プロローグ
体が、酷く重い。
睡眠を満足に摂ることが出来なかった翌朝のだるさに似ている。
「ルマンデよ、そなただけが希望の光じゃ」
「ルマンデ様。ジュリアメーンデは、すぐそこまで迫っております」
人々は、ルマンデに声をかける。
ダイアモンドで出来た鎧兜を身に纏った彼は、水平線に沈む紅い太陽を凝視していた。
迫り来る夜の闇は、皆を抱き込もうと近寄って来る。
ルマンデは、すっと目を細めた。彼の美しい眼に、強い決意の炎が見え隠れする。
「アーリヤ」
「はい」
アーリヤは、彼のすぐ横に佇んだ。
崖の上にある、ルマンデ・ポウロ聖堂。
そこにアーリヤとルマンデはいた。
聖堂のすぐ傍にある王城に、サンマウド王国の住民が籠城している。
地表には数多の亜種族がうごめいていた。その光景を見てアーリヤの肌が粟立つ。
亜種族達を指揮しているのは……ジュリアメーンデ。
遠目からでもアーリヤにはわかった。ジュリアメーンデはアーリヤ達を見て笑っている。
アーリヤ達が劣勢に置かれているのは、火を見るより明らかだった。彼――ジュリアメーンデは、それを見て笑っている。
崖上まで追い詰められたアーリヤ達に、退路は残されていない。ここを落とされれば、サンマウド王国は滅ぶだろう。
「いたぶって、極限まで恐がらせてから攻め込む気だ。……ジュリアメーンデらしい」
ルマンデは皮肉めいた口調で呟いた。
「負けないわ! あんな奴になんて、絶対」
目に涙が込み上げてくる。
(ああ、駄目ね。走馬灯みたいに、過去が脳裏を横切って行く)
一滴の涙を零したアーリヤの手を、ルマンデは何も言わずに握ってくれた。
「…………勝とうね、ルマンデ」
「ああ」
アーリヤ達は、握り合った手を空へかざす。
――これは誓い。
ジュリアメーンデに勝ち、サンマウド王国に平和をもたらすという、大きな誓い。
青い月と白い月は、それを静かに見守っていた。