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06:収穫が終わったら?

「と言う事で、そろそろ近隣の領を攻めてから、独立を宣言する。」


 と言う事になったらしい。

 春蒔き小麦の収穫時期までもう少し。早めではあるけれど、攻め込んで略奪するのならちょうどいい時期かもしれない。

 食料の確保は重要だし………って、もしかして?


「そうだな、ウチの領は北に位置する。その意味が解るか?」


 逆にそう聞かれたティルデ様の一番上の弟くんはしっかりと理解したらしい。

 凄いな。この子って10歳くらいだよね? この時期の私って、お花畑の中で生きてたわ。


「はい。冬が来るのが早い、です。」

「と言う事は?」

「冬になって、雪の中の進軍は厳しいのでそれまでに終わらせる事が出来れば、時間が稼げる、でいいですか?」

「そうだな。冬の間は王都での社交シーズンでもある。なので、それまでに事を起こせば、一気に国中に広まる。」

「そうですね! 本当にそう思います。」


 そうなんだよね。

 だから、あの騒動が国中には広がってはいない。背びれや尾びれ、尾っぽまでついて泳ぎ回ってはいるのだろうけど、それはあくまで王都内での事。

 

 でも、それだけじゃないよね。

 私が入学する前から、秋蒔き小麦の実験をしてたしさぁ、本当に準備万全にしている気がするんだよね。でも、ウチの領は小麦はもう少し時間がかかると思うんだけどな。


「攻めるにちょうどいい時期は解るか?」

「農繁期、と書物で読みました。」

「そうだな。収穫期に専門職である騎士ならばともかく、農民は徴兵に応じないだろう。それだけで、数の差も大きくなる。」

「確かにそうですね。」

「それだけじゃない。他には?」

「その領の作物を奪掠(だつりゃく)する、でいいですか?」


 少し早くても、十分に食べられる時期の小麦を狙うんだろうな。

 何よりも主食だから、解り易いしね。落ちるのも早いと思うよ。


「ねぇ、もしかして………」


 確か、去年くらいから遅めの時期に実る小麦を作っているとか言っていた気がする。

 もしかして、その可能性があったからそうした、でいいんだよね? 早めだと無理だったらしいし。


「よく解ったな。公爵領は、そろそろ刈り取りは終わってる。」

「じゃあ、植える時期や品種とかも調整したの?」

「当然だろう? 公爵領は、さっさと戦を終わらせて、秋蒔きの小麦の準備を始めたいそうだ。」


 マジかー

 本当に、前々から計画していたのを理解してしまったわ。で、ウチの領や辺境伯領は、さっさと戦を終わらせて、小麦を刈り取りたい、と。


「学年末の試験も終わったし、学園の生徒も家に帰っている。バカンスに向かうのは北側も多いからなぁ?」

「あーそこも抑えるの?」

「違うな。そこで落ち合う、だ。」


 う~ん、そっちもなのね。

 巻き込まれた人は大変そうだけど、恨むのなら国王陛下を恨んでね。2代続けて婚約破棄は本気でヤバいからね? その事に気付けない傲慢さと、そんな息子を育ててしまった事を後悔すればいいと思うの。

 だってさぁ、跡取りではないからって、男爵家から嫁いだ王妃に侯爵家の令息とか令嬢とかが王宮で仕えるのよ? 身分制度のあるこの国で、いくら王妃だからと言って男爵家出身の令嬢に頭を下げないといけない令息や、顎で使われている伯爵令嬢とかさ、本当にかわいそうだと思うんだ。

 頭のいい、才能のある人だったら違うかもしれないけど、男性に媚を売るけど、女性は平気であごで使い、八つ当たりしまくっている話とか聞いちゃうとさぁ、恐るべきは宮仕えだと思うもの。


「王都ではそろそろ一部の物資不足が始まっているそうだから、今年はバカンスに向かう貴族が多いそうだ。」


 あーそう言えば、そうだった。

 リクスナー伯爵家の商会は、王都で売る商品を庶民向けのものだけに絞ったそうだし、ウチの家の商会は撤退した。

 現状、庶民向けの商品を扱う子会社だけを残してリクスナー伯爵家の商会は撤退したから、海の向こうの国の珍しいものは王都に無くなった。他の商会が無い訳ではないけれど、王都から遠い分、経費がかさむからあまり買い付けも盛んではないと聞いている。

 ウチの商会は、北側の国々の宝石とかを扱っていたから、それも無くなったしね。


 と言う事は、秋から始まる社交シーズンに向けてドレスや宝石の購入が難しくなる。外国製の珍しい布も大粒のダイヤも王都では売られていない。国内産の布も宝石も売ってはいるけれど、自慢にはならない。

 商会の儲けは確実に減るけれど、それよりも大事にしたい事があるから。

 とか格好のいい事を言ってみたい気もするのだけれど、ウチの商会は国外にも店はあるから問題は無いし、伯爵家の方も別の国に売れば問題は無いそうだ。

 逆に、北の国の商品を伯爵領から船で東の国に売る話も出ているし、その逆も然り。別に王都で売らなくても、他で売れれば問題が無いのが商売なのだ。


「もしかして、買い物をしにバカンスに来る?」

「可能性はあるだろう?」


 そうギルが言ったら、ティルデ様の弟くんは驚いていたんだけど。


「要するにね、社交をする為のドレスが作れなくなる訳じゃないけれど、自慢できるようなものが作れなくなるの。」

「自慢、ですか?」

「そうだな、見栄を張ってなんぼ、な所も貴族にはある。目新しい布や大きな宝石は現在、王都では手に入らない。」


 これが今回の策略のひとつ。

 王都で買えないのなら、買える場所にバカンスと称して移動する貴族を狙うのだ。


「多くの貴族を人質にしたら、騎士団は動くだろう?」


 そう言う騎士団の中にも裏切者は多くいる。

 むしろ、その方向で動いている。寝返るのではなく、最初から味方なのだ。






 卒業式が終わってから始まった年度末試験は終わった。その後、バカンスと称しての移動時間を見越しての決起となる訳なのだが………………


「勝負にならなくない?」


 と言いたくなるような布陣が確定した。



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