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とある受付の話

 ギルドの朝は、静かだ。


 依頼書はすでに張り替えられている。

 血の匂いも、酒の匂いもない時間帯。


 受付の男は、帳面に目を落としていた。


 依頼は、どんなものでも失敗を想定する。

 無謀な狩人が死ぬのは、勝手だ。


 だが、魔獣が無駄に傷を負えば、暴れる。

 逃げる。

 被害が広がる。


 特に大型は、そうだ。


 だからこそ、依頼を受ける顔を見る。

 人数を見る。

 装備を見る。


 何度も死地を越えた人間は、だいたいわかる。


 その日、カウンターに置かれた紙には、赤い印が押されていた。


 大型。


 受付の男は、顔を上げる。


 二人しかいない。


 一人は、茶色の髪の青年。

 軽装だ。

 武器が見えない。


 もう一人は、耳の長い男。

 エルダー、と呼ばれる種族だったはずだ。


 エルダーは、叡智に富む。

 魔素回路が強く、魔法に長けている者もいる。


 装備が簡素なのは、まだ理解できる。


 だが――


 青年は、だめだ。


 軽すぎる。

 狩人の装いではない。


 後で装着するのか。

 それとも、隠しているのか。


 目を見る。


 落ち着いている。

 妙に、大人の目だ。


 それが、余計に危うい。


「メンバーは、これで全員か」


 受付の男は、淡々と問う。


「そうだ」


 青年が答える。


 即答だった。


 エルダーの男は、何も言わない。

 否定もしない。


 受付の男は、少しだけ間を置く。


 本来なら、ここで止める。

 別の依頼を勧める。


 だが、二人の間には迷いがない。


 失敗を考えていない顔だ。


 無謀な狩人は、説得しても聞かない。

 それも、受付の仕事のうちだ。


 男は、紙を受け取る。


 記録を付ける。

 日付。

 人数。

 名前。


 青年の名を聞いたとき、一瞬だけ手が止まった。


 だが、何も言わない。


「……戻らなかった場合は、三日後に調査を出す」


「好きにしろ」


 青年は、そう言った。


 軽い。


 受付の男は、依頼書を渡す。


 二人は、振り返らずに去っていった。


 夕方。


 受付の男は、別の記録を閉じる。


 掲示板の端を見る。


 赤印の依頼は、すでに外されていた。


 完了。


 失敗の札も、

 未帰還の印も、ない。


 受付の男は、何も言わず、帳面を閉じた。


 理解できない狩人は、時々いる。


 だが、生きて帰るなら、それでいい。


 ギルドは、今日も依頼を回す。


 それだけだ。


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