07:勝負にならなくない?
鉄壁の布陣と言うか、何と言うか。
えげつない計画が練られている。王家を見捨てて独立しようと計画していたら、王都の南側の領主様が不満を漏らしているのだそうで。
『北側だけで独立する? 南側を見捨てる気か?』
なのだそうで。
見捨てるも何も、そこまで手を伸ばせないだけです。無茶振りされても困りますって。
「クロプシュ公爵家は穀倉地帯ですからね。」
とティルデ様が言った。
「食料は重要ですもの。その上、北部の領は畜産も盛んでしょう? なので、確実に小麦と肉、そしてチーズが不足します。」
続いた言葉に納得しかなかった。
確かに食料は重要だ。
「今まで散々馬鹿にしていましたのにね。」
実に優雅にヴィクトーリア様は言った。
うん、言われてた。ウチも酪農にも力を入れているから、腹立たしかった事は忘れていない。
「こちらに味方する意思表示すらしていないのなら、黙殺かしらね。」
さすが騎士団団長の父を持つアンネリーゼ様。
言う事が違うわ。
「そうなると思いますよ。現状、そこまで手が回りません。」
私の言葉に3人が納得していた。
中々ゆっくりとお茶の時間すら取れなかったのが本当に申し訳ないくらい。色々と聞きたい事もあるのだろうけれど、沈黙を守ってくれている。
「王都を取り巻く形での独立のなりそうなの? 防衛ラインが長いと大変じゃないかしら。」
「そうならないように抱き込みはする予定です。ちょうどバカンスシーズンなので、人質のフリをして巻き込まれるのもアリかな? と。」
「邪魔者は情報持たせて王都へ返却がいいんじゃないかしら。」
「返却、ですか?」
「そうよ。だって、うるさそうだし、人数が多いとそっちに人が割かれるでしょう?」
確かに!
アンネリーゼ様って、軍略もいける人なのかしら。だとしたら、立案の方に抱き込みたいな。
「それはそうね。黙らせるのだったら、私がお話してもいいわよ?」
今度はヴィクトーリア様。
「軍略は得意ではないけれど、人を黙らせる程度の情報は持っているから。」
実に優雅に笑っているけど、敵に回してはいけない人なのだと改めて知った。
もしかして、結構好戦的なのかしら。
「女は大人しく言う事を聞いていればいいんだ、と頭がお花畑の人から言われ続けるとね、本当に疲れるのよ。」
「確かにそうですわね。軍門の家系は知略を巡らせるのは得意じゃないだろう、と小馬鹿にされましてもね? 戦略と戦術の違いを理解していない人に言われたくはないですわ。」
ヴィクトーリア様に続いてアンネリーゼ様まで。
私は戦略は苦手です。長期的に物事を考えるのは本当に難しくて。よくて戦術。でもそれすらも怪しい。出来れば、頭ではなく体を動かす方でお願いします! って感じ。
「王宮の方の情報、要ります? 文官の中に何人か知り合いもいますので、声をかける事も可能ですよ。」
「手紙だったら届けますよ。その為に庶民向けの商会だけは残したので。」
ヴィクトーリア様の言葉にティルデ様が反応した。
それって、もしかして………
「あ、気付きました? 王宮に物を搬入しているのではなく、定期的に商品を持って行っての小売りをしているのです。主に寮で、なのですが。」
「外まで買い物に出なくていいと騎士団の方は喜んでましたよ。」
「そう言ってもらえると有難いです。」
そうか、その線での情報も収集できるのか。
凄いな。その事に気付いていたから護衛もどきの親は婚約者に選んだのかも知れないな。だって、情報は有用だもの。
あ~この人たちが側近の婚約者になった意味が、嫌と言うほど理解出来た。ここまでの話をした事が無かったのを後悔したくらいに。
「現状で言いますと、ほぼ確定で北側は独立します。子爵領で話し合いがもたれた時点で3割くらいの賛同者がいました。そして、その数は増えています。ですが、領の位置の関係で難しい場所もありまして。」
「でしたら、王都を落としてしまえばいいのではないですか? 父ならその程度は可能ですよ?」
いや、アンネリーゼ様、その発言はちょっと問題があるのではないですか?
「大丈夫ですよフェリシア様。確か南にある公爵家は王家との血のつがなりが自慢です。確か、前国王陛下の弟でしたか。まぁ、その辺に押し付けてしまえばいいのです。」
ヴィクトーリア様、その情報!
そう、それを使うかどうかで話がまとまっていないんです!
「ですけど、代替わりしましたでしょう? 辺境伯閣下の方が血のつながりは近しいのでは?」
「だからですよ。だからこそ、その辺を煽ってですね?」
「確かにそうですねぇ………」
ヴィクトーリア様とアンネリーゼ様が二人で解り合っていたりするし。
「お二方とも参謀本部での会議に参加しますか?」
と思わず聞いてしまった。
いや、私には無理だな、と全く参加していなかったんだけど。
「いいのですか!?」
アンネリーゼ様はとても楽しそうだ。
ヴィクトーリア様もうれしそうだけど、アンネリーゼ様にはかなわない。
「私の担当は、物資の方なのでギルに伝えておきます。」
「フェリシア様! 今、物資、と言いましたか?」
「はい。戦いには重要ですよね?」
「そうです。気付かない方も多いのですが、行軍のスピードや戦意にも関わる重要な事ですよね。」
あ、ティルデ様はこっちの人だった。
そうだった。この人も商売人の家系。
「では、ティルデ様は私と補給ラインの話をしませんか?」
「いいのですか?」
「何故そう思うのですか?」
「だって、女が黙っていろ! と王都では言われてしまいますから。」
あー確かにそうだった。
でもここは辺境の地。普通に魔獣も出る。そして、魔獣が出れば男手が必要になる。そうなると残ったものだけで色々と回さないといけないんだよ。
「辺境のこの地ではそんな事はありません。出来るものが出来る事をしないと生きていけないので。」
王都に比べたら、確かに厳しい土地ではある。
けれど、そんな事に文句を言ったって魔獣はいなくなってはくれない。要するに、文句を言う前に動け! 土地なのだ。
「解りました。補給の事は任せてください。」
と言う事で、3人のみの振り方は決まってしまった。
でも、いいのかな? ご令嬢と言われる人たちなんだよ?