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生き延びるための価値

前線は、想像より静かだった。


いや、正確には――

「静かになる瞬間がある」だけだった。


魔族の襲撃と襲撃の合間。

血と土と焦げた匂いが残る、空白の時間。


「……水、もう残ってないぞ」


誰かの声に、ヒロは顔を上げた。


部隊は分断され、補給は途絶えている。

支給された携行食も、薬も、底をつきかけていた。


ヒロは、背嚢を下ろす。


(王国から渡された“価値”)


(わずかな金貨、保存食、衛生用品)


(……使うか)


前線では、誰も彼に期待していない。

剣の腕も、魔法も、突出していない。


でも――


ヒロは、地面に布を敷き、静かに能力を起動した。


《価値創成》


まずは、水。


金貨一枚分の価値を、魔力に変え

「この人数が、今日を越えるための水」に変換する。


次の瞬間、

革袋がいくつも、地面に現れた。

ヒロの感覚からすれば水は蛇口をひねれば出てくるもの


だが戦場において安全で清潔な水は価値のある資源である


「……水?」


兵士が、信じられないものを見る目で近づく。


「飲めるのか?」


ヒロは頷く。


「……普通の水です」


疑いながらも、兵士は口をつける。


「……うまい」


誰かが、息を吐いた。


次は、食料。


生きるためだけの保存食ではなく、

柔らかくて、満足感のある弁当やパンを出した

美味しく腹に溜まるもの。

コンビニで飽きるほど食べたありふれたもの


「戦場でこんな美味いものが食べられるなんて、贅沢だな」


誰かが笑った。


医薬品も出す。

包帯や止血帯それから消毒

即効性はないが鎮痛剤、感染を防ぐ薬。


そらが、自然に前に出る。


「重傷者はこっち」


《生命安定》が、静かに発動する。


治らない。

でも、容態は崩れない。


「……不思議な回復だな」


兵士が呟く。


「死ぬかと思った」


その言葉に、そらは少しだけ微笑んだ。


夜。


簡易的な焚き火のそばで、

兵士の一人がヒロに言った。


「お前たち、変な能力だな」


ヒロは身構える。


「でも……」


「助かった」


それだけだった。


称賛もない。

感謝の儀礼もない。


ただ、

“いてよかった”という事実だけが、そこにあった。


ヒロは、そらを見る。


彼女は、疲れた顔で、それでも穏やかに笑っていた。


「ね」


「ヒロの能力、悪くないでしょ」


ヒロは、小さく息を吐く。


「……英雄にはなれないけどな」


「うん」


そらは、あっさり言った。


「でも、生き延びる価値は作れる」


その夜、

ヒロは初めて思った。


(もしかしたら)


(この力は……)


本当に、無限の可能性があるかもしれない


その考えを、

すぐに振り払った。


まだ、怖かったからだ。


――この翌日、

彼は“それが嘘だった”と知ることになる。

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