せない。転校して以来よく話をする人間はまだしも彼と話すのは恐らく初めてだ。思い出せないのではなくてそもそも知らない可能性が高い。


 さらに俺の出席番号は2番である。

「あかぎ」という名字の特性上、若番号になるのは承知の上ではあるのだが、この早い出席番号というのはなかなかクラスメイトの名前を覚えるのに時間がかかるのだ。基本的に自分の前の出席番号の人は大体覚えることができるだろう。それくらいは俺も覚えている。しかし如何せん前には1番の葵さんしかいない。その上転校先で知り合いが全くいないこの状況で名前など覚えられるわけがない。


相良良助(さがらりょうすけ)くんだよ。』


覚えている奴がいた。


「そのつもりだけど。部活もやってないし。」

もちろんジョンの声には答えない。


「その部活なんだが、お前この春から転校してきたんだろ?なんか部活やんないの?」


なるほどそういうことか。


「今のところはないかな。」


「なんだもったいない。せっかくなんだ、文学部入らないか?」


何がもったいなくてせっかくなのか分からないが、どうやら部活の勧誘らしい。たしかに右も左もわからない転校生は格好の獲物かもしれない。というかその体つきで文学部なのか。見た目ラグビー部かアメフト部としか思えないが。


「相良君は文学部なんだ。」


「そうだが、驚いたな。俺の名前しってたんだ。話したのは今日が初めてだよな。」


「そうだけど初日にみんな自己紹介したでしょ。相良良助君。ちゃんと覚えてるよ。」

そう言って無難な笑顔を作る。余計な軋轢(あつれき)は取り払っておきたい。


「そうか。記憶力いいんだな。って話がそれたが、どうだ。文学部。」


やはりこの体格で文学部というのもなんだかミスマッチな感じだな。さてどう断ろうか―


「そうだね。もう少しいろいろ見て決めてみるよ。」



別に部活に入る気はないが、こう言った方が誤魔化せるだろう。


「そうか。じゃあ特に興味があるものがなかったら文学部考えてくれよ。」


そう言って肩を叩き、彼は言ってしまった。印象としてもっと強引に進められるとも思ったが、案外すぐに引き下がってくれた。その辺意外と気を回すタイプなのかもしれない。まあ強引な勧誘が効果的でないことを彼は知っているだけだろう。

 その配慮に甘えて俺は帰るとしよう。



 そういえば―


『ジョン。お前よく知ってたな彼の名前』


俺はジョンに話かける。ちなみに俺は声を発していない。頭の中で言葉を発するイメージを作り会話する。このスキルは小学校卒業するころには習得できていた。人がいるときにジョンと会話する時にはこうするようにしている。超能力の世界ではそういうのをテレパシーだとか念話だとかいうらしいが、厳密に定義に当てはまっているのかは分らない。別に他人とコミュニケーションしているわけじゃないしな。


しかしどうも神経を集中するせいか、疲れがたまるのであまり長時間は会話できない。


『だって初日に自己紹介してたじゃん』


『いや普通それだけで覚えられない。』


ジョンは記憶力が俺より数段高かった。いったどこの脳細胞を使っているのか分からないが、俺が忘れていたり、分からなかったりすることがジョンには分かる事がある。よくいえばテストの最中にジョンに聞けば答えが返ってくることがある。これはこの「異常」の最大の利点と言っていいだろう。


『そういえば芥、部活はやらないの?』


『ああ、そのつもりだ。』


『なんで?前の高校みたいに卓球部には入らないの?』


そう俺は転校前の高校では卓球部に所属していた。


『君だって聞いただろ。この高校の卓球部は異常だよ。』


『そうかな。』


『いや、そうだろ。なぜ男子部員が3人しかいない。弦楽部とか吹奏楽部みたいな文化部ならまだしも、運動部である卓球部でその状態は異常だ。絶対何か問題があるにきまっている。』


そうなのだ。どうやらこの高校の卓球部には男子部員が3人しかいないらしい。それに対し、女子部員が15人と完全に女系部活動化している。この情報は転校してすぐ、部活動の資料を見せてもらった時に知ったのだが、その資料をみせてくれた教師からはなにか問題の匂いが感じられた。異常者である俺が異常な環境に身を置くなんて冗談ではない。


『まあそうかもね。それに去年この学校で行方不明者になった女生徒って卓球部所属だったと思うし』


『ん?ちょっと待て。行方不明って何だそれは?』


『あれ?芥しらなかったの?2009年12月23日にこの高校の女生徒が行方不明になったって新聞にのってたよ。芥だって読んだでしょ。』


『いや、一々覚えてないって。でも君が言うなら確かなんだろう。それはますます卓球部の異常性を裏付ける情報だな。』


『そうだね。そんな異常な所は僕も嫌だな。』

 



 『失礼ね!人の部活を異常、異常って言うんじゃないわよ。』




突然よく通る高い声が響いた。一瞬何が起こったかわからない。しかし今の声は明らかに俺やジョンの声ではない。ジョンも俺も声を失って、俺は周りをキョロキョロと見回していると後ろに一人の女生徒がこちらを睨んでみていた。俺と目が合うと何故か向こうもびっくりしたような表情を見せる。




 『えっと今もかして君が言ったの?』



試しに俺は心の声を発してみる。


『もしかして貴方。私の声が聞こえるの?』


それはこっちの台詞だ。

周りにいる生徒には俺の言葉が聞こえている様子はない。どうやらこの女子は本当に俺とジョンの会話が聞こえているらしい。


『君こそなんで俺たちの声が聞こえる?いやもう一人の声も聞こえているのか?』


『もう一人ってあなたがさっきから会話していた声の事?』


ジョンの声も聞こえているらしい。なかなかどうしてこれは異常事態だ。こんな事は今までなかった。それに驚くのももちろんだが、彼女の方は彼女の方で何か感極まったような表情を見せている。よく見ればその瞳はうるんでいて泣きそうである。


『すごい。私の声が聞こえる人がいた。信じられない。こんなことがあるなんて。』


彼女の方でもこの事態は異常なことらしい。


『あの、場所を変えて離さないか?』


ここは校門前である。そこで男子生徒と女子生徒が二人無言で見つめあっている姿はなかなか奇妙だろう。


『ええ。わかった。』


彼女はまだ感動冷めやらぬ状態だったが承諾してくれた。さてどこか人気のない場所は無いかと俺が思案しているときに今まで黙っていたジョンが発した一言は俺をさらに異常な状況へと突き落とすことになった。








『ところで君人じゃないよね?』


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