放課後はクラスメイトと会話
入部から3日目を迎えた。
さて、そろそろ有益な情報を得て行きたいところだ。
これまではどちらかといえば被害者本人からの情報しか得ていない。早いところ犯人(便宜上この言葉を使うことにしている。)を特定したい。だが、ゆらが俺から離れられない以上、警察が今どういった捜査状況なのか知る手段はないことになる。この3日で警察が訪ねてきた様子はないし、やはり犯人は外部の人間なのかもしれない。
それでも俺は内部犯を疑うしかないのだが、もしくは内部の者が犯人ではな決定的な証拠を掴むしかない。いや、そんなことになったら今度は外部犯を探せと言われかねない。まだ手の届く範囲に犯人がいてくれた方が楽だ。そんな人間が近くにいるというのはぞっとしないが。
「赤城君、どうですか部活動の方は。」
放課後、後ろの席の副生徒会長、飛鳥煌斗が話しかけてきた。
「そうだね、なんとかやってるよ。」
「そうですか。卓球部は男子部員が少ないですし、大変なことも多いと思いますが赤城君なら心配ないようですね。」
「そういえば、どうしてこの高校の卓球部ってあんなに男子部員が少ないんだ?」
女子部員が多いというより、男子部員が少ないのだ。それがあの男女比の極端な偏りを生んでいる。
「少し前までは男子部員も普通に在籍していたんですが…。」
飛鳥は続きの言葉に迷ったような顔をしていた。
「ああ、なんとなく聞いたよ。事件があったんだろ?」
「…ええ。せっかく卓球部に入部して頂いた赤城君に聞かせるようなお話ではないのですが。」
その顔は本当に申し訳なさそうで、悲しそうで、悔しそうだった。副生徒会長としては確かに忸怩たる思いがあるのだろう。
「じゃあ男子部員が大勢やめたのはその事件が原因なのか?」
「男子部員が一斉に退部を申し出たのがその事件の直後だったのは確かです。ですが…。」
飛鳥が言いたいことは俺にもわかった。
「事件が原因で退部するのが男子部員だけっていうのは不自然だよな。」
「ええ。まあ実際数人の女子部員は退部したのですが、男子部員の数が圧倒的に多かったですね。」
被害者が女生徒なのだから女子部員が大勢やめるのは分るが、男子の退部者が圧倒的に多いのはやはり不自然である。その辺りの理由をゆらは知っているのだろうか。
「すみません。本当に赤城君に聞かせるような話ではありませんね。もしなにか問題があるようなら気軽に相談してくださいね。」
彼は誘拐事件の事どう考えているのだろうか。その考えを拝聴してみたい想いは強いがあまり迂闊な発言をすると全て見抜かれてしまいそうな気がしてしまう。思案している間に彼は帰り仕度を済ませてしまったようだ。
「それではお先に失礼させていただきますね。」
良く見ると少しそわそわしている。足早に扉に向かう飛鳥だったが、そこに一人の女生徒が立っていた。
「あ、あれメーミちゃん。どうしたの?」飛鳥の知り合いのようだ。
「いいえ、煌斗さんに生徒会室まで案内していただこうと思いまして。」
相手の女生徒はこの場には不釣り合いとも思える上品な雰囲気と丁寧な言葉遣いをしていた。すごくにこやかに笑っているが、対する飛鳥の顔が優れない。
「き、今日は少し用事がありまして、帰ろうかと思っているのですが。」
「雲雀さんならもう雲雀さんならもう帰られましたよ。」
「そ、そんな…。」
「もう、そんなに落ち込まないでください。はやく行きますよ生徒会室。」
そう言って1年生と思われる女生徒はぐいぐいと飛鳥の手を引っ張って行ってしまった。あの様子だと生徒会室への道順も知っていそうな感じだが。
色々と人気の副生徒会長も大変なようだ。
『雲雀ってのは多分妹さんの名前ね。去年から彼が妹を溺愛しているって結構噂になってたし。』
後ろに憑いていたゆらが補足説明をしてくれた。
しかし、去年といえばまだ飛鳥は一年で妹は入学前だというのにそこまで噂になってしまうのがすごいな。
『さあ私達は早く部活行くわよ。』
お嬢様っぽい後輩に手をひかれる飛鳥に対して、こっちは幽霊である。全く異常だ。
俺は球技場へと向かう。